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異世界武蔵転生『我、天下無双は飽きた故、のんびり所望ライフを所望する』  作者: 二天堂 昔
第一章『我と最高の仲間たち〜全てにおいては単純にスローライフのためにて天下無双を貫く我が生き様よ』

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第三十四話(挿絵有)「変態木刀剣豪と変態木刀姫」


五行庵 静寂の書斎にて


竹林に囲まれた、しんと静まり返った一室。


障子の向こうからは鳥の声、風の音、竹が擦れる柔らかな音が響く。

その中で、ただひとり、筆を走らせる者がいた。


「……風の巻、改訂──“風とは、心の間に吹き渡る隙也”。ふむ、やはりここは“呼吸と空気の対話”と記すべきかの……」


武蔵である。膝を折り、丁寧に巻物へと筆を滑らせていく。

その手元には、【五輪書・改】──己が死後に世へ残す書であったが、今はこの異世界の理に即した新たな知を記すための巻物となっていた。


「ん……?」


ふと、筆を止める。


肩がゾクリ、と震えた。明らかに気のせいではない。

妙な“熱”が、何処か遠くから届いてきたのだ。


「……この胸のざわめき、まるで……拙者に強く共鳴する“木刀の波動”が……?」


ぽつりと呟いたその声は、まるで霊的共鳴を感じ取ったかのようだった。


「……いや、しかしありえぬ。木刀に情熱を燃やす変態など、拙者以外おらぬはず──」


その瞬間、書斎の隅に設置されているラジオ機構から、ピッ、と音がして自動で音声再生が始まった。


『ラジオ五行庵~っ!こちら、ヒメネーっ!本日は第十三回“わたくしがいかに木刀に恋をしたか”特集、開幕ですわァァア!!』


ばさっ!!


武蔵の筆が、すっ飛んだ。


「なっ……なんじゃ、このテンションは……!?」


『……ふふふ……“実在するのですわ。木刀という武器一本で、この世界の頂に立った変態リスペクト剣豪が──!”』


「何ィィィイイイ!!???」


武蔵、崩れ落ちる。


隣室からカエデのツッコミが飛んできた。


「ちょっ!? なんなん!? 誰!? いまの声誰!? なんかウチらのこと崇められてへん!?」


「武蔵ー!?また変な波動拾ったんか!?」


「むぅ……この者……拙者の真の業に通ずる“木刀の道”を……覗いておるのか!?」


空雷が眉を顰め、記録巻物を巻き戻し始める。


「……この声、紫藤家の末裔か……。しかも個人でここまでの高精度ラジオ出力とは、恐れ入る」



一方その頃、ひめねの旅路はというと――とある峠越えの途中


「はぁっ……! ふぅっ……! ようやく峠を越えましたわっ!」


ひめねは汗一つかかずに山道を越えていた。

腰には木刀、腰には魔力蓄積型の小型携帯魔導ラジオ。胸にはリスナー認定証(自作)が光る。






挿絵(By みてみん)







そして──ある日の五行庵ラジオ放送。


ナギサ『次回の放送は、「武蔵さまの五輪書・改、今ここに始動!」を特集予定です!お楽しみに~!』





「!!?……ぁぁぁぁぁあぁ……ぁぁぁぁッ……!!」


山道に崩れ落ち、頬を紅潮させながら地面をのたうち回る少女。


「五輪書・改!? 武蔵さまの思想がッ!この世界においてさらに進化しようとしているというのですかァァァアア!!」


「お嬢様ァァァ!! 気を確かにィィ!!」(従者のゴウセツ、崖上から叫ぶ)


「くぅ……記すだけではない……それを、放送としてわたくしに“響かせてくれる”なんて……もう……もう……拝みますわ……! 拝み倒しますわ……!!」



五行庵 武蔵の決意


「……これは、試練である。木刀を通じて、異世界に“静”を伝えよという啓示に違いない……!」


武蔵は筆を握り直した。筆先には迷いがなかった。


「──よかろう。ならば、拙者の“木刀五輪書”……この異世界に完全なる形で記してやろうではないか」


次話、ついに五輪書改(ごりんのしょかい)、水の巻を全国放送か!?へ続く。

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