魔法少女は猫だましを放つ
某夢の国のプリンセス作品のオマージュです。
前作と同じ世界観ですが読まなくても大丈夫です。
どうぞお気楽に。
どこかの国、どこかの町。
どこかの人並みはずれた廃墟で少年は叫んだ。
「おまえ、悪い魔法使いだろ‼」
「ほう・・・悪いと断定する根拠はなんだ?」
姉が借金のカタに誘拐された。
姉はかわいいから使い途があるって。
少年はかわいくないから置いていかれた。
「それで?」
ファンシーなとんがり帽子をかぶり長杖を持ち腕組みをして睥睨するすがたは、姉を拐った魔法使いにシルエットが似ている。
「それでだと⁉姉ちゃんを返せ‼」
少年は手に馴染んだ鉄製パイプを突きつけギロギロと睨みつける。
こうするとだいたいの連中はたいてい眉を潜めて逃げ出すというのに、こいつは距離を取る気配もない。
「なるほど」
「なにがなるほどだ!アイツの仲間のくせに‼」
「いいか子供。魔法使いと魔法少女は似て非なるものだ。なぜなら」
魔法少女のユイカワと名乗った女はビシッと指先を突きつけた。
「魔法少女には、わたしはスカウトされてなったからな。夢の国のコーディネイターに」
「え、あんた魔法少女・・・?」
ナニソレ。
まず、短髪長身の野郎にしか見えないし、青紫基調のアウトドアスタイルに身を包み、ふんぞり返ってる姿は魔法少女よりはその筋の何者かにしか見えない。
少なくとも魔法少女を名乗るなら可愛いブーツとかフリルドレスかブラウスは必須なんじゃないだろうか。
唯一魔法少女らしい長い杖はどこかの国の女王がもっていそうなでっかい紅い宝石がついているが、ユイカワがもっていると、なんというかこう、鈍器のようなものにしか見えない。少年がよくふりまわす鉄パイプに活け釘したようなアレ。
「女だ。生物学上はな。だからキミのいう魔法使いとは無関係だ。むしろ赤の他人だ」
残念だったな!とほざくのを少年は生温かく見上げる。
無駄に背が高くてむかつく。
「ふっざけんなあ!テメエのどこが少女だー‼世界中のまっとうなマトモな魔法少女に謝れえぇぇー‼」
だいたいぜんぜん可愛くねえしー‼
「まともかどうかは知らんが年齢的には十代で適合者ではある。なるほど、おまえさんはキュートでプリティなフリルのデコラティブスタイルが好みか。悪いがそういうのはほかのヤツ、これから来るナッキーさんに求めてくれるか」
誰だよナッキーさん。
「そんなこた知らねーよ。てかアンタ悪役の間違いじゃねーの」
「まあ、そちらの見方は理解できるがね。わたしの役割は別にある。さしあたっては“悪い魔法使い”について。まあ話してみな」
コトと次第によってはぶっ飛ばす手を貸してやってもいい。
それを聞いて少年は「ぶっ飛ばせんなら・・・」とちょっとだけ気持ちが動いた。
少年はぼそぼそと説明する。気持ちが高ぶってあせって話がとっちらかったがユイカワはじっと耳を傾けていた。
「フン、人件費をけちる吝嗇タイプの金貸しか。ピクルス!」
「はい!」
あらわれたのはうす緑色したうさぎのぬいぐるみ。少年より小柄なタオル地のかたまりのようなすがたがユイカワの二の腕に乗る。
ユイカワの手のひらに浮いたぬいぐるみのビーズのようなつぶらなひとみが少年に向けられる。
「お初にお目にかかります。ワタクシ空の夢の国、トラブル解消担当コーディネーターのピクルスと申しますです。うちのユイカワをお使いいただきありがとうございます」
ぬいぐるみのくせに折り目正しくお辞儀と自己紹介する。フェルトの感触の肉球に乗った名刺を掲げ、少年が受けとる。
「なに空の夢の国って」
「ピクルス、サーチを頼む。彼の姉を略取した金貸しの魔法使いだ」
「了解です」
タオル地の丸い手がリボンの球体にかざされる。ほわほわしたシャボン玉が浮遊し、四方に散る。うちいくつかは少年の周囲に舞う。
「スキャン開始します」
ピクルスの周辺に広がった虹色したシャボン玉はさわっても割れない。
指でつついてもほわほわとほどけてまた泡玉になってふわふわ浮きあがった。
「さて。ピクルスが検索してる間に別の質問に入ろうか。
問おう。キミにとって夢と希望とは何か」
「へっ⁉夢と、希望?」
唐突な質問に少年は面食らって上ずった声をあげた。
「まあその反応だよな、安心した。夢と希望?なんだそれワケワカランと思ったのはわたしだけではないようだな!」
「夢の国って・・・」
「そのへんの説明が必要ならざっくりと。かつて空と海にある夢の国からプリンセスが降り立ち、人々に夢と希望をもたらした、と伝えられている。われわれ“魔法少女”はプリンセスの意志を継ぐ使者である」
「・・・・・・」
「という前提で活動している」
「はー、どうみても詐欺師ぃ・・・」
「うーむ、基本的に金はとらないから詐欺ではないけどグレー「違いますぅ!まっとうな魔法少女のみなさんですぅ!詐欺師とは違うのですよ詐欺師とはぁ‼」だと」
まあ、ぬいぐるみみたいなやつが詐欺師なのはさすがにイヤだ。
ピクルスの絶叫に少年はとりあえず妥協した。
「夢は姉ちゃんが帰ってきて一緒にまた暮らす。まず姉ちゃんを取り戻さなきゃ」
「そうだな。まずそこだな。ヤツの居場所についてはピクルスに探させている。しばし待て」
この自称魔法少女、本当にワケワカランと少年も思う。
とりあえず姉ちゃんを見つけるための算段をつける気だけはあるんだなと少年は胸を撫で下ろす。
「また、悪い魔法使いに復讐したいなら専門家を紹介しよう」
「専門家あ?」
と思えばユイカワはまた妙なことを言い出す。
「そう、社会的に精神的に復讐の相談と実行を請け負う連中がいる。損害賠償を要求するなら弁護団を」
「えええええ」
「なに、合法的な内容で収入分を超えた費用はかからない、安心しろ。勿論事前見積り提示、追加オプションも随時相談可能だし、担当者の変更もできる」
「・・・なんかよくわかんねえけど。あんた魔法少女なんだよな?」
「どういうわけかな」
空中に浮かぶ泡玉から収束して変形した複数のディスプレイとキーボードを操作していたうさぎのぬいぐるみ、ピクルスは画面のひとつを手前に表示させる。
少年を手招き、画面の画像を見せる。あっと口を開く。
こいつは姉をさらった魔法使いだ。
「該当者あり、いつもの町いつもの森に棲む薬草師兼金貸しです。こちらのクライアントの母君の薬代の嵩んだことより略取されたもようです」
「薬草師ね。なるほどな。時期も悪かったようだな」
「なにそれ、じゃあ姉ちゃんは」
「そこは心配ない「ですよ」」
そしていつもの町いつもの森の入り口手前。
彼らは薬草師兼金貸し魔法使いの居場所に向かおうとしていた。
「このさきに姉ちゃんが」
「進行方向50メートル先が目的地です」
「何度聞いてもノリがカーナビなんだよな」
「ユイカワがそういう扱いしてるだけですぅ!」
一方、少年はユイカワが魔法少女だということをいちおう得心した。
身につけているジャケットと魔法杖から出現したテントのようなタープのような飛行挺に乗ったのだ。
(面白かったけど魔法少女というよりメカみてえ)
低空とはいえ空を飛べ、これはけっこうテンション上がった。
「ああ、このマジカルジャケットは全天候対応型だからお役だちだぞ」
と、ふいにユイカワの背中から別のタープが飛び出して少年ごと覆った。
直後バラバラバラと叩きつける雹に似たでかい粒がバウンドして弾き飛ばされた。足元はまたたく間にパチンコ玉のめり込んだようなクレーターだらけになった。
少年らに被害はなかったけれど呆然とクレーターを見おろす。
「あれかな、防御に全振りしたクチかな・・・」
「違うな。攻撃こそ最大の防御志向だ」
現実逃避に口にした言葉に真面目に返されて少年は疲労感をつよくした。
やれやれ、と心にも思ってもいない平坦な口調で吐息し、視線を周囲に投げる。
「さて、お出ましのようだな」
姉を連れ去った魔法使いが姿をあらわしたからだ。
「フフフゥ、迎えにきたよぉ。弟くん」
「やれやれ浮かれヘンタイの御出座しか」
確かに浮かれている。物理で。
「オマエこそ、夢の国のキャワイイうさぎちゃんに扱き使われる憐れな奴隷め」
「そこは社畜と言ってほしい」
少年の姉を連れ去った悪い魔法使いと対峙する魔法少女ユイカワ。
というかヘンタイは否定しないんか!魔法使い!!
「オマエの姉ちゃんがどうしても弟くんもって泣くからさあ?一緒にかわいがってあげよーと思ってねぇ」
オマエは邪魔なんだよぉ!
とんがり帽子の先っぽのフリンジから飛び出した、どんぐり弾丸のつぶてが降り注ぐ。
「わ、わ、」
少年の足もとにも飛んできて思わずたたらを踏む。
「ゴルディアスロッドリミット解放!広域攻撃魔法展開!」
ユイカワが長杖を掲げると王冠を模した球体から光線が溢れる。
光線は無数に発光しながら分離しいちめんに拡散した。光球を杖で引きつけ、魔法使いに向けて一斉射出。
キュインキュインと風切り音があたりをつんざく。少年は思わず耳をおおった。
面で放たれた球に死角はなく、少年はユイカワをすこしだけ見直した。
が。
「憐れだねぇ、派手な攻撃のわりにまるで当たらないじゃあないか!」
金貸し魔法使いは普通に立ち上がった。
煙幕や発光体が方々で弾けているけども、多少咳き込んでいるほかにダメージは見受けられない。
「当たり前だろう、この光線は多少は弾きかえすにしろ単なるエフェクトに過ぎん」
「あっはははは!猫だましを大仰にぶつけてきたのかい、本当に馬鹿なヤツだねぇ」
「はあ⁉」
少年は目を剥いて背後を振り返る。
腕を組みふんぞり返る姿はやっぱり少年のいた町によくいるヤンキーにしか見えない。
さっきは攻撃をはじきかえしてくれたし、一応味方になってくれているようだが、信じていいのだろうか?
「ね、猫だまし⁉そんなんで姉ちゃんを助けられるのかよ!」
「まあそう急くなよ少年。話はこれからだ」
ふわりふわり飛来してきた薄荷色のうさぎを肩に乗せて、不敵に口の端をゆがめるユイカワ。
「おやおや、なんか仕掛けてくんのかい、空の夢の国のもんよ」
「そういう呼びかけはやめてください!魔法少女はその筋のニンゲンではなく!夢と希望をはうっ」
ユイカワがうすみどりしたうさぎのマズルをそっとふさぐ。
「だまってなピクルス。売られたケンカは高価買取りってのが家訓でね」
「やっぱりその筋のひと・・・」
「ちがいますってばあー!」
「心配はいらん。海の夢の国サイドの魔法少女到着までの辛抱だ」
ひゃはははは!
魔法使いは身を折り涙を流して爆笑している。
「あらあら可哀想なムーンクルート。あたしのところにいらっしゃいな。それから弟くんもね」
「おれの姉ちゃんを・・・返せよぉ!」
「そうねえ。でも借りたものは返すのがスジってものよさぁ。
オマエのお姉さんは一生懸命働いてくれているよぉ、仕事をあげるから働きなさいなぁ。使った代金のぶんまでねぇ!!」
少年はおののいた。
姉はどんな“仕事”をさせられて、自分は“何を“させられるんだろう・・・
「フフ・・・アンタみたいな金貸し魔法使いのやることは察しがついている。おおかた領収証だの請求書だのの書類整理や仕分けやら経費入力やらだろう。決算期だからな!」
「はい?」
「オネエチャンをやってる世話焼きなコムスメは細かい仕事がむいてるんだわ。某都市設定の最低賃金換算でこきつかってやるよぅ!」
「は、い?」
「そんなことだろうとは思ったが。略取する前に本人とご家庭に契約内容と福利厚生はちゃんと説明して提示しろよ。住みこみなら衣食住は確保してるんだろうな」
「は・・・?」
「馬鹿おいいでないよ。3食おやつつきに今日のお昼は山の具だくさん煮こみスープにフルーツサラダ、まかない風パンケーキ、季節のミニパフェを添えてだよぉ!」
「・・・・ん?」
「当社オリジナルブレンドハーブティー飲み放題、休憩室は魔物もダメにするクッション完備さ」
「ほう、自社商品のモニターもさせているのか」
物理で浮かれた金貸し魔法使い(薬草師)は弁舌がさらに滑らかになってきた。
「お部屋はお好みガールズインテリア、バスタブは猫足、作業着は日替わりメイドスタイルだよぉ!」
「メイド趣味かよ」
「そんくらいいいだろぉ。髪型もかわいくしてるよぉ。編み込みメガネは至高だよぉ!もちろん私服は選び放題だよぉ!」
「は・・・・?」
あれ、なんかこれ、流れ変わった?
「ご心配には及びませんよ。こちらの魔法少女ユイカワ、見た目はと言動こそアアデコウですが、解決の実績はトップレベルです」
え、これ解決に向かってるの⁉
「あ、そうそう、これオマエのオネエチャンからお手紙ね」
「は、」
あきらかにお手製とおぼしき押し花のカードと封筒。かわいいもの好きの姉らしい趣味だ。
ふるえる手でひらいてなじみの文字を追えば。
ーーー弟くんお元気ですか?突然のことでごめんなさい。
お姉ちゃんはいま、仕事をしながら、おかあさんの病気を直す薬を先生に教わってます。
アットホームな職場だから弟くんもすぐ慣れるよ。一緒に先生のところで働こう!ーーーーー
「なんだこりゃーー‼」
「フン、オネエチャンは最近仕送りもしているようだよぉ」
「道理で残高が残ってると・・・てか姉ちゃん、まわし者みたいになってる」
「まずまず労働基準法はクリアしているようだな。・・・いやその前にやることがあったな、少年!」
「は?」
ユイカワはくだんの長杖をふり、少年と金貸し魔法使いとの周囲に透明な壁を張った。ビニールテントのような質感。
「ここを衝撃から守るバリアを張った。さあ少年、舞台は整えた。契約の前ならなんの心配もいらん、遠慮なくヤツをぶっ飛ばしな!」
「え、いいの⁉」
「はあ⁉ちょっちまーーーああああああーーーー‼‼」
少年の鉄パイプが景気よく振り回された!
「では、スッキリしたところで契約の儀をとりおこないましょう」
ユイカワのマジカルジャケットのすそが変形し、ひとふりのデスクになった。
そこにピクルスが書類とインク壺とつけペンを用意した。
「よし、少年、契約内容を一緒に確認するぜ!」
「ナニソ・・・・普通に魔法使えよーー‼‼」
「契約締結魔法だから魔法には違いないぜ?」
「それはそうかもしんないけどもさぁ」
「さあ、さっさと名前を書くんだよ、フフフゥ!」
「なんかちがうー‼」
なお薬草師(金貸し)魔法使いは、本人の意志を無視した略取の罪で、颯爽と登場した海の夢の国の魔法少女ナツキによって無事に仕留められた。
めでたしめでたし。




