ストーカー、転生する。
綺麗な黒髪で、清楚な雰囲気。
猫っぽい目に、おっとりとした口調。
気付いた時には好きになっていて、
毎朝その女子大生を目で追うようになっていた。
駅から大学。
夜は危ないから1人暮らしのアパートまで送迎する。
…まぁ、向こうは俺のことなど知らないけど。
いわゆるストーカーというやつだ。
そんなフリーターのおっさんが、
異世界転生しました。
彼女の家から大学まで。
いわゆる聖地巡礼をたまにしている。
彼女には気づかれないようにこっそりと。
ストーカーとはいっても、そこら辺の犯罪者と一緒にしないでほしい。
俺は彼女に認識されたいわけでもないし、
何かを送りつけたり盗んだり、盗撮することなど一切しない。
ただ、彼女を離れたところから見守るのだ。
とはいえ、今日はハプニングが起きてしまった。
通学路で定期ケースを拾ってしまったのだ。
ないと困るよな。
早歩きすれば全然届けられる距離だが、話しかけるのは恐れ多い。
それに、時間と距離が開けば開くほど「こいつずっと持ってたの…?キモ…。」となりかねない。
ここは警察とか駅員さん辺りに届けるべきか。
とりあえずハンカチで丁寧に定期ケースを包み、カバンへとしまう。
と、顔を上げれば、彼女がこちらへ向かってきていた。
まさか、落としたことに気づいて探してる…!?
渡してあげたいがカバンから出すのは非常にまずい。
どう考えても怪しいだろう。
…ここは知らぬふりして通り過ぎるしか…。
「きゃああああ!!!!!」
すぐ近くで叫び声が聞こえた。
アイドルがいたとか、そんな黄色い声じゃなくて。
もっと焦ったような…。
そう、まるで殺人犯でも見たような…。
ドンッ。
衝撃があったと思ったら、俺の体は宙に舞っていた。
あれ?
なんで?
視界に通り過ぎようとしていた彼女もちらりと映る。
彼女もまた、俺同様に浮遊していた。
2人して、どうしたんだ…?
気付けば地面に倒れていて、ぴくりとも体が動かない。
…視界が薄れて、意識が遠のいていく。
あれ、もしかして俺、
轢かれたのか…?
「大丈夫ですか!?」
次に目が覚めた時には、見知らぬ褐色の男性がいた。
…病院、ではなさそうで、視界の奥には青い空が広がっている。
コンクリートジャングルなのに、こんなに空が見えるなんて。
そう思い横を見れば、見知った景色ではなかった。
草木が生い茂る森。
俺、さっきまで渋谷にいたと思うんだけど。
渋谷って森ないよな…?
周りを見ながら上半身を起こすも、男は話し続ける。
「起きてください!大丈夫ですか…!?」
「……いや、とりあえず目は覚めて…。」
「何があったんですか…!?」
「それは俺が聞きた…。」
「起きてください…!」
「起きてるって!!ってか食い気味なんだよ!さっきか、ら…。」
周りを見ると、誰も俺を見ていない。
さっきの男性も、俺の腹辺りを見ていた。
…え。
勢いよく立ち上がると、俺の下にはあの彼女がいた。
どうやら意識を失っていて、彼女が話しかけられていたようだ。
っていうかなんで俺、透けてんの…?
え、死んだ?幽体ってこと?
「一度、教会で診てもらいましょう…!」
彼女が馬車のような乗り物に乗せられ、団体は急いで馬を走らせていく。
え、待って。
俺どうすればいいの?
そう思ったのも束の間、俺の体は彼女の方へと勝手に吸い寄せられる。
…一体どうなってるんだ…?




