第三部 生の実感
足りないもの、要らないもの、ちゃんと整理出来る?
男は時々思う。腹筋をしながら。
自分はうんこ製造機なのかもしれない。
大昔は仕事をしないと生活できなかったらしい。
今は、基本収入だけでも生きていける。その気になれば旅行もできるし、面倒なら行った気分だけ味わうことも可能だ。そして、実践済みだ。
自分の今の生活は食べて鍛えて寝て食べて…
鍛え上げられた肉体は確かに自己満足は与えてくれる。
何か足りない。もっと、こう、なんか…
人並みの幸せと人生は見てきた。体験できたかどうかは微妙だが、知ってはいる。
読者は知っているだろう。男がとても面倒くさがりだということを。
思考が苦手なのかもしれない。
男は思い出した。昔の人の言葉
「考えるな、感じろ」と
何かをするにも資金は必要だし、外へ出ることは刺激になるかもしれない。
ちょっと切ないけどトモダチ君を売りに行こう。
トモダチ君の化粧箱は重かった。
普通の人間と同じ大きさの機械。樹脂製の軽量部品も使われているが。重くない筈はない。
自分の目算の甘さ、計画性のなさに半ば絶望しそうになるが、それも筋トレと思えば動く意志は湧き上がる。
不用品買取店はどこだ。と
見つけた。と男は思ったが、実は違っていた。
「不用品販売店」
「あなたに必要ないものが統べて揃います」
看板にはそう書かれていた。
・自律型松葉杖
・全自動扇風機
・大容量洗面器
・フルマニュアル調理ロボット
・大人用チャイルドシート
ect..ect…
確かに不用品販売だ。誰が買うのだろう。「製造時から彩色済み塗り絵」を手に男は苦笑した。誰かがいらなくなった物ではない。はじめからその形の品々。
存在が意味不明の自分のようではないか。
とんだ無駄足だった。
男の持つ化粧箱は2つに増えていた。
処分するはずのロボットは持ち帰り、もう一体は「フルマニュアル調理ロボット」。
無駄遣いも甚だしいと男は思う。
だが、意味不明さが、自分と重なり妙に愛しい。
トモダチ君と並べてみると意外としっくりくるかも。理想男と仮想男みたいだ。
フルマニュアル調理ロボット【FM型COOK-06 】使用マニュアル。
後ろから子供に教えるように手を添えて調理してください。
—
確かにフルマニュアルだ。だが何処にロボ要素があるのだ?
途中まで読んだ男は思わず絶句した。
右腕部は包丁ユニット、フライ返しユニットと換装、【合体可能】
左腕部はフライパンユニット、土鍋ユニットと換装、【合体可能】
男は妙に納得した。これはロボット玩具と同じ方向でロボなのだ。
せっかく買った物だ。使ってみようか。料理などしたことがないけど。
簡単に完成品の料理が手に入るこの時代。おそらくは無駄でしかない素人の調理という意味不明の行為。
男が何を思い、何を感じ、何を作るのか。
検索の痕跡、調理ロボットの周囲に落ちている野菜や肉の断片。飛び散っている謎の液体。
男は刃渡り約15センチの刃物のようなもので指をちょっと切ってしまった。そして思わず指を口にした。
持ち運んだせいでちょっとバグっているのか、それが妙に人間臭いトモダチ君が買い出しや、味覚調整を手伝っている。
男は時々首を傾げながら、うーんとうなり、眉間にしわを作る。
…製造機たる自分が作るものは決まってる。
全力で作ったのが「それの様なもの」だ。
テーブルの上には、「カレーライス」。
そしてトモダチくんがそこに花束をそっと添える。
愛するモノには花束をおくリましょうと。
男は 「アルコール・糖質カット飲料風味」の
「生ビール」を飲み干した。
そして、
カレーライスは笑わない。
おわり
蛇足。
男が最後に飲んだ 生ビール 【キレ・爽快感ゼロ】は、コクがあるので隠し味には最適かもしれません。
ご愛読ありがとうございました。