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最近、館では心理テストとかクイズが流行っているらしい

「おーい、雅也!」


 その声が耳に届いた瞬間、俺は弾かれたように顔を上げた。


 ……どこかで聞いた声。どこかで知っている響き。


 けれど、それがすぐには"何"なのか、"誰"なのか、うまく認識できなかった。まるで、長い夢の途中で呼ばれたような感覚だった。


 ぼんやりと視線を動かすと、すぐそばに由依が立っていた。明るい表情でこちらを覗き込み、いつものように軽く手を振っている。


 ……由依?


 その名前を思い出した瞬間、俺はようやく「今がどこなのか」を自覚する。


 頭の奥がじわりと揺れた。意識が、ゆっくりと現実に引き戻される。そうだ、ここは異世界じゃない。あの夢の世界じゃない。これは、現実。俺の学校だ。


 俺は小さく息を吸い、ようやく自分が「現実」にいるのだと理解した。俺は、周囲にゆっくりと視線をめぐらせた。


 ——窓の外に、昼の陽光が広がっている。

 青く澄んだ空。遠くに浮かぶ雲。

 そこに異形の影はなく、世界は静かに穏やかだった。


 ——教室の中には、いつも通りの喧騒がある。

 クラスメイトたちは昼休みに入り、それぞれ思い思いの時間を過ごしていた。


 机に突っ伏してスマホをいじる男子。

 弁当を広げ、友達と談笑している女子。

 プリントを片手に、何やら勉強の相談をしている二人組。

 窓際では、数人が寄り集まってゲームの画面を覗き込んでいる。





「雅也、お昼どうする? ていうかさ、ちょっと紹介したい奴がいるんだけど」


「ああ、別にいいけど……」


 由依はすかさず手を挙げ、その誰かを呼び寄せた。


「おーい、翔子ー! こっちこっち!」


 促されるまま、足を止めて歩み寄ってきたのは、眼鏡をかけた女子生徒だった。落ち着いた雰囲気で、礼儀正しそうな印象……と思いきや、どこかふわふわした空気をまとっている。


「こいつ、雅也っていうの。あたしの友達!」


 そう言って、由依は俺を指さし、続けてその眼鏡の彼女を示した。


「で、こっちは翔子。転校生!」


 転校生。

 なるほど、初対面のはずだ。俺は軽く頭を下げた。翔子さんも、それに倣って深々と会釈をする。


 しかし……なぜか由依がわざわざ紹介を?


 疑問に思っていると、由依が肩をすくめた。


「いや、さっき雅也のこと結構聞かれたから。実物に聞けばよくね? って」


 実物。……展示品かな?


 すると、翔子さんがぱっと顔を輝かせ、ふわりと微笑んだ。


「わわっ、なんか変なこと聞いちゃいましたぁ? ごめんねぇ?」


 ふわふわとした話し方。語尾が妙に甘ったるくて、なんとなく小動物っぽい。……いや、なんか妙に作ってる感ないか?


 翔子さんは、はにかむように手を差し出した。


「えへへ~、雅也さんって目立つからぁ、つい気になっちゃって! どんな人なのかな~って!」


 ……え、なんか煽られてる?


 俺はピタリと動きを止め、由依にひそひそと囁く。


「由依、この人、大丈夫?  何かおかしなものとか食べてない?」


 由依は苦笑いしながら、俺の肩をぽんぽんと叩く。


「いや、気持ちは分かるけど。まあいいじゃん。この際、友達増やそうぜ。少ないだろ?」


 ぐさっ! と、見えない刃が俺の胸に突き刺さる音が聞こえた。しばらくプルプルと震えていると、翔子さんが「わっ」と驚いたように目を丸くし、ぐいっと手を差し出してきた。


 ……というか、何か乗ってる。


「えへへ~、無礼をしたお詫びにぃ、こちらをどうぞ!  私の地元に伝わるお守りなんですぅ」


 そう言って、彼女はポンとそれを俺の手のひらに乗せた。


 見下ろすと、そこにあったのは四角い立方体。サイズはサイコロの二回りほど大きい。表面は滑らかで、ほんのり赤みがかっている。木製とも石製ともつかない、何とも言えない質感。


 俺はそっと指先で転がしながら、慎重に尋ねる。


「……これ、なに?」


「今言ってたじゃんっ!  ていうかぁ、こいつ、それ渡す相手を選んでるっぽくて。 知る限り、あたしと雅也しかもらってないの!」


 由依が得意げに言う。


「数が限られてるからぁ、合いそうな人にしか渡してないんだよぉ? 念のためにね、予備はあった方がいいから」


 翔子さんはニコッと笑い、楽しそうに手をひらひらと振る。そして、足音も立てずに去っていった。


 俺は、彼女の後ろ姿をじっと見つめ、そっと手のひらに乗る立方体に目を落とした。それは、お姉さんが以前俺にくれたものと、色違いではあれど、全く同じように見える。


 ……ひょっとして、お姉さんのお仲間的な誰かだろうか?


















 境界の館で、お姉さんの書斎を掃除していた俺は、ふと思い出して聞いてみた。るーるー、と館のどこか遠くから、友希さんとフィール先輩、ハモさんの歌が時折聞こえる。あ、ちょっと上手になってる気がする。


「そういえば以前、お姉さんって……「君をここで働かせるのは、上の許可を得ないといけない」みたいなこと、言ってませんでしたっけ?」


「言ったよ。ちなみにまだ内緒にしている。その方が、君もやりやすいんじゃないかと思ってさ」


 内緒にしている、という軽い響き。でもそれはつまり、「本当は言わなきゃいけないことを隠している」ということでもある。いや、そもそもお姉さんが"上の許可"とか言うのが妙な話なんだ。


「ち、ちなみに「上」って誰なんです?」


 お姉さんはニヤリと笑った。その笑顔が、悪戯を仕掛ける子供のように見えるのは、きっと気のせいではない。


「2択クイズを出そう。①王 ②教皇 どっちかな?」


「②が入ってる時点で嫌すぎる……! ヒ、ヒントは?」


 嫌な予感しかしない。でも、聞かないわけにはいかない。お姉さんは、満足そうに持っていた本を置き、指を一本立てた。


「ヒント(1)。「上」は、私を殺したくて仕方がないみたいだが、全然できないんだよねえ。だから、今は何か準備をしているみたい」


 ……しょっぱなから、答えが①でも②でも嫌すぎるヒント出てきた……!


 お姉さんが、続いて2本目の指を折る。


「ヒント(2)。なぜそんな相手が「上」なのかというと、その方が面白い顔が見られるかなって、私から提案した。あいつ、ものすごい顔してたよ。人が逆上して死ぬ時って、あんな顔するのかなぁ。ほら、世界史とかであるじゃない。「憤死」って」


「えっと、私が殺されまくってるのって、お姉さんのせいですか?」


「違う違う。だって、まだ私と君の繋がりは伝えてないんだから。単純に、やりたいことの邪魔だからさ。……えー、ヒント(3)。「上」は、勇者を何とかした後、今度こそ世界を征服したいみた……」


「②じゃん! もう②じゃないですか⁉ お姉さん、邪神の手先だったんですか⁉」


 俺は思わず叫んだ。その瞬間、お姉さんはくつくつと喉を鳴らして笑う。邪神の欠片が退治された、ってどんな気持ちで聞いてたんだ。


 しかし、お姉さんはゆっくりと首を振った。


「手先っていうか……私が他の世界からやってきたことと、勇者も同じ世界から召喚されてくるみたいだよ、って教えてあげただけ。そうしたら、こんなものを開発したから、無理やり貰ってきた」


 そして、お姉さんはひょいと俺の手から立方体を取り上げた。手のひらに収めたかと思うと、何の迷いもなく、それをポイと投げ捨てる。


「なんなんですか、これ」


「君や私のいた世界……現実世界、と呼ぼうか。そこから誰かを召喚する装置だよ。君をスカウトしたいと思ってたからちょうどいいやって。……あれ? じゃあ君も共犯みたいなものじゃない?」


「さらっと共犯にしようとしないでくださいよ……! 無理やり貰ってきた、って、大丈夫だったんですか?」


 俺の抗議を、さらりと流しながら、お姉さんは肩をすくめた。そして、 「あんまり大丈夫じゃなかったね」 と、あまりにも気楽に言い放った。


「奪う時に王都の研究施設をつい3つほど潰してしまった。どうも私が直接動くと、影響が大きすぎていけない。……でもたぶん、向こうもそれを突いてきそうだなぁ」


「……?」


「私もね、田畑に火を放つのは避けたいんだ。後でお腹が空いてしまうからね」


 またよく分からないことを言い出した。田畑? お腹? 俺はいつの間にか、異世界の食糧事情の話をしていた……?


 俺が全く分からないという表情をしていたせいか、お姉さんは、補足になっていない補足を付け加えた。


「私にとっても、この世界は楽園みたいなものだから、あんまり影響を与えたくない、ってこと」






 そして、お姉さんは最後に、ふわりと意味深な微笑を浮かべた。


「君も、星の塔に行くといい。あそこには賢者が住んでいるから。この世の理を教えてくれるだろう」

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― 新着の感想 ―
久々の現実。もう戻ってないのかと…… 前から出てはいましたが、お姉さんの食料って……
由依?芽衣? なんか、伏線なのではという疑いがあって誤字とも言い切れない……
と言うより雅也君の魂肉体から離れ初めてそう
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