第二話 回想編「我、再び生まれ落ちし剣の子」
転生の瞬間――
我が魂は、天より落ちる一条の剣となりて、この異界の山奥にひっそりと生を受けた。
泣き声はなかった。
代わりにあったのは――構えである。
我は産声の代わりに、小さく両手を合わせ、目を閉じてこう思った。
(ふむ……この身は再び剣と共にあるか)
そう、この地は我が剣を完成させるための、新たなる“修行の場”であった。
育ての親は、隠遁した元剣士の老爺。
「天から落ちた小僧じゃ」と言って拾い、飯を与え、鍛錬の基礎を与え、そして口癖のように言った。
「武器は己で選べ。されど、選んだそれに命を宿せ」
我は、すぐに木刀を選んだ。
理由は――己の直感だ。
木の温もり、形、重さ、そして命の宿りやすさ。
鉄にはない“余白”が木にはあった。
そこにこそ、所作を極める余地があると感じたのだ。
だが、老爺は首を傾げた。
「なぜに刃を避ける? 抜かば斬るこそ、剣の道ではないのか」
我は言った。
「我が剣は、斬らぬためにある」
――その言葉の真意を知るのは、まだ先のこととなる。
十歳――
我はすでに、山中の熊を木刀一本で打ち倒していた。
十一で大木を木刀で斬り倒し、十二には山の盗賊団を全員打ち倒した。
村人は恐れ、やがて拝んだ。
「山の小さき剣豪さま」と。
しかし我にとって、それはどうでもよいこと。
ただ、己の木刀を磨き、削り、油を引き、木目を読み、構え打ち、置き、歩き、佇む――
“静”を極める所作こそが、我にとっては「修行」であり、「快楽」であった。
十五歳――
老爺は静かに逝った。
老爺は最期に、
「行け、武蔵……この国の外には、奇妙で強ぇ奴らが山ほどおる。
そいつらと飯を食い、語り、斬り合い、笑え。
そしてお前の“木刀”が、どこまで通じるか、試してみろ」
老爺の遺した薪を全て削り、一本の木刀とした。
――名を、「木魂」と名付けた。
我はそれを背負い、旅に出た。
己の剣を極めるため。
所作を完成させるため。
そして、天下無双のスローライフを手に入れるため――
そうして我は、最初の仲間――
風飛カエデという、お転婆な女忍びと出会うことになる。
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▶次話:「風、駆け抜ける刃。出会いは双剣の嵐」へ続く