第十八話「──それは“天然の木刀”ゆえに」
神木の枝から削り出した、我が木刀。
名などいらぬ。ただの“木刀”である。されど、されどだ──
……こやつは、違う。
握った瞬間に分かるのだ。脈打つような温もり。
風を斬らぬようにして流す形状。
芯が通っている。凛としておる。
「うむ……これは、良い。実に、良いぞ……!」
木刀は“斬らぬ”がゆえに、剣士に“覚悟”を問う武器。
だがこの木刀は、ただの鍛錬具ではない。
いや、鍛錬具という概念すらも凌駕しておる……まるで、そう──
“生きている”。
木が育ち、枝となり、落ち、その命の痕跡すらも帯びて今、我が手にある。
それがたまたま“棒状”であった。
それが“握りやすく”あった。
それが“斬れぬ”ものであった。
……これは必然ではないか?
この世に生を受け、木刀として生まれ直したこの一本に、我は敬意を払い、礼を尽くしたい。
「うむ……! この丸み、滑らかさ……そなた、完璧だ」
無論、木刀ゆえに欠けもすれば割れもする。だが、それも良い。
我が手で削り直し、磨き、塗り直してやる。
傷は勲章。欠けは記憶。割れは絆である。
それを積み重ねてこそ、“本物の木刀”というものよ!
「ぬぅ……我は、愛しておる……! 我が木刀よ……! この手のひらと一体となるまで、共にあろうぞ……!」
──そう、まさにこれは、我にとっての“伴侶”!
「よし、いっそ名をつけようか……いや、いやしかし……“木刀”という名の木刀、というのもまた風流……」
(ぴしゅん!)
「ちょっと待てぇえええええ!!」
「木刀に対して真顔で愛の告白してんじゃねぇよ!!」
「どの口が『共にあろうぞ』とか言うねん!気色悪ッ!」
「武蔵さま……? 本気すぎて……ちょっと心配ですわ」
「おい、姫さん、オレさま今めちゃくちゃ鳥肌立ってんだけど」
「拙者も、木には愛着があるが……これは、次元が違う……」
「天道空雷も、木刀に嫉妬する未来を今見た」
「お、お主らッ! わかっておらぬな……この天然の質感、色味、香り、全てが──」
「「「「「──天然じゃねぇよ!!!」」」」」
……今日も五行庵は平和である。
⸻
【黒鋼創冶視点】
──「木刀か……拙者の目から見ても尋常ではないのう」
ふむ……これはただの木刀ではない。
拙者の鍛冶眼から見ても、尋常ならざる“逸品”と呼べる。
「武蔵どの……お主が手にしておるそれは、神木の枝から削り出したもの」
我々鍛冶師は、素材を見極める眼力こそ命である。
鉄でも木でも、どんな素材でも“命”を感じられるかが、腕の見せ所だ。
……だが、この木刀はその段階を遥かに超えておる。
握り心地、木目の美しさ、含水率の絶妙なバランス。
まるで生きているかのように、しなやかで、なおかつ芯が強い。
「普通の木ならば、鍛え方でどうにでもなるが、この素材は『元』が違いすぎる……!」
正直、こんな木刀ならば、拙者も握ってみたいと思うほどだ。
剣豪たる武蔵どのの異常なまでの“木刀への愛着”も、理解できる。
ただの“武器”という枠を超え、まるで伴侶のように語りかける。
木刀はお主の“静”の動きを引き出すための相棒なのだな。
「拙者の大槌も、素材に拘ってはいるが、木刀となると、話は別だ。木は生き物。扱いは繊細にせねばならん」
その意味で言えば、この神木由来の木刀はまさに奇跡の産物。
剣豪どのの鍛錬とこの木刀が揃えば、天下無双も夢ではない。
「……ところで武蔵どの。あの枝の残り、ほかの武具素材に使わせてくれぬか?」
当然、拒否されるわけもなく、我が鍛冶小屋では既に“神木由来の変態素材”として、最高級の武具を造るための構想が練られている。
……それにしても、武蔵どのの木刀への想いは、拙者も見習いたいものだ。
己の道を極めるとは、こういうことかと、身が引き締まる思いである。
拙者もまた、鍛冶の道を極めて、武蔵どのの木刀と並ぶ逸品を生み出す所存だ。
⸻
次話、「武蔵の木刀性能測定会、開幕!?」へ続く。




