第十話「霧竹の魔獣と、六人六様の所望宴」
未踏の地、翠隠の幽苑へと続く道は、すでに深い霧に包まれ始めていた。
竹が密に茂るその光景は、陽すら通さず、空と地の境が曖昧となる。
「これは……想像以上やな」
カエデが眉をひそめ、弓を構える。
「空の気配が濃い……間違いない。この先に霊脈が流れている」
天道空雷が静かに地を見つめた、その瞬間――
――グガギャアアァ!
霧の奥、風を裂いて飛来する影――
魔獣クダカラグチ、霧に潜み獲物を狩る、嘴と羽音で幻惑する巨大な鳥系の魔物だ!
「姫さん、下がれ!」
「は、はいっ!」
護堂烈火がナギサの前に立ちはだかり、火炎の大盾《焔壁》を構える。
衝撃波が霧を割き、紅蓮の壁が展開される!
「来たなぁ、ほな空雷、いくで!」
「承知!」
カエデが疾風のように竹林を駆ける。空雷が空間魔法陣《定位の陣》を発動。
霧の中でも敵位置が正確に浮かび上がる!
「──撃つ!!」
カエデの風属性の矢が、静かに放たれ、羽を裂いた。
「まだ終わらん!」
黒鋼創冶が地の魔法を地面に叩きつけ、岩槍を隆起させ、クダカラグチの脚を拘束!
「今じゃ、武蔵どの!!」
「心得た―」
その瞬間、武蔵の木刀が霧を裂いた。
無駄のない“静”の一撃――
ズンッ。
霧がざわめく。巨大な鳥魔物が、音もなく崩れ落ちた。
「……我が、所望の一閃なり」
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「ふふふ……素材素材素材っ……この嘴の硬度!この翼の薄膜……!うおおおッそそるッ!そそるぞコレはぁ……!」
黒鋼の目がギラギラと輝く。
ナギサが一歩引きつつ微笑む。
「わたくしも、この香ばしい香りには抗えませんわ……!ナギサ特製、《霧鳥の照焼》をどうぞ♪」
「ウチも手伝ったんやからな!」
カエデがムスっと言いながらも皿を差し出す。
食材の旨味を引き出す水風調理、完成!
「オレさまの舌が唸ってるぞこれ……っ!」
烈火が骨までバリバリ食いながら叫ぶ。
「……これ、骨ごと武器に加工できるな。よし、旅籠鍛冶開業すっか」
黒鋼が獣骨をなでながらつぶやく。
「剣豪どの、やはりこの所望旅は尊い。霧と静寂と、竹と仲間……そして観察対象の貴方がいる」
天道空雷が小さく頷く。
「……ふ。所望に至る道にして、なかなか騒がしいな」
焚き火の灯りが揺れ、霧が晴れるように心もほどけていく。
竹林の夜は、静かに、温かく、そしてにぎやかに更けていった――。
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次話、「竹林着きし六人、そしてまた剣豪あるある」へ続く。




