表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界武蔵転生『我、天下無双は飽きた故、のんびり所望ライフを所望する』  作者: 二天堂 昔
第一章『我と最高の仲間たち〜全てにおいては単純にスローライフのためにて天下無双を貫く我が生き様よ』
7/57

第四話・続「鳥と弓と変態たち。魔物一羽が所望を拓く」


岩山を越え、渓谷へ差しかかる頃だった。


「……止まれ」


武蔵の声に、創冶そうじもカエデも反射的に動きを止めた。


「……な、なんかおる?」


「風が……軽く鳴いてる」


カエデが耳をすませた瞬間、上空からごうと音が降る。


「来るぞ!」


――ギギャァアアアアア!!


空を裂いて現れたのは、全長四メートルはあろうかという巨大な鳥型の魔物。


灰黒はいぐろの羽根と鉤爪、くちばしは槍のように鋭く、目は赤く光っていた。


「“裂嘴鷲れっしがらす”か! カエデどの、危のうござるぞ!」


「言われんでも分かってるっちゅうねん!」


カエデが瞬時に弓を構える。

腰の双剣ではなく、背中の風弓を抜いた彼女にとって、これが“弓”の初披露戦だ。


「……五連風矢(ごれんふうや!」


風をまとった五本の矢が同時に放たれ、羽ばたく魔物に突き刺さる。


「グギャアァア!!」


「効いてるでござるカエデどのッ!

ならば拙者も――」


黒鋼創冶が叫ぶと同時に、地面から岩壁が立ち上がる。


「“地鎧陣ちがいじん”!!」


魔物の嘴が突き刺さる直前、分厚い地の壁が砕けるも、直撃を防ぐ。

続いて、武蔵が一歩、前に出た。


「……静かに」


風が止まる。


大地も沈黙する。


「――参る」


武蔵が木刀を構えた。

重心を極限まで落とし、重みすら感じぬ“静”の構え。

一拍、二拍。魔物が再び羽ばたいた瞬間――


「木刀奥義・残影一閃ざんえいいっせん


ひと振り。

それだけで、裂嘴鷲は地に落ち、もがくことなく絶命した。


「……お見事、武蔵どの」


「倒したのは三人でだ。創冶、カエデ、感謝する」


「ふん……当然やん。てか今の、完全に剣豪の仕事やったな。カッコつけすぎやん?」


「お主が矢を射る時のほうが、なかなかに“いき”だったぞ」


カエデが少しだけ頬を赤らめる。


「さて……解体、いくで」


彼女は手際よく羽根を落とし、脚部を裂き、内臓を外し――

香草をすり込み、秘伝の甘辛だれに漬けて、あぶった。


ジュジュウゥゥゥ…と食欲をそそる何とも言えない香りが鼻をくすぐる。


「……裂嘴鷲のテリヤキ、完成や」


「んまッ!! 何この香ばしさ!? 魔物肉って、ふつう獣くさいやろ!? これは……店出せるレベルや!!」


一方、創冶は目を輝かせながら魔物の骨を手に取っていた。


「この嘴……強度、重さ、尖り――よし、これで貫通槍の試作が作れる! 羽根の硬化部も良いぞ、護符にもなるッ!」


「黒鋼、それが“地”の務めだな」


「ああ、武蔵どの。地に根ざし、素材に命を吹き込む。これぞ鍛冶師の本懐ほんかい!」


その夜、裂嘴鷲のテリヤキを囲みながら三人は語り合う。

“仲間”という言葉が、少しずつ現実味を帯びていく。


だが武蔵の瞳は、まだ遠くを見ていた。

――次に出会う、水の者を想いながら。




焚き火が、ぱちぱちと静かに爆ぜている。

空は星がにじむほど澄み渡り、裂嘴鷲れっしがらすのテリヤキの香りがまだ残っていた。


武蔵は黙々と木刀の手入れをしている。

その隣でカエデが残った裂嘴鷲の骨を煮込みながら、空を見上げた。


「ふあー……腹もいっぱいやし、風も気持ちええなあ。なあ、武蔵くん。あんた、木刀にやたらこだっとるけど……ほんまに、それだけで戦ってくつもりなん?」


「当然そのつもりである」


「一切、刃物は使わん、てこと?」


「……うむ。刃の道は、すでに一度、極めたと自負しておる。今は“斬らぬ強さ”を、求めている」


「なんやそれ……悟りでも開いとるん?」


「いいや。ただ――これは我の“所望”だ。ゆえに、それでよい」


カエデはくく、と笑う。


「ほんま、あんたアホやな……せやけど、そういうアホ、ウチはキライちゃうわ」


創冶がその会話に乗っかるように、ぐいと湯飲みを傾けた。


「木刀で魔物を瞬殺、弓で鳥を落とす娘、骨と嘴で武具を作る拙者。……まったく、とんでもねえ変態三人組だぜ」


「……否定はせんが、それを言うなら創冶、お主がいちばん濃いぞ」


「はっはっは、そいつは光栄だ。だがな、武蔵どの。俺は“変態”じゃねぇ、“鍛冶職人”だ」


「はいはい、変態鍛冶職人やって」


「カエデどの、飯の腕は認めてるが、容赦のないツッコミ、感服するでござる」


三人の間に、心地よい笑いが広がる。


「それにしても、こうして飯を食って、語らえるってのは……なんだ、悪くないでござるな」


創冶が焚き火を見つめながらつぶやいた。


「……そやな。あんたら二人と一緒におると、なんや“安心感”あるわ。ちょっと……懐かしい気もしてな」


「カエデ……」


武蔵は、火の揺らぎに照らされた二人の顔を見つめる。


(地、水、火、風、空……そして“我”)


(まだ全員揃ったわけではない。けれど、この夜のぬくもりが――所望という名の“日常”の始まりだと、我は思う)


「……ありがとう、創冶。カエデ。今日という一日に、感謝を」


武蔵がそう口にした瞬間、夜空にひとつ、流れ星が走った。


三人は黙ってそれを見上げ――

やがて焚き火の火が、静かにちいさくなっていった。



▶次話:「湖畔に咲くは、水の姫君」へ続く

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ