学園編
前回、謎の人物に声をかけられてしまったマリー。
その意外な人物は、この世界特有の個性の持ち主だった……?!
前とは一味違うストーリーをお楽しみください
第1章 魔法
頭上から、鈴を転がすような、それでいてどこか中性的な響きを持つ声が降ってきた。
顔を上げると、そこには眩しいほどの笑顔を浮かべた子が立っていた。
女の子?男の子?わからない……
淡い色の柔らかな髪に、宝石のようにキラキラした瞳。
初対面のはずなのに、その子は私の手をごく自然に取ると、そのまま至近距離まで顔を寄せてきた。
「初めまして! 私はリップ。昨日から君のことが気になって仕方がなかったんだ。あぁ、近くで見るともっと可愛いね……。ねぇ、私がお兄さんになってあげようか?」
(……え、誰!? 距離感バグってない!?)
困惑しながら、私は反射的にリップの頭上を仰ぎ見た。
そして、心臓が止まりそうになった。
浮かんでいた数字は、驚愕の「98」
(きゅ、98……!? 嘘でしょ、初対面でこの数値!?)
前世の営業先で、十年通い詰めても出せないような「全幅の信頼と好意」が、出会って数秒の子供から放たれている。
私は完全に気圧されて、しどろもどろになった。
「あ、ええと……初めまして、リップ……さん?」
「呼び捨てでいいよ、マリーちゃん! さっき困った顔してたよね? 安心して、今日から君のことは私が全力で守ってあげるから。魔道具工学なんて、私がいれば百人力だよ!」
リップの笑顔はどこまでも無邪気で、数字の通り、私に対する「守護欲」のようなものが溢れ出している。
……が、その横から冷え切った声が割り込んできた。
「おい、離れろよリップ。朝からマリーを困らせるな」
レオンだ。
彼は窓の外を見るのをやめ、心底嫌そうな顔でリップを睨みつけていた。
「あら、レオン。君、まだこのクラスにいたんだ? 相変わらず可愛げのない顔。マリーちゃんが怖がってるじゃない」
「怖がってんのはお前のその異常な距離感だろ。……チッ、お前、いつからマリーの知り合い面してんだよ」
「昨日、門で見かけた瞬間からかな〜?君みたいな置物とは違うんだ」
リップはレオンに対して、一切物怖じせずに言い返す。
どうやらこの二人、もともと知り合いらしい。言い合いのテンポが完全に「慣れている」それだ。
「ふん。……マリー、こいつに構うな。ろくなことにならないぞ」
「レオンこそ、マリーちゃんに変なこと教えないでよね? ほら、マリーちゃん、レオンの前の席より私の隣の方が楽しいよ!」
リップは再び私の方を向き、満面の笑みを作った。
その瞬間。
私の視界で、リップの頭上の「98」が、ふっと掻き消えた。
代わりに現れたのは、凍りつくような冷たさを感じさせる——「5」。
(……え?)
見間違いかと思って瞬きをする。
視線を戻すと、そこには再びキラキラと輝く「98」と、天使のようなリップの笑顔があった。
第二章 友達
「——席につきなさい。朝の会が始まるわよ」
眼鏡をかけた厳格そうな女性教師の第一声で、教室内は一瞬にして静まり返った。
リップは「また後でね、マリーちゃん」と、私にだけ聞こえるような甘い声で囁いてから、名残惜しそうに自分の席へと戻っていった。
レオンはといえば、相変わらず窓の外を眺めたまま。
……そして私の手元には、何もない。
やばい。マジで手ぶらだ。
周りの生徒は、机の上に方位磁針のようなものや、奇妙なレンズを並べている。
前世で言えば、商談に向かったのに名刺も資料もPCも忘れたような絶望感だ。
朝の会の連絡事項なんて、右から左へ抜けていく。
私の脳内は一限目の「魔道具工学」をどう乗り切るかの言い訳作成でいっぱいだった。
キーンコーンカーンコーン……。
無情にも朝の会が終わり、一限目のチャイムが鳴る。
教科書すら持っていない私に、後ろの席から低く冷ややかな声が届いた。
「おい、アジェンダ。……お前、本当に何も持ってないのか」
「……。悪い? 急に決まったことだもの、リスケが間に合わなかったのよ」
私が精一杯の虚勢を張って振り返ると、レオンは心底呆れたように鼻を鳴らした。
「魔道具工学は、道具がないと話にならないぞ。あいつに泣きついたらどうだ。守ってくれるんだろ? あいつ」
レオンが顎で示した先には、前の方の席から何度もこちらを振り返ってニコニコと手を振っているリップがいる。
リップの頭上には相変わらず「98」という眩しい数字が踊っているけれど、レオンの方は相変わらず。
「リップに迷惑かけられないわよ。……あ、先生が来た」
教室のドアが開き、白衣を着た、いかにも「技術者」といった風貌の男性教師が入ってきた。
その脇には、大きな木箱が抱えられている。
「えー、今日の魔道具工学は、実技の初歩だ。全員、配布するものがあるので今回はそれを使って作成しなさい。」
どうやら必要なものは今回、学校から支給してくれるらしい。
セーフ?良かった。自分で用意しなくてもなんとかなりそう。
「では、今回の授業は一応、新学期初授業になる。交友関係を掴むためにも、離席などは許そう。話し合いも可だが、私語は慎めよ。」
先生は話し合えると、そそくさと自分の作業を始めてしまった。
なるほどなぁ。自由ってことか……。
私は胸をなでおろし、配られた小さな木箱を開けた。
中には、不規則にカットされた水晶の欠片と、銀色の細い針金、そして何かの回路のような模様が刻まれた粘土板が入っている。
「……なんだこれ。マニュアルは?」
思わず前世の癖で、手順書を探して箱の底を覗き込む。
すると、案の定というか、お約束というか。
「マリーちゃん、困ってるね? 大丈夫、これはね、『魔力集積回路』の基礎だよ。私が全部エスコートしてあげる!」
前方からワープしてきたかのような速さで、リップが私の机に身を乗り出してきた。
相変わらずの満面の笑み。頭上の数字は「98」。
……が、そのすぐ後ろには。
「……リップ、お前自分の席はどうした。離席はいいが、自分の課題を終わらせてからにしろ」
レオンが椅子をガタつかせて立ち上がり、私たちの間に割って入った。
レオンは私の箱の中身をチラリと見ると、鼻で笑う。
「マリー、そいつに頼るな。リップのやり方は感覚的すぎて、お前みたいな初心者には向かない。……針金をこう巻くんだ。抵抗値を考えろ」
「ちょっとレオン! 最初に抵抗なんて教えたらマリーちゃんが退屈しちゃうでしょ? 水晶に直接魔力をぶつけた方が、反応が早くて楽しいのに!」
「それで暴発したらどうする。……いいかマリー、まずはこの粘土板の……」
二人とも、親切心(?)からだろうけど、教え方が真逆すぎて頭い。
その瞬間、リップの「98」が再びふっと消え、あの「5」という数値がレオンの方へ突き刺さるのを私は見た。
(……この二人の間にある「空気」、やっぱり普通じゃない)
リップが、私の隣でそっと肩を寄せてきた。
リップは私の手を取り、その細いが、少しガタイの良い大きな指を私の指に重ねた。
「あ、あのさ。すこし失礼かも知らないけど、リップは女の子?男の子?」
リップはなんと答えるのか……これで相当対応は変わるんだけどな……。
女の子だった場合も男だった場合もとくに扱いを変えるつもりはないけど、だからと言ってどっちかわからないのもムズムズする。
「マリーちゃんの好きな方でいいよ?」
「……え?」
思わず問いで返してしまった。どういうことだ?どちらでもないってこと?
「おまえ、本当に何にも知らないのか?」
鋭い口調が耳を伝う。
何も知らない?どう言うことだろう。きょとん、とした顔をしていたらすかさずレオンが加える。
「あのなぁ、この世には男性、女性、中性がいるだろ?」
「ち、ちゅう?なにそれ……初めて聞いた」
その途端、高らかな笑い声が聞こえた。
「あっはははは!マリーちゃん、君は本当に面白い子だね!いいよ、教えてあげる。他にもいろんなこと。ね?」
なぜか粘着質な感じに背中がゾクっとする。
「おまえ、キモいぞ……」
引き気味のレオンにリップはなにも動じていない。この状況に完全に置いてけぼりになっていた。
あぁ、おばさん、助けて…
「あ、一応私は中性っていう性別だよ?」
なるほど。だからトイレが3つあったのか……!
「全人口の3%しかいないみたいだけどねぇ〜。」
「へ、へぇ〜……」
ぎこちなく返事を返すと、リップが私の隣で楽しそうにクスクス笑った。
カーン……カーン……
時計?
いけない、あと授業が10分しかない!なにも手をつけていないし終わる気配がない……!
「できないなら、今日は見てるだけでいいよ。私が代わりに完璧に組み立ててあげるから。マリーちゃんは私の横で、ニコニコしててくれるだけで『合格点』だよ♪」
「……それじゃ授業にならないだろ。マリー、お前もだ。一回でできるわけないだろ。……ほら、貸せ」
今まで黙っていたレオンが私の手から水晶をひったくるように奪い取った。
彼は不器用な手つきで、私の代わりに銀の針金を水晶に巻き付け始める。
「……今日中に、一回くらいは『反応』させろよ。じゃないと、単位が落ちるぞ」
「単位」という言葉に、前世の社畜センサーが過剰に反応して、心臓が跳ねた。
リップは私の肩を抱き寄せて「大丈夫だよぉ」と甘やかし、レオンはぶつぶつ言いながら私の課題を手伝ってくれている。
周りの生徒たちが「できた!」と晴れやかな顔で教室を出ていく中、私の箱の中身は、配られた時とほぼ同じ「ただの石ころ」の状態だ。
(……ああ、この感覚。プロジェクトで一人だけ進捗が遅れて、周りが帰り支度を始めた時のあの絶望感だわ……)
先生が教卓で「ベルモント。お前は今日、放課後に実習室で居残りだ。合格が出るまで帰さんぞ」と、無慈悲な宣告を下した。
「マリーちゃん、元気出して! 私が付き合ってあげるから。二人きりで、じっくり、一から教えてあげる。ね?」
リップが私の肩に顔を寄せて、とろけるような笑顔を向けてくる。
でも、実習室で二人きり……という言葉の響きになぜか背筋が凍る。
「……おい。二人きりなわけないだろ。俺も残る」
レオンが椅子を蹴るようにして立ち上がった。
彼は私と目を合わせないまま、カバンを乱暴に机に叩きつける。
「リップに教わってたら、明日になっても石一つ光らないぞ。……俺が、効率的なやり方を叩き込んでやる」
「ちょっと、レオン! マリーちゃんは疲れてるんだから、スパルタは禁止だよ。まずはハーブティーでも飲んでリラックスしてから……」
「そんなことしてる間に門が閉まるだろ。マリー、行くぞ」
腕を引こうとするレオンと、腰を抱き寄せようとするリップ。
私は二人に引きずられるようにして、放課後の教室へと向かうことになった。
「ちょっと、リップ! 先生が呼んでるわよ、さっきの提出物の件だって」
同じクラスの女子生徒が実習室に顔を出した。
リップは「えー、今いいところなのに」
と不満げに頬を膨らませたが、先生の呼び出しとあっては無視できない。
「すぐ戻るから、変な男に騙されちゃダメだよ、マリーちゃん!」
リップはレオンを指差してそう言い残すと、パタパタと廊下へ駆けていった。
嵐が去ったような静寂。
実習室には、私と、数字の見えない少年・レオンの二人だけが残された。
「……。おい、こっち見ろ」
レオンが椅子を引いて、私の隣の席へついた。
相変わらず不愛想だけど、その手つきは驚くほど丁寧だ。
彼は私の手から水晶を取り上げると、銀の針金をゆっくりと巻き直していく。
「お前……もしかして、本当に『基礎』も知らないのか。ベルモントの教育はどうなってんだ。……いいか、魔力ってのは力むもんじゃない。お前の今の顔、締め切りに追われてるみたいで見てらんないぞ」
(図星すぎて、ぐうの音も出ない……!)
レオンは私の指をそっと水晶に添えさせた。
「いいか、呼吸を合わせろ。俺が流すから、その『流れ』をなぞってみろ」
レオンの指先から、ひんやりとした、けれど澄んだ水の流れるような感覚が伝わってくる。
でも、やっぱり上手くいかない。
レオンに触れられている緊張感と、今日一日の疲れ。そして何より、「なんで私だけできないの」という焦燥感が、心の中でドロドロとしたヘドロのように渦巻く。
「……ダメ。やっぱりわかんない。もう、なんでこんな……!」
(前世でもそうだった。みんなが当たり前にできることが、私だけできない。会議の準備も、要領の良い立ち回りも。なんで、なんでいつも私だけ居残りなのよ――!!)
「うるさい! 黙ってて、この石っころ――!!」
叫びながら、私は溜まりに溜まった感情を、叩きつけるように水晶へ押し込んだ。
パシッ……!!
その瞬間、実習室が真っ白な光に包まれた。
レオンが身を引く。
私の手の中にあった水晶が、夕日のオレンジ色を飲み込むほどの鮮やかな輝きを放ち、実習室の壁に設置された他の魔道具までが共鳴してガタガタと震え始めた。
「……光った?」
呆然とする私の前で、水晶はパチパチと火花を散らしている。
横を見ると、レオンが髪を掻き乱しながら、見たこともないほど動揺した顔で私を見ていた。
「……お前……。今の、なんだ。そんな無茶苦茶な流し方……」
「え、ええと、これは……その、やる気?」
「やる気で済むか、馬鹿! 出力が異常だろ!」
レオンが椅子を蹴りそうな勢いで立ち上がり、私の顔を覗き込む。
「レ、レオン…ちょっと!」
あまりの近さにドギマギしていると、実習室の重い扉が、音もなくスッと開いた。
「——ただいま。……あれ? 何か、お祝い事でもあったのかな」
リップが帰ってきた。
ぶっちゃけ、この状況だけ見られたらやばい。
男子が女子の……「距離が近いんじゃない?レオン。」
(ですよねぇ〜。)
リップはレオンの袖を力強く引き、私から引き離す。
「合格だ。さっさと帰りなさい」
背後から響いた先生の事務的な声が、凍りついた空気を強引に切り裂いた。
「せ、先生?!いつのまに……」
リップのレオンを掴む手が緩む。
「あ、先生! 見てください、マリーちゃんがこんなに綺麗な光を出したんですよ♪」
リップは一瞬でいつもの笑顔に戻り、私の手元を指差した。
先生は私の作った暴走気味の回路をジロリと一瞥し、短く「……出力過多だが、初回にしては上出来だ」とだけ評して、片付けを始めた。
良かった……。
私は逃げるようにカバンを掴み、ワープ指輪をはめ直した。
「じゃ、じゃあ二人とも、また明日ね! 迅速にクローズさせていただきます!」
レオンは相変わらず「無」の表情で背を向け、リップはいつまでも満面の笑みで手を振っていた。
視界が歪み、再構築の感覚とともに、私はベルモント家の冷ややかな廊下へと滑り込んだ。
「はぁ……。初日からアジェンダが崩壊しすぎて、もうHPがゼロよ……」
私は冷たい床に大の字になり、深いため息をついた。
明日はどんな嵐がまっているのやら。
第三章 整理
「なるほどねぇ。」
1人、部屋の机に向かって独り言を放つ。
リナが入れてくれた、冷めかけのハーブティーをすすりながら、慣れた手つきでメモ帳を開いた。
小鳥のさえずりをBGMに、これまであったことを整理する。
「たくさんのことがありすぎてリスケが追いつかないわ……」
リップ、レオン、伯母。遡ればもっと色々な人物に出会っているだろう。
マリーは綺麗な丸をフリーハンドで2つ描いた。
一つの丸には「レオン・サパーンド」
もう一つには「リップ」
「レオンとの出会いは、約一ヶ月前か。」
実に懐かしい。たったの約一ヶ月、たくさんのことがあったせいか、とても前のことのようだ。
「最初に会ったのは夜会パーティーの時。」
マリーはレオンと書かれた枠に、数字が見えない、と書き加える。
(彼は異質すぎる。警戒が必要だな。)
裏路地のことは、丸の外に書き加える。
「武術でも習っているのかしら。」
あのナイフの男の子を追い払う手つきは、まるで初めて戦う人ではない、スラスラと綺麗な動きだった。
それに、あのタイミング……。
「私が刺されて、絶体絶命の時にレオンが来た。都合が良すぎじゃない?」
自分の身に起こった出来事でも、不自然に感じてしまう。彼はなぜ裏路地に寄ったんだろう。
(考えていたらキリがないわ。次に行こう)
そして次にリップだ。
「『リップは中性で、数字が非常に高い。しかし、特定の時のみ数字が格段に下がる。』っと。」
リップも、なかなかに不思議な人物だ。
何を意図して行動しているか読めないことが多い。
それに、レオンとの関係値も忘れてはいけない。
「たしか、リップとレオンが出会ったのは2歳の時。8年前か。」
(ふーん、まぁまぁ長い付き合いね。その割には……)
どうも仲が良さそうには見えなかったんだが……。
三人で話す時、あの2人の空気感はどこかおかしい気がした。8年の間に何かあったのだろうか?
いや、しかしレオンとリップの仲が悪いなら給食は一緒に食べないか。
(なんだか、勝手に人を分析していると、悪いことをしている気分になってくる……)
二つの丸を貫通するように、一つの矢印を書き、そのことをメモする。
「『不穏な雰囲気』でいいか。」
そういえば、リップは距離感も異様だ。
「『距離感が近すぎる』か、まぁ、書いておこう」
こんなふうに独り言を言いながら整理するのは久しぶりだ。こんなに冷静だった時はないが。
(いっつも泣きながらやってたっけ?)
それはさておき、リップに関してはまだ終わっていない。
あの、格段に下がる数字……、ある一定の時に下がっているのだろうか。
「マリーの数字が下がる時の規則性を探る必要がありそう。流石に5になったタイミングを全て覚えているわけではないし、観察が必要ね。」
5になる規則性……。そう言えば、この数字は実際のところ、何を表しているのだろう?
(気持ちの表れ……?)
今までそう考えてきたが、もし、全くの別物だとすれば?
「これは、わからないことの方が多そうね。」
それに、最近はあまり目立っていないが、この数字が0に近づくことは、死に近づくということを忘れてはいけない。
「リップって、数字が5になるとき、毎回死にかけてるってこと?!」
整理してわかりやすくするつもりが、新しい疑問が生まれてもっと複雑になってしまった。
数字の表すこと、リップの数字の規則性、レオンの数字が見えない理由……
「わっかんね〜」
決してお嬢様から出てはいけないことばが出てしまった。1人だから、問題はないか。
「あっ」
ある重要な人物を忘れていた。
もう一つ、丸とは違う図を描き、その中央に「おばさん」と書いていく。
すっかりここの生活にも慣れてきたが、伯母については、長く関わっている割にそこまで彼女のことを深く知らない気がする。
(おばさん,本名も知らないわ……)
このように真面目に冷静な時に振り返ると,彼女も謎が多い人物である。
「私が転生者であることを、説明せずとも理解していた。そしてあの知識量……」
そう言えば入学当初、私が生徒代表にさせられそうになった時、誰かが「ねえ、ベルモント家のマリーさんなんてどうかな?家柄も素敵だし」みたいなことを発言していた気がする。
「ベルモント家」は、どんな一族なんだろう。
メモ帳のおばさん、と書いた枠に、ベルモント家について知っていることを箇条書きで表していく。
3つくらいしか少なくとも今は思いつかないな。
自分の家柄をこんなにも理解できていなくて大丈夫だろうか……。
「今度、おばさんに聞こう。」
あとは、この世界全体のこと。別に世界の歴史を知りたいわけではなく、授業で出てきた魔法や、中性など、この様子ではまだまだ知らないことが多そうだ。
今日出た問いを、メモ帳の余ったスペースに書いていく。
チェックマーク方式で、その問いが明らかになったらチェックをつけよう。その方がミッションを達成する感覚で楽しめる。
今日出た問いは主に8つ。
・自分の家柄。
・おばさんについて。
・数字が表していること。
・リップの数字が5になる規則性。
・レオンとリップの関係値。
・リップはなぜ数字が高いか。
・レオンの数字が見えない理由。
・地球と今の世界の違い
「うーん、わからないことが多過ぎるわ。」
(でもまぁ、整理できただけいいか。)
「今日はもう、寝ようかしら。」
この体で夜更かしは毒だ。
(夜更かしなんて、何歳になっても苦だけれど)
マリーはベットに横になり、瞼を閉じる。
視界には何も映らないのが、逆に安心する。明日もまた、騒がしい生活がやってくる、そんなことを思いながら、眠りについた。
第四章 賑やかな日常
コンコン、とドアの音が、ほぼ無音の部屋に響く。
「朝ですよ、マリー様。」
先程まで夢の中にいたというのに、その一言でひょいっと現実に呼び戻されてしまった。
「今起きます〜。」
テキトーに返事をし、もう一度ベットに潜る。ズボラなのは転生しても治らなかった。
5分くらい経ってしまった。そろそろ起きないと朝の余裕がなくなる。
そう思い、制服に着替えるためにベットから降り、鏡を見ながら髪をとかす。相変わらずボッサボサだ。
(癖っ毛なのは母に似てるなぁ)
アイロンなんてせずとも勝手に巻き髪になるものだからここまでくると逆に便利だ。
簡単にハーフアップを済まし、いつものでっかいピンクリボンをつける。
これだけでも「いいとこのお嬢さん」感は出せる。
部屋を出て、広い廊下を歩き食卓へ向かう。
有能な召使であるリナは料理も出来るのか、毎日美味しい狐色のパンを出してくれる。
甘い砂糖の匂いを嗅ぎながら口に含むと、一流シェフも顔負けのレベルだ。
(一流を食べたことないけど……)
そんなにゆっくりしている暇もないので、指輪をつけて身だしなみをチェックする。
そのとき、伯母が声をかけてきた。
「マリー、学校はどう?」
安直な質問に少しだけ安心すると、昨日あった出来事を話した。
「強烈な自己紹介の次にそんなことをしちゃうなんて、マリーは本当におもしろいわね。でも、この世界のことを話していなかったのは謝るわ。ごめんなさいね。」
この世界について知らないせいでレオンにどれだけ見下されたか……。リップには爆笑されるし。
そんな思いをグッとこらえ、
「大丈夫です。わからないことがあれば聞きますね。おばさんも今度から教えてください」
と発言したのは今日で一番偉い行動だっただろう。
「マリーさん、そろそろお屋敷を出ないと学校でみなさんと喋る時間がなくなります。」
時計を見ると、出る予定だった時刻から3分ほど遅れていた。
急いでいってきますを言い、指輪のボタンを押す。
目の前が真っ白になり、いつもの不快感に襲われながら学校に到着。
ワープの余韻で胃がひっくり返りそうな感覚を堪え、私は巨大な校門を見上げた。
……名前は、そう。ルエルなんとか学校。
「マリーちゃーん! おはよー!」
校舎へ続く並木道を歩き始めた途端、背後から弾んだ声が飛んできた。
振り返る暇もなく、右腕に柔らかな、けれど意外としっかりとした重みが絡みつく。
「リップ! 朝から元気ね……」
「だって、マリーちゃんに会えるもん。ねぇ、見てよ。今日のために髪、少し整えてきたんだ。触ってみる?」
リップは私の肩に頭を預け、上目遣いで覗き込んでくる。
頭上の数字は相変わらずの「98」。まぶしい。朝の太陽よりまぶしい。
ふと、昨夜のメモを思い出す。
(中性……。見た目は美少女寄りだけど、腕力は男の子。)
「こら、リップ。あんまりくっつかないで。歩きにくいじゃない」
「えー? いいじゃん、私たちは『お友達』でしょ? それに私、女の子みたいなもんだし。ね?」
リップはクスクス笑いながら、私の耳元で囁く。その距離、わずか数センチ。
心臓が不規則な鼓動を刻み始めるのを必死で無視していると、前方から氷点下の視線が突き刺さった。
「……朝から盛大にバグってんな、お前ら」
校舎の入り口に、レオンがいた。
壁に背を預け、腕を組んでこちらを睨んでいる。
相変わらず彼の頭上には数字がない。
まるでそこだけ、世界が描かれるのを忘れたみたいに。
教室に入ると、窓から差し込む朝の光と、生徒たちの話し声が心地よく混ざり合っていた。
(……。あぁ、平和。この『何も起きない朝』が、前世の私にはどれだけ贅沢だったか。誰も怒鳴ってないし、コーヒーの飲みすぎで胃が痛くなることもない)
私は、レオンに貸し付けられた――もとい、強引に渡された――予習用の資料をパラパラと捲りながら、自席に座った。
後ろの席では、レオンが相変わらず不機嫌そうな顔で椅子を引いて座る。
「おい、アジェンダ。そこ、間違えるなよ。……さっきのワープ酔いで頭がバグってんなら寝てろ」
「大丈夫よ。これくらい、前世の徹夜明けの報告書作成に比べれば余裕だわ」
「は?」
私がフンと鼻を鳴らすと、前の席から「マリーちゃん!」とリップが振り返る。
「レオン、朝から小言はナシだよ。ねぇマリーちゃん、今日の午後の実習、また私がエスコートしてあげようか? 二人で一つの回路を作るのも、親睦が深まっていいよね」
リップは頬杖をつき、数字を「98」に輝かせながら微笑む。
彼がそうやって笑うと、クラスの女子も男子も、どこかソワソワした空気を出す。
時間はゆっくりと過ぎていく。
一限目の歴史が終わる。
二限目の基礎魔力論。
(……。なんだろう。あまりに『出来すぎた』日常すぎて、時々不安になるわね。……これもメモ帳に書いた方がいいかしら。)
食堂へと向かう喧騒の中、私は自分の「視界」に映る情報の不備を修正しようと躍起になっていた。
(よし、今日はこの前書いた、メモ帳の「リップの数字」について観察するわよ……!)
隣で「今日のスープ、マリーちゃんの瞳と同じ色ならいいのに」なんて、前世なら即座にハラスメント窓口に通報されるレベルの甘言を吐いているリップ。
彼の頭上の「98」という数字が、時折、瞬きをするほどの短い間だけ、ノイズと共に一桁台へと急落する。
最初は、ただの接触不良だと思っていた。異世界転生特典の「眼」の不具合だと。
けれど、その「下がるタイミング」には、まだ何の規則性も見いだせていない。
「マリーちゃん、どうしたの? 難しい顔して。午後からの実習、不安?」
「……。いいえ、ちょっと考え事。大丈夫よ」
私は歩きながら、意識的にリップから視線を外してみた。
窓の外の庭園を見る。すれ違う見知らぬ生徒の数字(42、55)を確認する。
その間も、背後や隣にいるリップの気配は感じる。
(視線を外す。これで下がるなら、原因は『視覚』……。でも、下がらない?)
チラリと横目で確認すると、彼は相変わらず「98」を背負って笑っている。
仮説1:『視線を外すと下がる』は、ハズレ。
「おい、アジェンダ。……ぼーっとしてると、その派手なリボンをドアに引っ掛けるぞ」
前方から、低い声。レオンが、教科書を小脇に抱えてこちらへ歩いてくる。
相変わらず彼の頭上は空っぽだ。何も映っていない「無」。
「レオン、お疲れ様。……ねぇ、ちょっといいかしら」
私はあえてレオンの隣へ移動し、彼と並んで歩き始めた。
8年前から今までにかけて何があったか聞けるかもしれないし、一石二鳥だ。それに、自然とリップとの間に、レオンという「遮蔽物」が挟まる形になる。
その瞬間。
背後で、「ザザッ……」という、古いテレビの砂嵐のような音が耳の奥で鳴った気がした。
「……っ!」
反射的に振り返る。
そこには、一歩遅れて立ち止まったリップがいた。
彼の「98」が消えている。
代わりに、掠れた文字のような「5」が、彼の頭上で力なく明滅していた。
「リップ! 大丈夫!?」
私はレオンとの会話を放り出して、リップのもとへ駆け寄った。
隣にいたレオンが「おい、アジェンダ!」と呼び止める声が聞こえたけれど、今はそれどころじゃない。
「リップ、しっかりして! 顔色が悪いわよ!」
私が彼の両肩を掴んで、その顔を覗き込んだ——その時だった。
(……えっ?)
一瞬、視界が二重にブレた。
目の前にいるのは、いつもの華奢で綺麗なリップ。けれど、そのシルエットのすぐ内側に、「もう一人のリップ」が重なって見えた気がしたのだ。
今、肩を掴んでいる感触は柔らかい女の子のものなのに、視覚の端に映る重なった影は、もっと骨格がしっかりとした「男の子」のラインをしている。
(なに、今の……。二人が重なってるみたい……?)
パチリ、とカメラのピントが合うように、視界のブレが収まる。
耳鳴りのようなノイズがスッと止まり、それと同時に、彼の頭上の「5」が、魔法のように弾けて「98」へと跳ね戻った。
「……えっ? あ、マリーちゃん……」
リップは少しぼんやりとした表情で私を見つめ、それからゆっくりと瞬きをした。
さっきまでの消え入りそうな、あるいは「混ざり合っていた」ような不気味さはどこへやら、いつもの血色の良い、可愛らしいリップの顔に戻っている。
「……ごめんね。なんだか急に、頭の中が真っ白になっちゃって。でも、マリーちゃんが呼んでくれたから、もう大丈夫」
リップは私の手をそっと握り返し、安心させるようにふわりと微笑んだ。
その手のひらは、さっき重なって見えた「男の子の影」を思わせるほど、意外なほどしっかりとした力で私を繋ぎ止めている。
「……。本当になんでもないの? 今、なんだか変な感じがしたけれど」
「ううん、本当になんでもないんだ。……こうして、マリーちゃんが私を見ててくれれば、それだけでいいの」
リップはそう言って、甘えるように私に体重を預けてきた。
「……ったく。心配させやがって」
後ろから追いついてきたレオンが、呆れたようにため息をつく。
(……。今の二重に見えたの、中性っていう体質のせいかしら。それとも、私の眼がやっぱり疲れてるの……?)
思考を巡らせる。ひょっとして……。
仮説2:リップ、多重人格説
(私がレオンなどと話し、注意がされた時、男のリップが出てくる…みたいな?)
メモ帳には、チェックマークではなく、保留の「保」と書いておいた。
食堂の喧騒は、今の私には少しだけ遠くの音のように聞こえていた。
(……。タルト、美味しいはずなんだけどな)
リップが「死守してきた」というイチゴタルトを口に運ぶ。甘酸っぱいソースの味はするけれど、脳の半分はまださっきの廊下に取り残されたままだった。
二重に見えたリップの影。そして、あの消え入りそうな「5」という数字。
「マリーちゃん、どうしたの? フォークが止まってるよ。……もしかして、イチゴよりチョコの方が良かった?」
隣に座るリップが、私の顔を覗き込んでくる。
その瞳は、さっきの虚ろなものとは別人のようにキラキラと輝いている。
けれど、私に触れている彼の指先が、微かに、本当に微かに震えていることに気づいてしまった。
「……。いいえ、美味しいわよ。ただ、午後の実習の工程を思い出していただけ」
私は無理に口角を上げ、事務職時代に鍛えた「作り笑顔」を浮かべた。
「おい、アジェンダ。……嘘をつくな。お前、さっきからタルトの端っこしか食べてないぞ」
向かい側に座ったレオンが、ぶっきらぼうに私のトレイに自分の皿から何かを放り込んだ。
見れば、それは彼が頼んだセットの、温かそうなスープに付いていたパンの欠片だった。
「……? これ、何?」
「糖分ばっかり摂ってると、頭のバグが治らないぞ。ほら、ちゃんと噛んで食べろ。……腹が減ってると、余計なもんまで見えるようになるからな」
レオンは私と目を合わせないまま、自分のスープを啜る。
「余計なもんまで見える」
——その言葉が、単なる体調不良への皮肉なのか、それとも私の見た「影」への言及なのか、今の私には判別できなかった。
「ちょっとレオン! 私がマリーちゃんを甘やかしてる最中なんだから、邪魔しないでよ。ねぇマリーちゃん、あーんして?」
リップがフォークを差し出してくる。いつもの光景。いつもの賑やかなやり取り。
私は、レオンがくれたパンをぎゅっと噛み締めた。
小麦の素朴な味が口の中に広がり、少しだけ、足元が地に着いたような感覚がした。
第五章 リップ
変化とは突然訪れるものである。
リップは寝そべりながら思った。
「なにか面白いことないかなぁ。」
いつもいつも、同じことの繰り返し。
勉強して、花に水をやって、寝る。
ごく稀に幼馴染と遊ぶが、もっと高頻度で会いたい。暇すぎて溶けてしまう。
「ママ、パパ、早く帰ってきてよ。」
小さく呟いた。
私が4歳の時から、船乗りだった両親は帰ってこない。出張というものが長引いているのかも。
それからと言うもの、私はおじいさまの家で育っている。
おじいさまは面白い。たくさんのことを知っているし、教えてくれる。暇な時はおじいさまと遊んでいた。
この前は、世界史について教えてくれたけれど、ぼ、私にはよくわからなかった。
けれど、最近風をこじらせたらしい。
看病しているけど、一向に良くならなかった。
お腹の音がなる。お腹の中も空っぽのようだ。
そんなとき、私の10歳の誕生日が来た。
学校というものに通えるらしい。
もちろん、おじいさまが心配だった。
けれど、新しい家政婦さんを雇うらしく、私はなにも気にしないで良くなった。
ある一つのことを除いて。
この中途半端な体のことだ。
昔、確か変なことを言ってきたママのお友達がいたっけ。
昔のことだからなにも気にしないけれど、今からそんなことを言われては、私は何もできない。
それなのに、もし何か言われてしまったら、また暇になってしまうかな。
短い髪の毛を櫛でとかしながら、鏡を見つめる。
(髪の毛、伸ばしといた方がよかったかな。)
ついこの前、切ってしまったばかりなので、学校とやらに行くなら切らない方が手慣れていたのに。
耳にかかって邪魔な髪の毛。黄色のヘヤピンをつけて誤魔化そう。
甘い砂糖が焦げた匂いと、緑色の羽をした小鳥の声が聞こえる。
そういえば、学校にはレオンも行くらしい。
(久しぶりに会うな。またボール遊びして欲しいな。)
「めちゃくちゃ変わってたりして。」
変な独り言で、静かな部屋を満たす。これくらいしかやることはない。
さて、そろそろ家を出る時間になってきた。
確か、学校はローラーで20分だったな。
ローラーに乗って、家を飛び出そうとしたが、お守りを忘れていくところだった。
黄色のチューリップのブレスレット。昔パパからもらったもので、好きな色だから嬉しかったな。
「髪の毛も金髪だったらなぁ……、真反対の色だよ。」
私は黄色が好き。だからレオンの髪の毛が羨ましかった。私は水色の髪の毛。透き通って綺麗とか言われるけれど、私は金色が欲しい。
「あ!いけない。遅刻しちゃう。初登校なのに遅刻なんて、一生の恥だ!」
ローラーにまたがって家を飛び出した。
学校に行く道中、たくさんの生徒を見かけた。
(やっぱり、中性は私だけか。)
みんな、中性の特徴を持っていなかった。
少しだけ、仲間外れになってしまった気がするけど、これはこれで、特別感があっていいな。と思う。
そんなことを考えながら、角を曲がり、なんだか明日君の悪い裏路地を通って15分ほどかけて到着した。
「門、でっかいねぇ。」
あまりの大きさに感心してしまう。
しかし、私の心はもっと大きく高鳴っていた。
「ごはん、美味しいかな。お友達、できるかな?」
学校というものは、人間関係が大切だと聞いた。
リップなら大丈夫と言われけれど、私自身、不安しか兼ね備えていない。それ以外は品切れ。空っぽの店内だった。
学校の広場には、人混みの山があるように思えるほど、人口密度が濃い場所があった。きっとあそこにクラスが書いてあるんだろう。
見に行こうとした。そのとき、なんだかいちごタルトのような、甘い香りが横ぎった。
通りすぎていく香りの方向を見ると、制服に見合わない大きなピンクのリボンをつけた、可愛らしい女の子がいた。
(どんなお顔なのかな!もしかしたらおんなじクラスかも!)
可愛い女の子は私からしたら大歓迎だ。名前さえわかればクラスだって特定出来るのにな。
だんだんと人混みが解けてきた。
そろそろ自分のクラスが見えてくるはず。
「あっ!リップって名前!」
自分の名前があることは当たり前だが、なんだか嬉しくなってしまい、声を上げる。
そのしばらく上には、「レオン・サパーンド」と書かれている。同じクラスだ。
どんな子に成長してるだろう……。そんな思いを募らせながら、軽い足取りで教室へ向かう。
(昔はけっこう、冷淡な子だったよなぁ。でも優しいところもあって、結局いい奴だった気がする。)
私からしたら大昔の記憶だ。
ほぼ覚えていない。
思ったより早くついてしまったようで、あまり教室の中に人はいなかった。
しかし、さっき通り過ぎたあの大きなリボンの女の子がいた。
嬉しくて、話しかけようとしたけれど、名前が分からずなんて話しかければ良いかわからずにまた眺めるだけになってしまった。
(こっち、見ないのかな?)
なんだか後ろの席に気を取られているような表情だ。
普通こういうのは隣の席から見るんじゃないのかな。
まだあの子の後ろの席には人がいないので、誰が座るのかは定かではないが、おそらく嫌らっている人物か、知り合いで気まずいかのどちらかだろう。
ガラガラッと、教室のドアが開いた。
「あっ!レオンだ!ねぇレオ……ン。」
あれ?おかしいな。レオンなのにレオンじゃないみたいだ。人違い?
(でも、灰色の瞳、そして綺麗な金髪。レオンだよなぁ……)
レオンとは確か5年ほど会っていないけれど、こんなに変わるものなのだろうか?
なんだか温厚なレオンでは無くなっていそうだ。話してみる価値はありそうだけれど、どうやって測ろうか。
測るという表し方はよくないと言われるが、間違ってないので訂正はしない。
人物像は雰囲気と話し方で判断しないとやっていけない。
考え事をしていたら、いつのまにか教室は人で溢れていた。
そんな時、イヤな感じが襲ってきた。
(あ〜。このタイミングでお花摘みに行かないといけないなんて……トイレってどこだったっけ?)
生まれつき少しお腹を壊しやすかったので仕方がない。
ちょっと長めのお花摘みから帰ってくると、教室は少し、静かになっていた。
どうやら自己紹介の最中らしく、私の席は前から3番目なので当に終わっていた。
まぁ、ラッキーかな。
席に着くと、みんなが得意なことを言い争っているように聞こえてくる。
単なる自己紹介でこんなにマウントが取れるなんて、可愛いものだなぁ。とつくづく思う。
しかし、そんななか、少し変わった自己紹介が聞こえてきた。
(普通にすごかったけど、途中から何言ってるかわからなかったな。)
意識して声の主の方向を向くと、あのピンクのリボンの女の子が立っていた。ちょっと青ざめてるけど……。
マリー・ベルモントという名前らしい。
可愛らしい名前。それに顔がはっきり見えた。
マリーの後ろの男子、レオンはマリーの自己紹介を受け、必死に笑いを堪えているような表情が窺えた。
マリーちゃんの席の後ろはレオンか。マリーちゃんはレオンが苦手なのだろうか?
それにしても可愛い名前に可愛いお顔!ぱっちり二重に小さな鼻。血色感のある唇と頬。そして品のある?品のありそうな言葉遣いに感心する。
「絶対明日から話しかけなきゃ!これは義務ね。」
しかし、次の自己紹介はマリーちゃんとは対照的だった。
ただの名前紹介。ちょっと面白いな、と思った。
「レオン、なるほどねぇ。」
思わず言葉が漏れた。前の隅っこの席で良かった。誰にも聞こえていなさそう。
レオンは案外、昔と変わらなそうだ。
必要最低限のことしか喋らないくせに、相手のことは理解している。昔からそんなやつだった。
レオンに、マリーちゃん。あの2人は知り合いかな?なにやらコソコソ話してる。私も混ぜてくれないかなぁ。
なんだか今日は面白いことがたくさんある日みたいだ。おじいさまにいっぱい話そう。
みんなの自己紹介が終わると、今度はクラス代表を決めるらしい。
(私は知性?と品、可愛さを兼ね備えているマリーちゃんにお願いしたいなぁ。)
そんななか、後ろの席の女の子が挙手して、ベルモント家のマリーを指名した。
お目が高いなぁ。と感心する。
しかし、そんな肯定された意見を、あいつが覆した。
「おいおい、正気かよ」
レオンだ。彼は組んでいた足を組み替え、冷淡に言い放つ。
「ベルモントを代表にするなんて、正気の沙汰じゃない。こいつ、この前裏路地で腰を抜かして泣いてたんだぞ。代表どころか、自分の帰り道すら怪しいバカだ」
教室が静まり返る。
でも、私だけだろう。なんだかそれが面白くて1人で笑ってしまった。
「な、なんですって!? 失礼ね!」
マリーちゃんが抗議の声を上げると、レオンはフンと鼻を鳴らした。
「事実だろ。こんなトロいやつに代表なんて務まるわけない。時間の無駄だ」
マリーはとても顔を赤くし、俯いていた。
(赤面かぁ。そんなに恥ずかしいのかな?)
マリーちゃんはどんな顔でも可愛いと思った。むしろそれがいいまである。別にそそられているわけではない。断じて。
(バカかぁ。それが可愛いんじゃないのかなぁ。)
きっとあいつがいたらそういう問題じゃねぇよって言ってくれるんだろうな。
裏路地で腰を抜かしていたってことを知ってるなら、レオンはマリーちゃんを助けたのだろうか。
もし、みているだけで通り過ぎてたとしたら殺意が湧くな。レオンに限ってそんなことはないと思うけど。
それにしても、席が良すぎる。まるで誰かに仕組まれたみたいだ。
私が前から3番目で、あの2人は一番後ろの窓際から2番目。ちょうど一直線を引ける。
つまり、私が斜め後ろを見れば、いつだってマリーちゃんを眺めることができるということだ。
心の中でガッツポーズをする。
自己紹介、クラス代表の話し合い(?)が終わったらところで、ベルがなった。二限目が終わったのだ。
今日は2限目からは自由だ。とくにやることもないし、おじいさまに会いたいので早く帰ることにした。
どうやら、レオンとマリーちゃんも帰るらしい。
待ってよマリーちゃん!なんて、言える日が来ることを願いつつ、2人の後ろ姿を見ながら準備をする。
「おじいさまの薬を投与する時間はあと30分後か。」
家に帰るまで早くて15分。急いで帰らないと。
そんな思いを募らせ、学校から出た。
「おじいさま!あのね。今日はとっても素敵な子に会ったんだよ。女の子なんだけど、とっても可愛くてさ!」
おじいさまは私が楽しそうに話している姿を見て、喜んでくれた。
「名前はなんていうんだい?」
前よりもちょっと低くなったおじいさまの声。安心する声だった。
「マリー・ベルモントだってさ!」
その瞬間、少しだけおじいさまは驚いたような、感心するような、よくわからない表情を浮かべた。
「ベルモント家か……いいかいリップ、その子とは仲良くしなさい。きっとその子は、とてもいい子だと思うよ。」
おじいさまが言うなら間違いないと思った。おじいさまは嘘をつかない。それに私もそんなこと言われなくたって勝手に仲良くするつもりだ。
しかし、ベルモント家になにかあるのだろうか?あの人のことしか知らないなぁ。
「ねぇおじいさま。ベルモント家はどんなお家なの?」
「そうだねぇ。ベルモント家の、ラピスさんを知っているだろう?その人が、偉い人だから有名なんだよ。」
あぁ、あのおばさんか。
あの人、そんなに偉い人なんだなぁ。
以前、一度だけおじいさまとイチゴタルトが売ってある美味しいお店の行列に並んだ時、おじいさまと何か楽しそうに話していた気がする。
「あの人、いい人そうですよね。」
こくり、とおじいさまは首を縦に動かす。
マリーちゃん……絶対明日話しかけてあげるんだから!
翌朝、元気に家を飛び出して、学校へ向かった。
「よし、まずは『やぁ、おはよう。昨日ぶりだね』……いや、これじゃ普通すぎるかな。」
ローラーを全力で漕ぎながら、ぼ、私は風を切って独り言を漏らす。
昨夜、おじいさまと話してから、私の「空っぽの店内」には、マリーちゃんという特大の新作商品が並んでいる気分だ。
「……ねぇ、マリーちゃん。君が困っているなら、私がお兄さんになってあげようか?」
口に出してみると、なんだか背中がむず痒い。
でも、あの子のあの「ビジネス用語」みたいな堅苦しい壁を壊すには、これくらいの変化球が必要な気がしてならない。
「変な子だと思われませんように…!」
しかし、マリーちゃんもなかなか変な子なので気にしないでおこう。
レオンにも会えるのか。マリーちゃんと仲良くなるってことは、レオンもついてくるってことだもんな。
良いのか悪いのかからないが、五分五分だろう。
学校に到着すると、やっぱり教室にはあんまり人がいなかった。私、そんなにローラー飛ばしてないんだけどなぁ。
昔から運動神経はずば抜けて良かった。(女の子の中では)
男の子っぽい性質を持っているから普通の女の子より握力や足の速さが早いんだろうな。と感じる。
結局、どちらでもないんだ。
難しいことはよくわからないけれど、女か男か、そんな簡単な話ではないことくらいわかっている。二つの天秤にかけられないんだ。
稀に、性別のかけられないことを知らない人がやってきて、なんだか悲しくなってしまうけれど、中性なんて、そりゃあそんな目で見られるよな。
……。もし、マリーちゃんが「その人たち」だったら私はまた暇人になってしまうな。
昔、友達に「たまに、リップって2人いるように感じるんだよね」と言われたことがあったっけ。
正直、私はちっとも自覚がない。その友達はたしか、もう1人の私?が怖いって言ってたっけなぁ。
どう言う時にそんなふうになってしまうんだろう。
自分の体なのにそれを理解していないため、制御が効かないのかもしれない。
1限目の準備でもするか。早くきてしまったせいでやることがない。
「えーっと。1限目は……あぁ、魔法なんちゃらか。」
1時間目の準備をしていると、朝のホームルームが始まった。
もうそんな時刻か。マリーちゃん来てるかな。
ソワソワしながら斜め後ろを振り返ると、大きなリボンが見えた。それが嬉しかったけど、マリーちゃんは1限目の準備が終わっていなかった。
もしかして、やり方を知らないのかも。教えてあげようかな?
「……ねぇ。君、ベルモント家のマリーちゃんでしょ?」
第六章 久しぶりの休日
怒濤の学園生活が始まってから、カレンダーをめくる余裕もないまま一週間が過ぎた。
今日は待ちに待った休日。
前世なら「泥のように眠る」一択だったけれど、この世界での休日は少し勝手が違う。
(……。あぁ、静か。この静寂こそが、現代社会のオアシスよね)
私は屋敷のサンルームで、柔らかな日差しを浴びながら、またしてもメモ帳を広げていた。
昨日の実習では、リップの数字が「5」に下がることはなかった。
けれど、一度見つけてしまった「綻び」は、意識すればするほど私の思考を支配していく。
仮説2の『多重人格説』。
男の影が見えたあの瞬間、確かに「別の誰か」がそこにいたような気がしてならない。
「マリー、そんなところで何を難しい顔をしているの?」
不意に頭上から降り注いだ穏やかな声に、私は慌ててメモ帳を閉じた。
振り返ると、伯母様が上品にティーカップを手に立ち、私を慈しむような目で見つめていた。
「おばさん。……いえ、ちょっと学校の復習をしていただけです」
「あら、感心ね。でも、今日はせっかくの休日。そんなに根を詰めたら、せっかくの可愛らしい顔が台無しよ」
伯母様は私の隣に座り、リナが運んできたばかりのハーブティーを注いでくれた。
(……。チャンスだわ。昨日、問いとして立てた『ベルモント家』のこと、おばさんのこと。少しずつ外堀を埋めていかなきゃ)
「ねぇ、おばさん……前から気になっていたんですけど、ベルモント家って、どんな一族なんですか? 私、自分の家のことなのに、驚くほど何も知らなくて」
私の問いに、伯母様は一瞬だけ、ティーカップを口に運ぶ手を止めた。
ほんの一瞬。
でも、その瞳の奥に、何か「計測」するような色が走ったのを私は見逃さなかった。
「そうね……。私たちは、この世界の『記憶』を守る一族よ、マリー」
「世界の……記憶?」
「ええ。物語が途絶えないように、そして、あるべき場所へと導くために。……マリー、あなたは余計なことを考えなくていいのよ。ただ、この美しい世界を、心ゆくまで楽しんでいればいいの」
伯母様は私の頬をそっと撫でた。その指先は温かいのに、なぜか心臓のあたりがスッと冷えるような感覚がした。
まるで、「それ以上は踏み込むな」と、優しく拒絶されたような。
(……。やっぱり、この人も何かを知っている。それも、確信的な何かを)
問いは解決するどころか、さらに深まってしまった。
チェックマークをつけられる日は、まだ遠そうだ。
その時、屋敷の玄関の方が騒がしくなった。
「……記憶、ですか?」
私がその言葉の重みに固まっていると、伯母様は「ふふっ」と噴き出した。
「あっ!そうそう、記憶といえば!この前リナと話していたんだけど、マリー、あなた昨日の夕食で何を食べたか覚えてる? 答えは『お肉』よ! 煮込み料理をあんなにバクバク食べて、ベルモント家の歴史なんて難しいこと考えられるわけないじゃない!」
伯母様はさっきまでの冷徹なまでの落ち着きをどこかへ放り投げ、パンパンと楽しそうに手を叩いた。
「もー、マリーったら、そんなに眉間にシワを寄せて。仕事熱心なのはいいけど、若いうちからそんな顔してたら、可愛いお顔が台無しよ? ベルモント家? そんなの『とっても歴史があって、とっても凄い家』。これで解決! はい、おしまい!」
「……。解決の定義がガバガバすぎませんか、おばさん」
私は思わず、前世で無理難題を押し付けてきたクライアントを見るような目で伯母様を見た。
でも、彼女の屈託のない笑顔を見ていると、さっき感じた「計測するような瞳」も、私の被害妄想だったような気がしてくる。
(……。いや、でも。さっきの『あるべき場所へ導く』っていうフレーズは……)
廊下の向こうから聞こえるリップの「マリーちゃーん!」という声を、私はあえてスルーして逆方向の勝手口へと向かった。
(ごめんリップ、今はちょっと一人でロジカルに考えたいのよ……)
私は屋敷の正門でリナと格闘しているリップの声を背中に聞きながら、勝手口からコッソリと脱出した。
(悪いわね、リップ。今日はちょっと一人で『ブレスト』したい気分なのよ)
お屋敷から少し離れると、そこには手入れの行き届いた並木道ではなく、手付かずの自然が残る深い森が広がっている。
この世界の植物は、時折キラキラとした鱗粉のようなものを散らしていて、前世の公園とは比べ物にならないほど幻想的だ。
「……。ふぅ、ここまで来れば大丈夫かしら」
倒木に腰を下ろし、私は大きく伸びをした。
木々の間から差し込む光が、メモ帳の白い紙を照らす。
(おばさんの、絶対何かを隠してる時のムーブよね。ベルモント家の歴史、図書館で調べ直さないと……)
ペンを回しながら、私は思考を巡らせる。
この世界の成り立ち、数字の正体、そして——
「……おい、アジェンダ。お前、道に迷ったのか?」
「ひゃいっ!?」
突然、真上から降ってきた声に、私は漫画のように跳ね上がった。
驚いて見上げると、立派な巨木の、太い枝の上にレオンが座っていた。
黒いシャツの袖を捲り、長い脚をぶらりとさせて、彼は本を閉じたところだった。
「レ、レオン!? なんでこんな森の奥深くに……! 監視? 私、監視されてるの?」
「自意識過剰だ。……俺はただ、静かな場所で本を読みたかっただけだ。お前こそ、その派手なリボンを枝に引っ掛けに来たのか」
レオンはひょいっと、音もなく地面に飛び降りた。
相変わらず彼の頭上には数字がない。
けれど、その瞳は私の手元にある、殴り書きされたメモ帳を真っ直ぐに射抜いていた。
(……。あ、マズい。これ見られたら『多重人格説』とかバレるわ)
私は慌ててメモ帳を背後に隠した。
「あ〜、私そろそろ屋敷に帰ろうかなぁ」
苦し紛れに言葉を発する。
「アジェンダ、無理があるぞ」
「あ〜何も聞こえな〜い」
大げさに耳に手を当て、からかうようにして逃げた。
(まったく。いつも鉢合わせしてしまう。あいつはストーカーか?)
さっさと屋敷に帰って来れて良かった。これからは自室の鍵を閉めて整理しないと。
そんなとき、廊下の奥で誰かの声がした。
「だ……誰か……」
震える声。私は足音を忍ばせて近づく。
そこには、昔から私の召使いをしているリナが床に膝をついていた。顔は真っ青で、息が荒い。
「リナさん!?」
駆け寄った瞬間、彼女の頭上に“数字”が見えた。
6。
「嘘……なんで!?」
リナは弱々しく笑った。
「ごめんなさい、マリー様。わたし、ずっと……怖かったの。マリー様に関わると死ぬって……みんな言って……でも、本当はそんな人じゃないって思ってたのに……」
言葉が途切れるたびに数字が下がる。
5……4……
私は焦った。どうすれば上げられるの?
笑顔?優しい言葉?それとも……。
私は混乱のあまり、一歩後ろに下がり言葉をつまらせてしまう。
そんなとき、伯母の言葉を思い出した。
――祝福……?
「怖くないよ、リナ! 私、あなたにひどいことなんてしない!」
考えるより先に言葉が出てきてしまい,思わず声が荒れた。
「でも……私、あなたを……」
数字が0になった瞬間、リナの体が崩れ落ちた。
心臓が跳ねる。私は自分からだと比べて大きなリナの上半身を無我夢中で抱き上げ、叫んだ。
――また私のせいで人が死ぬの?
「お願い、死なないで!死なないで!」
こころから叫んだ。命を刈り取る死に神になんてなりたくない。
涙が頬を伝ったその時だった。
数字が0から1へ、そして2へ、リナのまぶたがゆっくりと開く。
「……マリー様?」
私は彼女を強く抱きしめた。
「良かった……ほんとに、良かった……!」
リナは困ったように微笑んだ。
「ふふ……こんなに泣かれると、こっちが悪いみたいです」
光が差し込む食堂で伯母はティーカップを傾けながら微笑んでいた。
「やったわね!」
「……見てたんですか」
「全部ね。監視してたの♡」
私は呆れ顔をしつつ、ため息をつく。
「人のプライバシーというものを……」
「転生者にプライバシーなんてないのよ、うちでは♡」
それでも伯母の目はどこか誇らしげだった。
「あなた、ちゃんと“選んだ”じゃない。奪わず、救う方を。」
まだ不完全だけれど、私はようやくその意味を少し理解した気がした。
好感度を操る力。
それは呪いではなく、人と向き合うための道標。
伯母は立ち上がり、いつもの明るさを取り戻していた。
「さあ、明日も忙しいわ!ノープランが人生の華なんだから気軽に行きましょう♡」
おばさんのメリハリに引きずられるのにも慣れてきてしまった。
この屋敷には確かに奇妙なものが多い。けれど、確かに“温かさ”もある。
私は小さく呟いた。
「ありがとう……おばさん。」
その瞬間、伯母の頭の上に“85”という数字がふわりと現れた。
彼女は気づいていない。
おまけ話
私「あら、ごきげんよう」
リップ「マリーちゃんのその口調、久しぶりかも!」
私「あ、確かに…!」
リップ「あ、マリーちゃん、今日こそ給食隣で食べよーね!」
レオン「は?」
リップ「なによ!昨日は君がマリーちゃんの隣で食べてたでしょ?昨日は珍しく口角があがってたぞぉ?」
私「えっ?そーだっけ?」
レオン「んなことどーでもいいだろ。本題を話せよ」
リップ「君は相変わらずだなぁ。」
リップ「えっと、マリーちゃん、私って、初見だとどっちに見える?」
私「ゑ?性別の話?」
リップ「うん、そうだよ。」
私「リップ!顔近い!」
リップ「へへ。おでこがついちゃったね。」
レオン「……アジェンダ、質問に答えろよ。」
私「はいはい。リップは、どちらかといえば男性かな?声を聞いたらめっちゃ女の子だけど……ベリーショートだし、スカートじゃなかったから。あ、でもまつ毛はバシバシだね。」
(小声)失礼かもしれないけど胸もそんなないし。
リップ「あっははは!『バシバシだね』だってさ!」
リップ「レオンはどっちだった?」
レオン「珍しいな,お前からオレに話しかけてくるなんて。」
リップ「いーじゃん。答えて?」
レオン「だから距離ちけーよ!」
(見てるこっちがヒヤヒヤするんですけど?!)
レオン「リップはどちらかって言えば、昔は女寄りだったよな。髪もといーんてーる?だったし。」
リップ「それを言うならツインテール!」
リップがツッコミを入れる。
レオン「でもそんな覚えてねーよ。何年まえだ?会ったの。」
リップ「8年前じゃない?」
マリー「え?2人ってそんな前から知り合いなの?」
第二巻 終わり




