第八話(挿絵有)「二人の刺客、所望を阻むもの」
山道の峠道――
陽が傾き、濃い影が地を伸ばすころ、一行の前に現れたのは、まるで火山のような炎のオーラを纏った男と、雷を従えた魔術師だった。
「……この空気、何やらただならぬ気配ですわ」
「ふむ……来るぞ。全員、下がれ」
武蔵が一歩前に出た時だった。
バァァン!!
地面が砕け、突如として現れたのは巨漢の男。
炎の大盾を背負い、赤銅色の肉体を持つその男は、満面の笑みで吠えた。
「武蔵ー!! ようやく会えたなァァ!!」
続いて、雷光とともに、黒い法衣を纏った男が空間をねじ曲げて出現する。
「剣豪どの、自分は天道空雷と申す。この男は護堂烈火。こやつに付き合う形ではあるが……本日、貴殿に挑ませていただく」
「……挑む? 我に?」
「おうとも! オレさまはなあ……強い奴と戦うのが所望なんだよォ!」
「天道空雷は知の所望を貴方に見る。この出会い、我が人生における確かな“特異点”である……!」
ナギサが心配そうに見つめる中、カエデがこめかみを押さえる。
「ちょ、ウチら旅の途中やねんけど!? この人ら何!? 変態増えすぎちゃう!?」
「カエデどの、既に手遅れでござるよ……」
武蔵は、静かに木刀を構える。
「ふっ……よかろう。ならば貴殿らの“所望”――我が所望で打ち砕こう」
「その言葉、俺の盾で盛大に跳ね返すぜェェ!」
烈火が盾を構えて地を蹴る!
その一撃、まるで山が動くような突進!!
武蔵は木刀でその一撃を受け流し、回り込む!
「剣豪どの、右上より雷の斬撃、警戒されたし」
空雷の指示と同時に、天が裂けるような雷が落ちる――!
しかし武蔵は静かに、地を這うような低い体勢で抜け、カウンターの一閃を烈火に叩き込む!
グガンッッ!!!
「ッハァ〜〜〜!! 今のは重いッ!! これが木刀の一撃かよォ!?」
「拙者なら骨折れてるでござる……」
天道は笑みを浮かべる。
「想像以上だ……ならば――陣、展開!」
彼の足元に浮かび上がる魔法陣。
空間を歪め、烈火の盾が瞬時に別の角度へ転送された!
「ほらよ、武蔵ー! 今度はこっちからだッ!!」
正面、背後、側面――次々に現れる攻撃の波。
それでも武蔵は一歩も退かず、研ぎ澄まされた動きでそれを全てさばく。
そして――
「我が“所望”は、静かなる暮らし。騒がしき挑戦者どもよ、所望に水を差すなかれ――!」
全身に木刀を伝う重みと気配が集まり、一閃。
ゴオオオオオッ!!!
烈火と空雷、ふたりがまとめて吹き飛ばされ、大木に打ちつけられる!
……数秒の静寂の後、空雷が咳き込みながら笑った。
「くっ……完敗だ、剣豪どの……木刀に、これほどの意思を感じたのは初めてだ……!」
烈火もゲラゲラと笑う。
「ハハハ! 最高だよ武蔵ー! 気に入ったァ! オレさまを仲間にしろォ!」
「ふむ……所望するのか?」
「するッ!! 絶対楽しいに決まってるぜ、この旅!!」
天道も肩をすくめながら立ち上がる。
「天道空雷も……貴殿と所望の旅を共にすることに、異論なし」
カエデ:「変態二人追加やぁ……ウチ、ほんま大丈夫かなぁ……」
ナギサ:「ふふふ、仲間は多いほど賑やかで愉快ですわ」
黒鋼:「にぎやかすぎて、拙者の鍛冶場が壊れないか心配でござる……」
武蔵は微笑しながら、木刀を腰に戻した
「では……我ら、六人。所望なる日々へ向けて、いざ進まん」
こうして、五行で言うところの地・水・火・風・空がそろい踏み。
伝説の屋敷――五行庵建設へと至る、最初の物語が、静かに幕を開ける。
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