002 ニート系ギャル
鼻歌まじりに麻希は自身のスキンを決定した。
白い髪、ショートヘア、妖精のような佇まいの顔立ち、160センチくらいの身長は最小ヒットボックスになるよう調整してある。身体つきは良く言えばスレンダー。悪く言えば貧相。これも攻撃を食らいにくくなるように数値をかなりいじってある。
「さあさあ、流れるように進んでいきましょう。やー、初期ステ弱いなぁ」
残されたバラメーター通りに極振りしたところで雀の涙だ。だったら適当に分けておこう。
『射撃』『ヘルス』『運転』『防御力』『正気度』……ここらへんは前評判どおりだ。ヘルスと防御が被っている気がしないでもないが、とりあえず均等に振ってみた。
「全部5段階中1か2……。不登校児の内申じゃないんだからさぁ」
仮想現実での自分を組み上げ、麻希はミッションへと戻っていく。
不登校児、で思い出したことがある。中学のときいきなり学校へ来なくなった女子がいた。それなりに会話する仲だったので心配になって連絡したら、彼女はどうもMMOゲームにドハマリしたらしく、良くいっしょにプレイした。高校に入学して以来疎遠になってしまったが、この“ニュー・フロンティア”という〝VR〟MMOの世界でまた会えるかもしれない。
そんなちょっぴり切ない過去を思い出した麻希は、ワンボックスカーで女アバターの誰かと待ち合わせていた。これが待機画面というヤツだろう。
「ねえ、君ネカマ?」
「は?」
突然話しかけられ、麻希はややセンチメンタルになっていたメンタルを仮想の現実へ戻す。
「だってアルビノ美少女なんてネカマくらいしか使わないでしょ。まあ、キャラ・メイクは相当頑張ってるみたいだけど、それくらいで本物の女を欺けると思うなよ~」
「いや、別に詐欺してるわけじゃないだろ。野郎のケツと美人のケツ、どっちを追いかけたいかって話だよ」
「でもそのスキンで恩恵得られそうじゃん? 私なんて極力自分に寄せたアバターにしてるのに」
「はあ? こんな美人がネトゲなんてやらないだろ。こういうゲームやってる連中はデブとハゲと体臭を併発してなきゃいけないんだよ」
「とんでもない偏見……」
目をそらす。一見すると会話なんてしていられないという意思表明にも捉えられる。
が、佐野麻希は“美人”と形容した彼女の正体を知ってしまう。そういえば、どんなゲームでも同じIDと似たようなスキンを使っていたな、と。
「なあ、宮崎」
「なに? …………なんでその名前を」
「ちょいちょいMMOやってたじゃん。佐野麻希だよ」
宮崎碧衣は驚き狼狽えながらも、冷静に相手が佐野麻希である証拠を探っていく。
「……。中1と2年生のとき同じクラスだったよね。何組か覚えてる?」
「3組と4組だったはず」
「いっしょに遊んだゲームの名前は?」
「ソードフィッシュ・オンライン。やー、無課金で廃装備整えてたもんね。あのアカウントって50万円くらいで売れそうじゃん?」
「…………。佐野はいまなにしてるの?」
どうやら麻希本人だと分かったらしい。アルビノの美少女は答えた。
「適当に高校生やってる。つまんねーと思ってるけど、まあ高校くらいは出ておきたいしさ」
「……良いよね。高校生って」
「通信制だって立派な高校だろ」
「あそこもう辞めちゃったよ。うちの目指してた高校じゃないもん」
「じゃあ、いまはなにしてるの?」
「ニート」
「身も蓋もないなぁ……」
「でも、このゲームをやれば仮想通貨をマイニングできる。億万長者が仕事してなくたって、誰も文句言わないでしょ?」
(話が飛躍してるなぁ。稼げるデジタル通貨だかなんだかって言っても所詮はゲーム販促用。知れてるだろ)