原視眼
空がようやく青みを現し始めた頃、久澄は壁に頭をぶつけた衝撃で目を覚ました。
「痛っー」
と言ってみたもののあんまり痛くはなかった。条件反射である。
アルニカはこの部屋に唯一あるベッドの上で寝ている。
それを確認して昨日は大変だったとしみじみ思う。
彼女はああいう性格なので自分が床で寝ると言い始めたが、女性を床で寝かせるのは彼の常識からして好ましくない。
意を決し、人様には見せるどころか聞かせることも出来ないような事をし、今に至るのである。
自粛しようと思ったばっかだったのに。
そんな感傷に最低限浸りながら久澄は部屋を出た。
向かった先は、ギルドメンバーが集まる際に使われるカウンター前。
久澄としては一番に来たつもりだったが先客が居た。
「やあやあ、昨日はお楽しみやったかい?」
ユーディだ。
「何処の宿屋の店主だよ」
今の時代でも通じる人には通じる不朽の名作のネタを投下した。
世界が違うため間違いなく不発に終わるだろうが。
「まあ、どの宿屋も若い男女が同じ部屋に泊まったら言う常套句やけれど」
予想とは違い別の意味で効力を発揮した。
……てか、この世界の宿屋嫌だな。
そんな思考を見透かしたのかユーディは人の悪い笑みを浮かべ言う。
「それは冗談やけれど、あんな凄いことをやっていたらな。そりゃ、言いたくもなるで」
久澄は固まった。呼吸すらしていないんじゃないだろうか。
それを知ってか知らずか更にたたみかけた。
「何で知っているのかやって? そりゃ、ウチが、いや、ウチらもこのギルドに住んでるからや。説明遅れて悪かったな」
ウチら、と言い直したと言うことは全員で見ていたと言うことだろう。
「え、えっとですね」
「あっ、噛んだ」
女性に怒りを覚えたのは久し振りだった。
表情には出さないが。
「とにかく、あれは説得のために行ったことで」
「説得ね……。説得だけで若い男女があんな事するんかい? まさかアルニカって君の専属奴隷?」
ユーディは笑みはそのままで訊ねてくる。
「いいえ、違いますよ」
この手のタイプには生真面目に対応すると痛い目にあうと知識として知っていた久澄はワンクッション挟み冷静に対処した。
(それにこのまま話を進めると俺の存在が十八禁になってしまいそうだし……いや、そもそもそんなにいやらしい事してないよな……)
ユーディは久澄が冷静に対処したことでここが引き際と感じたのか人の悪い笑みを引っ込めた。
久澄はユーディの前では決して弱みになることはしないようにしようと心に誓った。
「なあ、サイト、奴隷制度についてどう考える」
急な話題変換。
「さあ、この世界の奴隷制度についてよく知らないもので」
言ってから失敗したと思った。その言い方はまるで別の制度を知っているみたいな言い方だったからだ。
「ああ、そういえば記憶喪失やったな」
ユーディは気付かなかったようだ。
「まあ、奴隷の扱いは人権無視の強制労働や人体実験、魔物の危険度を測ったり自分たちの代わりに戦地に送り込み武勲を立てさせる事やな。あとは女性限定やが男の慰み者だったりな。
どちらにせよ酷い扱いや。まともな所に買われるのは百億分の一以下、奴隷を買うようなやつは大体ゴミの心を持ったニンゲンだからな」
どの世界も奴隷の扱いは対して変わらないようだ。
それにユーディは買う側の人間に対する嫌悪が半端ない感じである。わざわざ人間の部分を一字一字区切り嫌悪を乗せ言ったのがその証拠。
「それを踏まえた上で聞いてほしいんやけれど、奴隷の人生は買った者に渡される。なら買った後にそいつを解放するのはどうや」
平和な世界に生きる大体の人間なら一度は考える事。
この世界が平和かどうかは知らないが最低限ここよりは平和な日本で暮らしていた久澄も例外ではない。
しかしその案には穴がある。
「その案を実行するには奴隷を買わなければならない。けれど一人助けてしまえば他を確実に見捨てられなくなってしまいます。解放するにもその人に最低限の衣食住を用意しないといけないし、仕事だって探さないと。圧倒的にお金が足りない。それにその人が奴隷であった事実をどう消んだ? 中途半端に解放すれば待っているのは死だけだ」
そもそも奴隷一人を当たり前の生活に戻すにも様々な問題がある。
「案外正論で返すんやな」
ユーディは肩を竦めた。まるで論破される事が分かっていたかの様な表情だった。
この問題に関しては何か深い思い入れがあるようだ。勿論、それを訊くなんて愚行は行わないが。
「さて、会話もそこそこに、そろそろあいつが帰ってくる頃やな」
「あいつって?」
「ユーキや」
ユーキとは、久澄の記憶が確かならSSランククエストに一人で言ったという最後のギルドメンバー。
「そんなに早いもんなのか」
言外にあり得ないと告げる。
「いやいや、あいつは例外やからな」
「例外?」
だがその疑問がこの場で解決することは無かった。
話題の人が扉が開き姿を表したからだ。
「ふぅ、ただいま」
透き通る様な白い肌に白髪とは違う白色の美しい長髪の若い女性。よく見ると耳の後ろらへんで軽く髪が結われている。雪の精とも見れるような女性であった。しかも凄い美人。
「やあ、首尾よく終わったみたいやな」
「ええ。管理官たちの悔しそうな顔、見物だったよ」
「それはそれは。そや、今回のクエストの内容何やったんや?」
「ああ、竜が二匹街に迷い込んだからその退治」
「そか、そろそろ学習すればいいのに」
「ちゃんと調べてユーディの居ない時に来たみたいだけれど」
「ストーカーかいな」
「今も外に五十居るわ」
「--ちょ、ちょっと待って」
今までは二人の邪魔をしてはいけないと黙っていたが流石に我慢出来なかった。ツッコミどころが多すぎる。
「あら、新入り?」
「ああ。使えるで」
ユーキはその淡い白色に光る目で久澄を見た。
「あら、共鳴? って事は君、私と同じ『原視眼』の持ち主!? ユーディにしてはやるじゃない」
「「へっ?」」
二人揃って変な驚きの声を上げてしまった。
しかしユーキが言った事を証明するように久澄の左目もユーキと同じような淡い緑に光っていた。
「げんしがん?」
「そう、原子を視る魔眼、だから原視眼。自覚は無かったみたいね。魔眼何て生まれつき持っている事はなかなか無いんだけれど……」
魔眼。その単語には聞き覚えがある。
「自覚は無かったですけれど……原因については心当たりがあります」
「そう。今自覚したんならあんまり魔眼持ちだってことは公表しない方がいいわよ、いい思いはしないから」
ユーキはそう言い目を伏せた。
酷い目にあったことがあるのだろう。詮索はしないが。
しかし、
(魔眼か……)
久澄としては嫌な奴の事を思い出す。
だが同時に、実体験から魔眼は力になると知っている。
元の世界での目的を考えれば力はいくらあってもいい。
そう魔眼に対する考えを終えた久澄の耳にタイミングよくユーキの声が入った。
「ねぇ、ユーディ。この子一ヶ月借りていい?」
伏せていた目を上げユーキが宣言する。
「ウチに訊くなや。訊くなら本人やろ」
「まあ、ユーディに確認はいらなかったか。
後回しにして悪かったね、どうだい正しい魔眼の使い方と龍をも屠る強力な力、欲しくないかい?」
強力な力。それは今一番欲し、丁度考えていた事だ。断る理由がない。
久澄はメフィストフェレスの囁きに等しいその提案に一も二も無く頷いた。
「じゃあユーディ、後はたのんだわね」
「オーケー。けれど出来れば早く帰ってきてな」
「それはこの子次第ね」
「サイト、気合いやで」
各方面からプレッシャーを受けつつギルドを後にした。
アルニカはまだ起きてこなかったためユーディに連絡を任せた。
荷物は木刀のみ。ユーキにそう命じられたのだ。
「えっと、ユーキさん、何処に向かうんですか?」
「一応王都領地内何だけれど名前は無い所ね。だから人が入らない山奥とだけ説明しとくわ」
山奥。如何にもって感じだ。
「あー、ついでに人が入りこまない山奥の理由は魔眼の暴走による事故の犠牲者を出さないためよ」
「暴走……」
「そう。暴走したら基本的に助かる方法無いから殺すわね」
実に合理的な理由だ。
「ふむ。分かりました」
久澄としては納得せざる負えない。
「物分かりが早くて助かるわ。さて、時間が勿体ないね、少し走るが構わないかい」
走るのは得意分野だから異論は無いため頷く。
しかし不安要素がある。速くなりすぎてユーキが付いてこれなくなるなる場合はどうすれば。
「……構いませんが」
久澄は最悪アルニカと同じ様にすればいいかと考え了承した。
しかしその考えは甘かった。
街中では人が多いため準備運動程度のスピードでお互いに調節しあい、久澄はユーキの後に続き街の西側に位置する門から外に出た。
西に位置する街道は岩や石等で出来た崖や荒れ道に囲まれており整備された道は一本しかない。
そこにはただの一つとして障害となるものが無い。
二人の速度が上がる。
久澄はあくまでユーキに付いて行くという形なため一歩数十メートルの跳躍ダッシュでは無く、普通のランニングスタイルで走っている。
ユーキはちょくちょく久澄の表情を伺いスピードを調節している。
そして表情を見る限りお互いに余裕はある。
徐々にスピードが上がっていく。
心臓の音が強く感じられる。
呼吸が荒くなりまだ人間らしさを残している身体が痛みを訴える。
だがそれも数瞬、心臓から滲み出た人外の血液が筋肉を、臓器を強化し何かが抜けたかのように一段階全てが軽くなった。
荒かった呼吸も次第に収まり私生活に必要な呼吸音にまで下がった。
それに気付いたユーキは軽く目を見張ったが振り向かず何段階かスピードを上げる事で久澄に合わせた。
そのまま二人のスピードは人の限界を超える。
結果二十キロもの距離を一時間で走り終えた。
「まさか、そんな力を持っているとはね」
ユーキは息を荒げるどころか顔色一つ変えていなかった。
「はあ゛ぜえ゛、はあ゛ぜえ゛、はあ゛ぜえ゛−−−−」
対する久澄は疲労がピークに達し倒れ込み、荒い呼吸を繰り返していた。
街道のままならここまでにはならなかった。
問題は街を出てから一分くらいで脇道に逸れ人の手が余り入っていない道をペースを上げつつ走り、山に入ってからは三十分間坂道を走り続けた事だ。
色々なところが痛む。全身に力が入らない。
今日、明日で何時間寝ればいいのだろうか。不安だ。
「まあ、此処まで来るのに一日の予定だったからね。今日は休もうか」
元々答えが返ってくると思ってなかったのか特に間もあけず今日の予定を説明する。
まだ答えを返すことは出来ない。
ユーキはそんな久澄を一瞥し山奥へ足を進めた。
そこから数分かけ息を整えた久澄はそのまま気絶するように深い眠りについた。
意識が覚醒する。
視界の端に映る太陽は真上にあるから昼なのだろう。
「起きたかい」
聞き慣れない声に身体を起こし音源の方に向く。そこで久澄の記憶は繋がった。
「……ユーキさん。俺、どれくらい寝てました?」
「二日だね」
「そんなに……」
「そうでもないさ。前も言っただろうけれど此処まで来るのに一日はかかる予定だった。更に休み−−というより場慣らしにまた一日かける予定だったから特に不備はないさ」
「分かりました。お言葉に甘えます」
「理解が早いのはいいことだね。そうだお腹は減っていないかい? それなりの物は用意しているが」
お腹は減っていなかったが二日間何も栄養を摂っていないのは良くないだろう。
「是非ともいただきたいです」
そう言いながら久澄は先程から視界に映り込むそれに目を向けた。
ユーキの後ろに山のように積まれた熊や豚の様な生物たち。
(一人であんなに狩ったのかよ。しかも……)
生物たちには斬り傷も骨を砕いた跡も無い。
「どうしたんだい? そんな所で呆けられても困るんだけど」
ユーキはそれが当たり前のように表情を変えない。
相手を傷つけない程の力量差。
だがもしそれだけの力が手に入るのなら−−。
(一秒も無駄には出来ない)
久澄は師事を仰ぐためユーキが差し出した食料に口を付けた。
「さて、まずは原視眼について説明をするわね」
久澄が二日振りの食事を終えたのを確認しユーキはその場でレクチャーを始めた。
「原視眼は前に説明した通り、原子を見る魔眼の事よ」
「ユーキさん、魔眼って?」
「ああ、それも大切ね。魔眼というのは魔法の性質を宿した特殊な眼の事を指すの。魔眼もそれなりに種類があるけれど原視眼はその中で最弱の眼になるわ」
「最弱ね……」
その言葉は思わず嘲笑して仕舞うくらいに久澄にとって縁深いものだ。
「最弱であってもものは使いようで……そうね君の実力を見たいし、この眼の有効な活用法とかも見せたいから一戦交わしましょう」
久澄は了承の証に軽く首を縦に振り木刀を取りに行った。
構える。といってもダラッと手は下げたままだが。
「なるほどね……」
構えを見たユーキが呟いた。
「さて、来な」
ユーキの両目が白色に光った。
「……原視眼」
久澄の左目も共鳴反応を起こし緑色に光る。
それを合図とし久澄は走った。
一メートル辺りまで近付いたところでユーキの懐まで飛び込み切り上げる。
しかし、ユーキは飛び込んで来たところで素早く後ろに飛び退いた。
だが久澄も始めに地面についた右足でその距離を詰める。
「やるね。なら……」
そう言ったユーキの瞳に幾何学模様が浮かぶ。
その距離をセンチ単位まで詰めていた久澄の顔の前で小さな爆発が起きた。
間に合わないと感じながらもとっさに腕で爆発から顔を守ろうとしたが、案の定間に合いはしなかった。が、その爆発には威力は無く、ただ勢いを消す爆風だけが久澄を襲った。
その隙にユーキはまたしても距離をとった。
多分今のが原視眼の力なのだろう。
しかし、それぐらいで身体を休めるわけにはいかない。
だが飛び込んだら先程の二の舞を演じる事になる。
なら、と久澄は敢えて遠回りに走りユーキへと向かう。
その距離を再び一メートル辺りに詰めたところで先程と同じ小さな爆発が起ころうとするが、走りながらのため足は地に着いている。
小さくバックステップでかわし、また遠回りに走り込む。
全ては血を巡らせるため。
それを繰り返すこと五回。
最近使いすぎた所為か発動までに時間がかかったが確かにあの感覚が身体中を巡る。
しかしすぐに使うわけにはいかない。
素人目では当てにならないだろうがそれでもタイミングを伺う。
一回、二回と似たような行動をとり、三回目、今まで通り小さくバックステップでかわした。左足で着地したと同時にユーキの下へと飛び込んだ。
「なっ!!」
スピードは今までとは桁違い。
しかし彼女もかなりの実力者。不足の事態には馴れているようですぐさま爆発を起こそうとする。
だが、
(こっちの方が速い)
久澄はユーキに対して左手を伸ばした。
それに関しては力の片鱗も見せてはいない。
ユーキの体内で何かが巡る。
その所為で力を発動するプロセスに不備が生じたのか爆発は起こらなかった。
その間に久澄の右手が迫る。
それだけならユーキも対処が出来たであろう。
しかし久澄の右手には何も握られてはいなかった。
その右は手刀の形をとりユーキに迫っていた。
ここでユーキは武器の怖さを知る経験をしてきたからこそのミスを犯した。
長年の戦闘経験により武器が視界の外から迫ると判断してしまい反射的に木刀を探してしまったのである。
木刀は視覚上でも能力上でも発見できた。
久澄に隠れるように彼の後ろに落ちている途中であった。
一秒にも満たない時間。
しかしそれは実際の戦闘では、ましてや今の久澄を相手にするには致命的な時間。
その手はユーキの首の動脈辺りに軽く当てられた。
久澄は不敵に笑い、
「さて、一応全力でやったんですが」
「……ええ、面白いわ」
一拍遅れてユーキが答る。
その顔に、一筋の汗が流れた。
「原視眼はね原子を視るだけじゃなくてねその視た原子を操る事が出来るの」
実力の計測が終わり話題はあの爆発の事となった。
「全ては原子から出来ているでしょ。だから原子同士を掛け合わせたり、そこから無くしたり抜いたりすることで戦闘を行うの。あの動物たちも周りから酸素を抜いて酸欠で殺したの」
ユーキは死体の山もとい食料の山を後ろ指指した。
「便利なものですね」
正直な感想であった。こんな便利な力があれば普通なら平和的に化学力が上がっていくはずなのだが。ティラスメニアの化学力が低いのか、それとも便利な為に利用されるのか。
とそこである事に思い当たる。
「暴走って……何で起こるんですか?」
多分魔眼が疎まれる理由はそれなんだろう。でなければこんな便利な力を利用はしても差別する理由は無いだろう。
「力の制御が出来ない場合と精神が壊れる程のショックを受けたときね。両方に共通するのは自分の意識が眼に喰われる状態である事よ。そして暴走すれば周りにある、またはいるもの全てが消えるわ」
魔の力を使う者は魔に喰われる。そしてその力は個でなく全に広まる。
「けれど制御には余り時間はかからなそうね。何せちょくちょく力を使っていたのだから」
「? そうなんですか?」
自覚は無い。いや、言われてみれば思い当たる点が無くもない。確かに様々な所で視ていた。
「その表情は心当たりがあるみたいね。そうよ、君は原視眼を使っているわ。さすがに爆発を見切られた時はビックリしたけれどね」
てっきり血の力の影響かと思っていたのだが、思い返せばおかしな話だ。あくまで視力の強化のため爆発が起こることを察知するのは難しい。
なら、原視眼の力であろう。
「さて、制御法についてなんだが……こればっかりは君のセンスが関わっているわね。魔眼の扱い方は十人十色。一応アドバイス程度に私の制御法を教えておくけれどそれだけは覚えておいて」
「分かりました。それで……」
「そう急かさないで、ちゃんと教えるから。私はね正確には原子を視ていないの」
「どういう事ですか?」
「原子は全ての一に当たるもの。そんなのが一斉に視えたらどうなる? 脳は人のままよ、処理しきれず死ぬわ。まあ、それが力を扱いきれずってやつだけど……。だから私はリスト化して構成原子を曖昧に視ているの」
「曖昧か……」
それは少しヒントになった気がする。
頭に浮かんだ考えを形にするために早速行動に移す。
「魔眼ってどう発動すればいいんですか」
「そうだね、私が共鳴させてコントロールしつつ発動させるからその間に覚えてくれるかしら。発動したらどう視たいかを眼に意識して。視えれば合格ね」
「では、お願いします」
言われたユーキはその目を白く光らせ、瞳に幾何学模様を浮かべた。
意識を久澄へと向ける。共鳴し緑色に光っていた久澄の左目にもユーキと同じ幾何学模様が浮かぶ。
左目から大量の情報が流れ込んでくる。
意識が朦朧とする中で眼に一つの情報を送った。
イメージがうまくいったのか、予想通りユーキの輪郭をなぞるように緑のもやっとしたものが視える。
「すいません、ユーキさん、さっきの爆発やってもらえませんか」
ユーキは迷い無く爆発を使った。共鳴しているからこちらの感覚も多少は理解しているのだろう。
そしてまたしても予想通り爆発が起こる一瞬前に空気、正確には空気中に含まれた原子の揺らぎが発動された場所に起こった。
「……視えた」
「えっ!?」
久澄が眼に命じたのは対象を決め、その対象、対象から繰り出される事象の形の原子を曖昧に視たいという事。
まだ、ユーキみたいな細かい扱い方は出来ない。
ならせめて出来るのは前兆の視認。
それを聞いたユーキは驚いた。
それにたどり着くには原視眼の基礎を身につけないといけないはじなのに、その工程を抜かしそこに辿り着いたのだから。
早い。だが早すぎる。あの技を覚えるには原子を確実に視ることが出来なければならない。
だがこのスピードでこなせるのなら一ヶ月といわず半月でアレの一式までは覚えられるかもしれない。
(それにあの力たち……彼をこちら側に呼べるかしら)
様々な感情渦巻く心中を悟られないように気をつけながら、ユーキは一から全ての訓練を開始することにした。
一ヶ月後。
「まあ、一応及第点といったところね」
「ありがとうございました」
「どう、新しく手に入れた力は」
「何と言いますか……」
「何か納得いかないことがあった?」
「いえ、おおよそ満足です」
「それだけの力を持っても満足しないなんて傲慢ね。それが君の身を滅ぼすとも限らないんだよ」
「……心に留めておきます」
「そうしなさい。さあ、戻るわよ」
ユーキと久澄は風のような速さで下山を始めた。
二人が去った後には、動物の骨と抉られた大地しか残っていなかった。




