第三十話「五行庵フェス開催決定!世はまさに大・ラジオ戦国時代ッ!!」
――とある夜の五行庵。
「でっかい祭、やってみたいんやけど!」
唐突に風飛カエデが放ったその一言は、今や世界を巻き込む旋風のはじまりであった。
「祭……? なんと心躍る響きでござるか……!」
黒鋼創冶が目を輝かせ、すぐさま木材の束に駆け寄る。
「屋台や! 屋台建てよ! 焼き鳥と味噌ダレ団子と、あ、そんで──」
「やはり屋台であるな! だが拙者は! 魔物素材で作る金属の屋台を! 溶鉱炉つきで!」
「溶鉱炉ついてたら人来いへんて!」
「フェス……音楽もあるのか? 武蔵! 武蔵、太鼓はどうだ!? 木刀で叩けるよな!?」
「音も響く、香りも立つ、味も沁みる……これはもう、全感覚型の饗宴ではないかのう……!」
「剣豪どの、それはフェスじゃなくていつもと同じ宴会では……」
天道空雷がつぶやいたが、すでに誰も止められない。
「では、決まりですわね? わたくしは……素敵なドレスで来客を迎えるお役目をいただきたいですわ♡」
「ウチは司会や! ラジオ公開収録、絶対やる!」
「オレさまは火炎パフォーマンスや! バーベキューも任せろぉお!!」
「我は……何をすればよいのだ?」
全員が、武蔵を見た。
「そら、当然、木刀講演会やろ?」
「む、所望した」
◆ ◆ ◆
フェス開催の準備は、あっという間に国中へと広まっていった。
「五行庵フェス」──ヒナガ国史上初の、ラジオから生まれた大祭である。
天道空雷は電波網を操り、周囲各国へ魔導ラジオによる告知を放送。
隣国ソルメリアからは“視察”という名の大使団がぞろぞろと押し寄せることになる。
「……こ、これが……彼らの“自由すぎるラジオ事業”……!」
「やはり、我らは……あまりに小さく……法と秩序に囚われすぎていたのでは……」
「いや違う、ただの変態の集まりだ」
「だが……それが、いい!!」
一部富裕層が泣いた。
一部聖職者が興奮した。
一部軍人が地団駄を踏んだ。
すべての民が、耳をすませ、胸を躍らせる。
五行庵から流れる「カエデの朝ラジ」から告げられたその一言が、すべての火蓋を切った。
「五行庵フェス! 開催決定! めっちゃ来てなあああ!!」
◆ ◆ ◆
当日。
竹林の奥に現れた、まるで別世界のような会場。
舞台では空雷による天候操作で、虹色の霧が流れ続けている。
焚火ステージでは烈火が踊り、黒鋼は超振動鍛冶の実演を行い、カエデは生ラジオ収録中にボケ倒し、ナギサは観客のど真ん中で癒しの歌声を披露する。
そして、武蔵。
「……皆の者よ、見よ」
神木の黄金の枝から削り出された“我が一刀”を片手に、武蔵が立つ。
「真に斬らぬ剣とは、心を穿つ者なり──
ゆえに、見よ!! これが、天然木刀である!!」
──その瞬間、拍手喝采が巻き起こる。
一方、六人の仲間たちは、冷めた目で揃ってツッコんだ。
「また木刀ボケかい!!」
◆ ◆ ◆
夜。
竹林に提灯が揺れ、魔道の灯りが夜空を彩る。
各国の放送技術者や魔道士たちは、それぞれ驚嘆し、時に嫉妬し、時に涙しながら、この電波の始まりが“本物”であることを、思い知った。
だが、まだこれは――“祭りのはじまり”にすぎない。
明日もまた、五行庵ラジオは電波に乗せて叫ぶのだ。
「なあ! もっと面白いこと、所望せえへん!?」
――世界は変わる。
変えてしまうのだ。
のんびりと、楽しく、全力で。
次話、「天道空雷プレゼンツ!身体測定in 五行庵〜寸法の宴~」へ続く!




