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異世界武蔵転生『我、天下無双は飽きた故、のんびり所望ライフを所望する』  作者: 二天堂 昔
第一章『我と最高の仲間たち〜全てにおいては単純にスローライフのためにて天下無双を貫く我が生き様よ』
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第三話・続「風と剣と、焚き火と」


風飛カエデが仲間に加わって二日後――

ふたりは森の奥へと踏み込んでいた。


「……って、あんた、ほんまにこの道で合うてんの?」

「我の勘に狂いなし。前世でも道に迷った記憶なし」


「その前世って、ほんまなんか?いまだに信じられへんわ!」


そんな調子で、カエデは我の言動にツッコミを繰り返しながらも、案外楽しそうな様子を見せておる。


彼女の歩みは軽く、鳥のように跳ね、葉をすり抜ける風のようだった。

そして我はといえば――


静かに、正確に、無駄のない歩で木々の合間を抜けていく。


「なんか……並んで歩いてんのに、動きが真逆やな」

「動の風。静の木。――相性は良いと見る」


「まー、漫才としては悪くないかもな」


と、笑い合ったその時だった。


――ガサッ。


獣の気配。距離、およそ十五間、現代で言うとおよそ27メートル程。


「武蔵くん、来るで!」

「承知」


バサァッ!!


草むらを割って飛び出したのは、体長三メートル超の魔猪まじし――

この世界のDランク魔獣、「鉄牙猪てつがちょ」。


「うっわ、こいつの牙まともに食らったら鎧でも刺さるで!」

「ふむ……では――一手にて断つ」


我は静かに木刀を抜いた。

その刹那――


ズン!!


音が遅れて響く。

魔猪の巨体が、ピクリとも動かずに止まったまま、次の瞬間には“前のめりに”崩れ落ちていた。


「え、えぇぇっ!? 今、何したん!?」


「“木魂こだま”の柄を、魔猪の鼻先に置いたのみ。打つ前に恐怖で硬直したか」


「いやいや! あれ絶対なんかしたやろ!? てか打ってるやろ!?」


「……少し、触れたのみ」


「それ打ってるって言うねん!!」


――変態。


そう言いかけたカエデだったが、その後の言葉は出なかった。

それほどに、木刀の一撃は――静かで、重く、美しかった。


しばらくして――


「ふふ〜ん♪ 魔猪のロース焼肉、できたで〜!」


火を囲む焚き火の上に並ぶのは、分厚く切られた魔猪の肉。

カエデがさばき、独自の調味料をまぶして香ばしく焼き上げたもの。


「良い香り……肉の線維せんいを見極めて切っている。見事な“捌き”」


「ふふん。料理も忍術のうちやからな。毒見は任せたで〜?」


「承知」


一口。

じゅわ、と肉汁が染み出し、山の胡椒の香りが鼻を抜け、柔らかくも弾力のある食感が舌を喜ばせる。


「……美味」


「やろ? うち、食い逃げ常習犯やけど料理は本職やねん」


「カエデどの、我の所望ライフには飯も必須。――どうだ、専属料理忍者にならぬか?」


「はっは、そんなん言われたん初めてやわ。……考えとくわ」


焚き火の火がパチパチと鳴る。

星空の下で、ふたりはしばし沈黙。


「……なぁ、武蔵くん」

「何か?」


「うち、けっこう人間関係とかメンドい思ってたんよ。でも、あんたとおるとなんか――ええわ」


「我もしかり。共に在る者が“楽”であること、これもまた天下無双の所望ライフの条件なれば」


「……ふふ、アホやな。ほんま、変態やわ」


「む? それは褒め言葉か?」


「せやな。――今は、そうかもしれへん」


火が、優しく揺れた。


こうして、ふたりの距離は少しずつ縮まっていく。

風と木。動と静。ボケとツッコミ。


――異世界にて、出会うべくして出会った変態たちの、旅は続く。



▶次話:「地より現る大槌の兄貴。鍛冶と変態の邂逅かいこう」へ続く


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