寝ているのって死んでいるのと同じ、ではないと思う
目の前に舞い降りた、俺の初めてのお客様は、優しい目で頷くと、俺を背に乗せ、あっという間に館に送り届けてくれた。……あ。3人と三吉君にちゃんとお別れを言えてない。まあ、今日も宴の中でたくさん話したし、あれが最後の会話ということでいいか。うん、仕方ないよね。
館で出迎えてくれたお姉さんは、特に驚くような様子も見せず、俺を見て軽く頷いた。
「送り出す準備をするから、明日まで待ってて。荷物もまとめないといけないだろうし」
あまり私物もなかったので、部屋の片付けはすぐに済んだ。マントとカボチャも脱ぐ。迷った末、カボチャは机の上に置いておくことにした。俺は、カボチャにこつんと自分の額を当ててみた。硬くて、冷たい感触。でも、どこか温かい、そんな気がした。
「これまで、おつかれさま」
そして、館の中を、俺は所在なく、うろうろと歩き回った。きちんと覚えて帰ろうと思ったからだ。
食堂、応接室、浴室、客室、開かずの部屋、リリーさんの部屋。挨拶しようと思ってノックしたけれど、リリーさんはいないようで、返事は返ってこなかった。
翌朝。準備の済んだ俺と、お姉さんと、館のみんなは、食堂で集まった。何やら一緒に見たいものがあるらしい。お姉さんは、お馴染みの水晶玉を取り出した。……嫌な予感。お姉さんがあれを取り出していい結果になったことが、これまで1度もない。
すぐに、水晶玉の中に、別の景色が映し出された。王宮の部屋から顔を出す健斗君と中條さん、友希さんだ。よしよし、まだ俺の脱走はバレていないらしい。3人は、王宮の人に、儀式の準備があると言われ、連れられて行った。
そして、王宮前の広場で、儀式が始まる。キョロキョロ1人、堂々2人。1名が誰だったかは名誉のため、記さないこととしたい。俺は、頑張れ、と3人にエールを送る。ところが、すぐに、中條さんと友希さんもキョロキョロし出した。……あれ、どしたの?
耳を澄ませてみると、友希さんは、お付きの人に「あと1人は?」と聞いている。あ、俺だ。そして、俺が部屋にいなかったと返事をされた友希さんは、「ふーん」とだけ呟き、それはそれは恐ろしい笑みを浮かべた。……やばい。間違いなく、怒ってる。
そうして、3人が願いを尋ねられる瞬間がやってきた。3人は顔を見合わせ、異口同音に「サヤちゃんを生き返らせて欲しい」と言い出した。しかし、「却下です」と担当の神官から首を振られる。「だって、死んでいない者を生き返らせることはできませんから」という回答が添えられて。……あ、日本語喋れる人その2だ。
『あ。これまずい流れじゃない?』
フィール先輩が呟くのと同時に、水晶玉の中の3人は作戦タイムを取った。
「死んでいないってどういうこと? 生きてる? 生きてるって、つまり死んでないってこと? つまり死んでも生きてる……? 確かにさっき現実にも体があるって言ってたような……」
あ、友希さんの目がぐるぐるになっている。ぺちんぺちんと隣の中條さんの後頭部を叩き、そのたびに眼鏡がずれていたが、中條さんは眼鏡を直すだけで、何も言わなかった。
「おい友希さん混乱してるぞ。おちつけ」
「そういえば、現実世界にいたけど。あの子、もともと私たちの世界に生きてて、生身でこっちに来ることができるってこと? つまり、今の私たちみたいなこと?」
大体あってる。でも、よく考えたら、それがバレたところで問題なんてないんじゃ……。しかし、友希さんは、深刻な表情でこめかみに手を当て、首を何度も振った。
「戦闘能力ないって言ってたけど、じゃ、あの子、生身で最前線出てきてたの?」
「でも、生身だと生き返らないよな……あいつ、何度も死んでたし」
「あなた方の言う、通訳の少女に関しては、この世界にいたときは死んでも生き返れたみたいですよ。だからその点に関しては、心配は無用です」
それを聞いて、俺はほう、と感心した。心配モードに入った友希さんを簡単に静めるとは、あの神官、できる。
「ただ、あなた方を迎えに現実に行ったときは生き返ったりしないはずですので、現実で何かあったら死んでいたでしょうね。実際、1人でいるとき、追っ手に追いかけられて、斬られたりしていたみたいですよ」
「き、斬られた?」
「おや、ご存じないのですか? 見る限り、勇者のお2人を呼び寄せようとした時ですね。追手がいずれも刃物を持っていて、彼女はあの通り弱く、1人でしたから。平気で突っ込んでいってましたし、普通に死んでいてもおかしくなかったような……」
「ここからあの神官の口をふさぐことって、できないですか?」
「王宮の屋根が崩れてもいいなら」
「……くそう……過ぎたことなんだからあんな風に言わなくても……!」
「斬られたことは事実じゃないか」
「死ななかったからいいんです!」
神官から、いらない告げ口を受けた勇者3人は、顔を見合わせた。
「頭おかしいんじゃないのかあいつ」
「やっぱり保護しないと」
そして、中條さんの生み出した光る魔法の中に次々と乗り込み始める。
「……あの、勇者様方! 願いは⁉」
「ちょっと忙しいんで、それどころじゃないんだわ! じゃーな!」
やばい。健斗君が今、確かにこっち見た。とっ捕まえに行くからな、と口が動いたし。
「あ、飛び立った。5分くらいで着きそうかな。まあ、間に合わないけど。……じゃあ準備もできたことだし、出発しようか。何か彼らに伝言ある?」
「ありがとうございました、っていうのと、胸を張れるようになったら、また会いに行きます、って」
正確には、見に行きます、だけど。だって会って話したら複数の世界を認識して自我が揺らいじゃうんでしょ? なら、遠くから見るしかない。それくらいは許してほしかった。
続いて、先輩とハモさんからも、お別れの言葉をもらった。まず、フィール先輩がいつもと変わらない、どこか笑みを浮かべたような表情で、口を開く。
『じゃあね、けっこう楽しかったわ。退屈しなかったし。……あなたのこれからに、いつも幸運がありますように』
そう言って、フィール先輩はおどけたように一礼した。一方、ハモさんは短かった。
『どうです? 我々の仲間に入りたくなりましたか?』
『遠慮しておきます。まだ、それを決められるほど、私は生きてないから』
俺が答えると、よろしい、と大きく頷かれた。後ろから、空気を読まないお姉さんが軽い口調で口を挟む。
「ま、死んだらまた戻ってきたら? 歓迎するよ」
「でも、死んでもここに来るとは限らないんじゃ……」
「半分は夢でできてる君。来られない理由がない」
抑揚をつけて呟くお姉さんは、いつも通り楽しそうだった。俺は、「そうなった場合はいつでも声を掛けてください」と言った後、気になっていたことを尋ねてみた。
「王国が嫌いなら、お姉さんはこれから暴れ回っちゃうんですか?」
「いや、別に。今まで通り、ここにいるよ? 暴れるのも面倒だからね」
「あ、お姉さんっぽい」
「まあ、夢の中での出来事だからさ。適当でいいのさ。寝てるのって、死んでるのと同じようなものなんだし」
バイトを誘って来た時と同じ文句をお姉さんが言う。ただ、俺は、それには首を振った。
「生きてましたよ。少なくとも、私は」
「あ、そうそう。君、望みは何かない? 叶えてあげる。影の薄さを無くすとかでもいいよ」
なんで? と思ったけれど、そういえば、館を去る時はお土産をもらえるんだっけ。
俺はしばらく考え、首を振った。影の薄さも、立派な俺の一部だ。それに、最近はコントロールもできるようになってきたし。
「いりません。私、もう十分幸せです。これ以上もらったら持ちきれません。逆に返さないと。ほら、言葉を理解する能力って、バイト前提でくれたんでしょ? 私には、まだちょっと持て余すので、お返しします」
異世界語なら、健斗君に教えてたおかげで、俺も能力なしでそこそこ話せるようになったしね。まあ、現実世界に戻ったら絶対に役立たなさそうな力ではあるが。
「君がそれでいいなら、まあいいか。しかし、よりによって「幸せ」か。やっと気付いたの? ほら、ずっと知りたがってたじゃない」
気付いた? と俺が顔を上げても、お姉さんは何も答えてくれなかった。……あ! そうだ‼ 絶対に、何が何でも何とかしてもらわないといけないことを、1つ、忘れていた!
「あの、私! この通り、女の子の姿に変わっちゃってるんですけど! これって元に戻りますよね⁉」
「残念ながら…………戻る」
「えぇっ⁉ あっよかった!」
なんか深刻な顔で切り出すからもう駄目かと思ったら普通に戻るらしい! よかった!
「あと少しで永久に変わらないところまで変化したのに……今程度なら、現実に戻ったらそのうち元に戻るよ。放っておけばいいさ」
でもすごく危なかったらしい! ナイスだあの時の俺!
そして、最後にリリーさんと話そうと移動すると、リリーさんはなぜか大きな荷物を担いでいた。いや、正直さっきから気にはなっていた。リュックが大きすぎ。リリーさんの3倍くらいある。なにこれ……今から登山でも行かれる……?
さらにリリーさんは何やら『しっかりやりなさいよ』とフィール先輩から声を掛けられている。ちょっと意味が分からない。えっ? リリーさんは? なんで大荷物?
「もう、この世界にはいられないから。出て行かないといけない」
突然リリーさんから発せられた爆弾発言に、俺は肝をつぶした。……なんで⁉
混乱している俺に、お姉さんが当然だという口ぶりで説明してくれた。お姉さんの中では、リリーさんが出ていかないといけないのは、ポストが赤いのと同じくらい当たり前のことらしかった。
「君、あっちの世界にリリーを呼び出しただろう。あれ、駄目だったんだよ。言ったよね、実体のある者は、2つの世界には存在できない。例外は、影響を受けない君くらいだって」
「ちょっとでも駄目なんですか……?」
「ちょっとっていうか、出られたこと自体がおかしいんだ。まあ、君のせいなんだけどね」
「なんで⁉」
俺がリリーさんに何かした記憶なんてありませんけど⁉
「君さ、リリーにあっちのものたくさん食べさせただろう? 少しならリリーも大丈夫だけどさ。ああいうことすると、あっちの世界にどんどん引き込まれちゃうから」
「止めて⁉ もっと早く言って‼」
俺が怒りで足踏みすると、お姉さんはまったく悪びれていない顔で、肩をすくめた。
「言ったじゃないか、「よもつへぐいくらい知らないのか」って」
「あれ⁉ 分かりづらっ!」
「その後、君は影響ないけどね、って言ったよね。影響ないだけならわざわざ言わないでしょ。じゃあ誰に影響あるんですか? って聞くべきだったよね」
そんな……。俺が茫然としていると、なんとリリーさんは『問題ない』と言い出した。何を言っているんだこの人は。
『いや問題ないことなんて1つもないですよ⁉』
『知ってたから。それでもいいと思ったの』
『知ってたって、何を?』
リリーさんは、何も言わなかった。
……全部知ってた。つまり、食べることや、あっちの世界に出ることが、どんな意味を持つのかということも。それでも、来てくれたんだ。
『ごめんなさい……どうしたらいいですか』
『……サヤは、どうしたい?』
優しい声で聞くリリーさんは、いつものリリーさんだった。どうしたいか。決まってる。
『責任取ります』
『別にいらない』
『取ります!』
『いらな『取りますっ‼ 嫌ですか⁉』
俺が詰め寄ると、リリーさんは困ったように目を閉じた。お姉さんが横から呆れたように口を挟んでくる。
『いや、責任取るってサヤちゃんいったいどうするのさ』
『私、卒業したら叔母さんの家を出るつもりなので。一緒に暮らしましょう』
『結構あれよね、あなたぐいぐい行くわよね。影薄いのに』
『そうしないと気付いてもらえませんから』
あ、そう、とだけ頷いたフィール先輩は、その時ちらっと外を見た。そして、お姉さんに『来るまで5分じゃなかったの?』と囁く。
『そのくらいはしてやるさ。……ほら、リリー。サヤちゃん、責任取るって。どう思う? ゆっくり決めていいよ。自分の言葉で、言ってごらん』
リリーさんはしばらく迷い、目を開けて、じっと私を見つめた。それは、リリーさんがしてほしいことがあるときに見せる、いつもの表情だった。
……そして、リリーさんはたどたどしい口調で、でも、はっきりと、言った。
「サヤといっしょに、いきたい」
「リリーさん……っ‼」
これから先は、一緒に行こうと。守ってあげよう、じゃない。それが、なんだか嬉しくて、しっくりきて、笑ってしまった。
そして、俺とリリーさんは、門の外に並んで立つ。外には、誰の姿もなかった。こちらに向かっていたはずの、勇者たちさえも。
お姉さんは、最後だけ、真面目な顔で見送ってくれた。そうして、先輩、ハモさんと揃って、深々とお辞儀をする。
「またのご利用を、お待ちしています。それでは、お二人とも、良い旅路を」
次の瞬間。俺とリリーさんはどこか、山の中腹の草原に立っていた。遠く下に、街が見える。柔らかく吹き抜ける風が、俺とリリーさんの髪をふわりと揺らした。そして、俺は周囲を見回し、そこが、昔にお姉さんと会っていた公園であることに、しばらくして気付いた。しかし、どう見てもただの草原で、公園なんてどこにもなかった。
その代わり、草の生い茂った草原の一角には、崩れかけた建物の跡があった。一面を、白の曼殊沙華が覆っている。中に入ってみると、どこか覚えのある食堂と、客室の一部だけが朽ちて残されていた。
ふと、見覚えのない部屋があったので、中を覗き込んでみる。崩れかけた壁に掛かっている標語を見て、俺はここが何の部屋だったかを理解した。開かずの、部屋だ。ほら、客を煽ってくる標語があるとかいう……。なんだっけ、「何も望みがない人間は人生楽しそうだね」みたいなあれ。
でも、この標語。先輩が言ってたのと、ちょっと違うような……。
俺の後ろから、ひょいと顔をのぞかせて、リリーさんが残念そうに呟いた。
「調理場がない」
「じゃあ、私と暮らす部屋は、ちゃんとしたキッチンがあるのにしましょうか」
俺がリリーさんに手を差し出すと、リリーさんは頷いて、きゅっと俺の手を握った。温かくひんやりしたその感触に、俺は、一瞬だけ、あのカボチャを思い出した。
そして、俺とリリーさんは、家に帰った。リリーさんは普段は影に潜っていたし、俺は姿が変わっていたが、影の薄さを活用し、叔母さんには気付かれなかった。
お姉さんの正体は、いったい何だったんだろう。夢を自由にできて、しかもオカルト的な存在だみたいな言い方をしていたけれど……しかし、その疑問は、ふとした時に解かれることとなった。俺が、例のオカルト好きの水原さんとメッセージで話していた時のことだ。
「……そういえばさ。前に言ってた館の話。これだけが具体的で不思議なんだけど」
水原さんが急にそんなことを言い出したので、俺は顔を上げた。具体的、って?
すると、水原さんはしばらく溜めた後、俺に教えてくれた。
「……。館の主人の正体はね。バクなんだって」
「バク? って、なんだっけ?」
「夢を食べる妖怪」
もう1つ。これも、俺にとっては非常に大事なことだったので、記しておきたい。
俺が最後にお土産を断った際、お姉さんが言っていた言葉。あれについても、意味が判明した。正確に言うと、お姉さんは、こんなことを言っていた。
――「君がそれでいいなら、まあいいか。しかし、よりによって「幸せ」か。やっと気付いたの? ほら、ずっと知りたがってたじゃない」
俺は、あの言葉がずっと引っかかっていた。よもつへぐいの話で分かった。お姉さんの意味深な言葉は、スルーしてはいけない。何かきっと意味がある。しかし、幸せ? なんだ? あれか? 何も望みがないから人生が楽しそうってか?
しかし、いくら頭をひねってもわからない。俺がずっと知りたがっていたこと……? 何かあったっけ?
きっかけとなったのは、リリーさんだった。
家の近所の図書館を案内した時のことだ。リリーさんは一通り見回り、キラキラと目を輝かせた。こんなに本が一杯……、みたいなことを言ってる。嬉しそう。さっそくカードを作り、「どうします?」と尋ねると、今日はここにいるとのことだったので、俺はひとまず別れて学校に向かった。
その3日後。リリーさんが部屋でやたら分厚い本を眺めているなと思ったら、タガログ語辞典だった。タガログ語は、フィリピンの公用語だ。
たぶん、俺がこの前言った、「俺の両親はフィリピンのセブ島大好き。だから俺もフィリピン産のバナナ大好き」という言葉に影響されているのだと思う。気になることは何でも調べるのが、リリーさんだった。俺は、初日、図書館から帰ってきたリリーさんが「運命の赤い糸」という題名の絵本を開いているのを見たとき、それを改めて痛感したものだ。
忘れてくれるって、忘れてくれるって、言ったのに……!
それはともかく、俺もリリーさんと並んで寝転び、辞典を眺めた。へー、バナナって「サギン」っていうんだ。なんか堅そうだな……。そういや俺の名前もフィリピンで両親が考えたって、聞いた、ような……。
そういえば、と、俺はなんとなく、ページをめくってみた。俺の名前は「まさや」で、女の子だと「さや」にしようと思ってた、らしいけど……。
「まさや」、の項目を見て、もしかしたら、と思い。俺は、「さや」のページを見つけるべく、さっきよりずっと早いスピードで、ページをめくる。同時に、お姉さんや健斗君たちに、以前自分が言った言葉が蘇る。「両親に会って、聞いてみたいことがあるんです」「私のことをどう思っていたのか、聞きたいんです」。だが、もう、そんなことを聞ける機会なんて、ある、はずが……。
そして、辿り着いたページの項目に、俺は指をそっと走らせた。
saya [語根][名] 幸せ
masaya [形] 楽しい、幸せ
――タガログ語で俺の名前、「masaya」「saya」は、……「希望、幸せ」を意味するのだという。
「幸せ」。それが、両親が、俺に付けてくれた名前の、意味だった。
ふと気が付くと、リリーさんが心配そうにこちらをのぞき込んでいた。
「泣いてるの?」
「……いえ。ただ、欲しかった答えは、探さなくても、ずっと近くにあったんだな、って」
辞典を抱きしめてうずくまる俺の側で、リリーさんは何も言わず、じっと一緒にいてくれた。
さて、俺がかねてから抱いていた疑問や悩みはいろいろ解決したわけだが、まだ解決に至っていない大きな問題が1つある。その問題は、今、俺の目の前に大きく立ちふさがっていた。
俺の目の前の大きな鏡に映るのは、ふわりとしたミルクティー色の髪を持つ美少女。微かにカールした髪は、肩のあたりでゆるく波打ち、光を浴びるとやわらかく輝く。透き通るような肌は、滑らかで繊細な印象を与え、白い頬にほんのりと淡い血色が滲む。
鏡の中の少女は、困ったように笑いながら、わずかに首を傾げた。琥珀色の瞳が、鏡越しにこちらをじっと見つめる。その瞳はどこか柔らかく、それでいて掴みどころのない光をたたえていた。
華奢な肩、すらりとした首筋。自然と整った顔立ちは、どこか儚げで、まるで夢の中の少女のよう。
しかし、そこに映るのは紛れもなく自分だった。俺は試しに軽く裾をつまんで、ひらりと動かす。ひらひらと、軽く揺れる鏡の中のスカートが揺れ、俺は大きく溜息をついて、スマホを取り出した。
「もしもし、お姉さんですか? そのうち戻る、って言ってましたけど。この姿、いつ戻るんですか? もう1か月くらい……「プツッ、ツーツー」
「……もしもし? あれ? もしもし?」




