第四話(挿絵有)「地より現る大槌の兄貴。鍛冶と変態の邂逅(かいこう)」
山間の鉱山跡――
そこに、武蔵は“音”を聞いた。
「……これは、鉄を打つ音か」
「いやいや、こんなとこに鍛冶屋がおるとかある? 野営所跡やろここ」
カエデが首を傾げるが、武蔵の表情は真剣だった。
焚き火の夜から三日後、彼の足は自然とこの場所へ導かれていた。
風に乗る、力強く、狂気じみた槌音。
ゴン……ガァンッ……キィィィン……!!
二人が声をひそめて岩陰に身を隠すと、小さな鍛冶小屋と炉が見えた。
そして――炎を背に、鬼神の如く大槌を振るう男が一人。
「おぉおおおおっ!! 熔けぬなら、砕いて屈せしめるまでよ魔猪の骨ッッ!!」
「うわ、ちょっと怖いレベルのテンションやな……」
「ふむ、力はある。……素材は魔猪、火加減は過熱気味」
「ちょ、冷静に観察してる場合ちゃうって!」
ドカンッ!!
とまた巨大な火花が爆ぜ、小屋の梁が揺れた。
「誰だッ!?」
男が振り返る。
全身、筋肉と煤に覆われた巨躯。
眼光鋭くも、どこか職人の誇りを宿す熱に満ちていた。
「……旅の者か。貴様ら、何を求めてこの地へ?」
武蔵は静かに答えた。
「我が名は武蔵。木刀のみを携え、この世界にて所望ライフを目指し旅をしている」
「……木刀、だと?」
男の眼が光った。
「拙者、黒鋼創冶! 地に愛された鍛冶師なり! ――見せろ、その木刀を!」
「ふむ、良かろう」
武蔵が抜き放ったのは、焼き締め漆黒仕上げの木刀。
桑の巻き手に、力強い芯と絶妙な重心を備えた逸品である。
「ぬおおおおおッ……これは、これは……! 魔猪の骨を越えとる!!」
「いや越えてへんやろ!?」
「この焼きの入り方! 木目の通し方! 持ち手の巻きが……三重!? おぉぉぉお、変態ぃ!!」
「そう褒めてくれるな」
創冶は唐突にひざをつき、武蔵の木刀に額をこすりつけた。
「武蔵どの! 拙者は決めた! 貴殿と共に歩もうぞ! 理想の“変態武具楽園”を築くためになァ!!」
「いや、楽園じゃなくて“所望ライフ”やからな武蔵くんのは!」
「……いずれ拠点を作るつもりだ。その地にて、思うさま技を磨き、鍛え、戦い、食らい、笑う……“五行庵”と名付ける予定だ」
「その名、良い響きだ。地を象る者として、拙者、そこに土台を築こう!」
こうして、黒鋼創冶が仲間に加わる。
その夜、鍛冶炉を囲んだ焚き火のもと――
語られたのは木材と鉱石、魔物素材に対する狂熱の理想郷。
「焼き締め木刀の柄に、魔猪の皮を接着してみたいとは思わぬか?」
「ふむ……水を通さず、滑りを抑え、かつ反発力を備える。――面白い」
「なぁ……もうちょっと普通の話してくれへん?」
変態二人の“語らい”は、夜更けまで止むことはなかった。
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▶次話:「鳥と弓と変態たち。魔物一羽が所望を拓く」へ続く。