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単和集

断罪は和やかな夕食の後で

作者: 癒波綿樽

お読みいただきありがとうございます。


本文には性行為を連想させる描写があります。

未成年及び苦手な方はページを閉じてください。


(あれ?前の車って……)


俺の前を走る車に目をやる。

どこにでもある軽自動車だが、その車のナンバーや車種、色は見覚えがあった。

しかし、地名の後の分類番号や平仮名までは覚えていなかったので、確実に妻のものだとはいえない。

それでも珍しいなと思い、携帯のカメラに収める。


(今度会った時にでも見せてやろう)


突然写真を撮った俺に、同僚が話しかけてくる。


「どうした?なんか珍しいものでもあったか?」

「いや、前の車が嫁の乗ってる車と同じでね、ナンバーまで一緒だから珍しくて」


「あぁ、そういうことってあるよな?

俺もこないだ自分の車と同じナンバーの車が走ってるのをみて、盗まれた!?って驚いたことあったわ。

自分がその車運転してるのも忘れてな」


二人で笑い合う。

今日は大きな商談が纏まり、二人共かなり上機嫌だった。


前の車は右折するらしく、専用レーンに入っていく。

俺たちは真っ直ぐ行くので、その車の横に並んだのだが……。


「は!?」


チラッと横を見て驚いた。

助手席には妻が乗っていたのだから。


運転席の方を向いて喋っているので、こちらには気づいていない。

そして運転席には、見知らぬ男が乗っていた。


「……いや、誰だよ」

「ん?今度はどうした?」

「隣の車、やっぱ嫁だったみたいだわ」

「へぇ、偶然…だな?」


同僚も横の車をちらっと見て、おかしいと思ったんだろう。

すぐに前を向き直す。


「運転席の男は知り合いか?」

「いや、初めて見る」

「そう…か、横顔しか見えなかったが、間違いないか?」

「あぁ、見間違いではないと思う。

そもそも、似たような女が、同じ車種、同じナンバーの確率なんてどんな天文学的数字だよ」

「言われてみりゃ、たしかにな。

どうする?今日はこのあと直帰の許可もらってるし、つけるか?」


たしかに今日はこのまま帰っていいと言われている。

俺の家は帰り道にあるので、そのまま家まで送って貰う予定だった。


「……頼んでいいか?

いや、嫁に限ってと言いたいところだが、最近なんか様子がおかしくてな。

俺も気にはなってたんだ。

あの車が普通に仕事で何処かに行ってるなら、ばかみたいな事考えてる俺を笑ってくれ」

「なーに、俺達みたいに取引先にでも行ってるのかもしれんだろ。

そう言えばお前は結婚したばっかだったな。

わかった、そこで回って追いかけてみる」


そういうと、同僚は車を広いところでUターンさせ、さきほどの交差点を左折する。

車を一台挟んだ形で、俺たちは嫁の車を追いかける。


「ちょっと距離開けるぞ、あんまり後ろをつけると追跡がバレるかもしれん」

「あぁ、わかった。

だが、慣れてるな?まさかお前……」

「馬鹿なこと考えるな!

お前も知ってるだろ?

俺も去年離婚してるんだ。

会社や周りには言ってないが、俺も元妻の不倫が原因でな。

その時に自分で証拠集めとかしたんで、そんときの経験があるんだ」


言われてみればこいつは去年離婚したんだったな。

詳しいことは聞いていなかったが、不倫されてたのか……。


「まぁ今は俺のことはいい、お前は見失わないようにしっかり見ててくれよ?」

「あぁ、了解」


車は住宅地を抜け、市街地へと入っていく。

そして妻の車は迷うこと無く一つの建物へ入っていく。

いわゆるラブホテルだ。


俺は言葉が出なかった。

さっきの同僚の言葉通り、俺たちは先月籍を入れたばかりで、式は来月行う予定にしている。

大まかな準備は終わり、あとは詳細を詰めるだけだったのだが……。


「……入ったな。

どうする?もう少し様子を見るか?」

「いや、もう帰ろう。

お前にこれ以上つき合ってもらうのは悪い」

「俺のことは気にするな、まずは自分のことを考えろ。

なに、どうせ俺は帰っても呑んで寝るだけだ。

それにこんな時は誰かと一緒にいるほうがいい。

それに俺は経験者だ。いろいろ教えてやれるぞ?」

「……そう、だな。すまんがお言葉に甘えさせてもらう。今度酒でも奢るよ」

「おう、期待してる。旨いとこ頼むぞ?」


こいつのこういう気遣いに救われる。

たしかに一人でいたら押しつぶされるかもしれない。


建物の出入り口は一つのようなので、入口が見える位置のコインパーキングに車を止める。

近くにコンビニがあったので、2人分の飲み物とタバコを買って戻る。


「あれ、お前やめてなかったか?」

「あぁ、結婚を機にやめていた。

だけどもういいかなって…」


タバコに火を付ける。

結婚の話が出たのはもう半年以上前なので、久しぶりに吸うタバコに少しむせる。

同僚も苦笑いしながら「わかるわ」と呟き同じように火をつけた。


時刻は間もなく夕方の4時。

ここに来てから既に1時間以上が経過していた。

その間俺は、この後の対応を聞かされていた。

傷に塩を塗りたくるようで気は進まなかったが、同僚から黙って聞いておけと言われてそれに従った。


話も一区切りしたところで、タイミングよく目標の車が建物から出てくる。

今回運転しているのは嫁で間違いない。


悔しさや怒りで震える手をなんとか抑えながら動画に撮る。

「……間違いなかったか?」

「…………あぁ、本人だ」

「それで、これからどうする?」


これから、か。

正直今は何も考えられない。

ショックなことももちろんあるが、いつからだとか、相手のこととかで頭の中がぐちゃぐちゃになっている。


「とりあえず、帰ろう。

家まで頼めるか?」

「あぁ、それはもちろんいいが、お前一人で大丈夫か?」


まぁそりゃ大丈夫ではないよな。

だけどここでこれ以上こいつに甘えるわけにはいかない。


「あぁ大丈夫、大丈夫だ」


同僚にというよりも、自分に言い聞かせるよう。

車はゆっくりと発進し、市街地を抜けていく。

景色がやけにゆっくりと流れていく。

窓ガラスに映ったひどい顔の自分を見て、自嘲気味に笑ってしまった。


自宅に帰り着き、同僚に深く頭を下げる。

気にするな、それよりも自分のことを考えろ、何かあったらいつでも言ってくれ。

そう言ってくれた同僚には本当に頭が上がらない。


部屋に入ると、それまであまり気にしたことはなかったが、彼女の荷物が嫌でも目に付く。

結婚を機に新しく広いマンションに引っ越す予定だったので、俺たちはまだ同居はしていない。

というか、一人暮らし用の1DKなので二人だとどうしても狭くなってしまうのだ。


それはお互い話し合いの末の事だったし、このアパートから会社への距離が倍以上になることを考え、彼女はその事に賛成していた。

新しいマンションは新築で、来月引き渡し予定となっていたが、今回の件があるので俺が住むことはもう無いだろう。


俺は今回裏切られたことを、どうしても許せるとは思えなかった。

俺は嘗められたあとに、笑って赦してやれるほど人間ができちゃいない。

5年以上付き合ってきたんだ、今さら知らなかったが通るなんて思うなよ?


上司に連絡し、明日から有給を取りたい旨を伝える。

ほとんど消化していなかった俺の頼みに、上司は二つ返事でOKしてくれた。

土日を含めて5日間、それで準備を終わらせる事を決意する。


準備は3日かかった。

4日目の土曜日、俺は同僚に連絡をいれる。


「こないだは巻き込んで悪かった。

今夜時間あるなら飯でもいかないか?」

「あぁ、俺は大丈夫だ。

どこにする?」


店は同僚に任せることにした。

指定されたのはお互いの家の中間地点くらいにある、個室のある居酒屋。

おそらく俺から今後の話があることを察してくれたんだろう。


時間を決め、最終準備をする。

ここから二週間ですべての計画が終わるはずだ。

荷物はすべて別の場所に送った。

あとは今回の計画の中で最大の難所、つまり親への連絡だ。


俺のオヤジは昔ながらの職人気質で、言葉より先に手が出る。

今回の彼女の行動は、親父の逆鱗に触れるのは間違いないだろう。

ありのまま伝えたらおそらく飛んでくる。

それでは俺の計画はぶち壊されてしまう。


そこで俺はまずお袋に事情を話し、親父に伝えるタイミングを教えてくれるようお願いした。

お袋も昔気質の人だけど、親父よりは話が通じる。

そして親父の性格を誰よりも理解している。


当然お袋もブチギレたが、俺の計画を話したら理解してくれた。

そして、協力も約束してくれる。

そのタイミングが今日だった。


酒造りが終わり、次の仕込みを始めるまでの短い期間。

言い換えれば、親父が大好きな納豆が好きなだけ食べられる時期。

そう、うちは代々続く造り酒屋なのである。


親父は酒を作り始めたら納豆を絶つ。

酒造りが終わったらほんの短い期間解禁する。

その期間こそ、親父が唯一機嫌の良い期間なのだ。


俺は親父に電話をかけ、事のあらましと今後俺がすることを伝える。

親父は一言、わかった、好きにやれと言ってくれた。

これで両親の了承も得たことだし、後は俺の好きにさせてもらう。


同僚には計画のすべてを話した。

話し終えると、割とひかれてしまった。

まぁ別に止められたところで中止する気もないのだけど、いくつかの計画の粗を指摘されてしまったので、そこについては素直に従うことにする。


支払いは俺がすると言ったのだが、全て終わってから改めて奢ってもらうと言われたので、渋々了承した。


そしてすべての準備が整った翌々週の土曜日。


俺は大事な話があると彼女と彼女の両親に伝え、集まってもらう。

今から俺が話すことは夢にも思っていないだろう。

もしかしたら孫がなんて思っていそうだが、期待に応えることはできない。


集まってもらったのは俺と彼女、彼女の両親と俺のおじさん。

おじさんには両親の代わりとして出席してもらった。


おじさんと向こうの家族は初めて会うので、まずは俺から紹介し、食事を済ませる。

もちろんおじさんには事情を全て説明してある

その上で協力してもらえるということで、同席してもらった。


食事が終わり、結婚式の話をしてくる義両親。

今日で終わりになるのだが、婚姻関係が解消されていない現在はまだ義両親である。

俺のことを褒めてくれるのは嬉しい反面申し訳なくなる。


まどろっこしいのは苦手なので、俺はいきなり核心に触れる。


「申し訳ありませんが、俺は彼女と結婚式を挙げることはできません」


向こうは本人含め鳩がショットガンを喰らったような顔をする。

そりゃそうだろう。

つい先月結婚したばかりの男から突然こんな事を言われれば、誰だってそうなる。


とりわけ彼女の怒り具合はすごかった。

冗談にしても笑えない、言ってる意味がわからない、今さらここに来て何を言い出すのか、と。

まぁそれは盛大なブーメランなのだけれど。


義両親の方はかなり戸惑っていた。

なにせ結婚式まであと一週間もないのだ。

そんな時に義理の息子からの突然のカミングアウト。


「いったいここに来て何を言い出すんだ?」


怒りを必死に押し殺している義父が口を開いた。


俺は順序立てて説明していく。

彼女の顔は赤から青に変わる。


「嘘よ!出鱈目よ!」


喚き散らす彼女。

だけどこっちもそれは想定内だ。

探偵を雇い集めた証拠を出す。

これを集めるためにニ週間もかかってしまったのだ。


出てきた写真はラブホから腕を組んで出てくる彼女と男の写真。

さらに車内で盛っているところ。

街なかを腕を組んで歩いている所。

男の家と思われるところに二人で入っていく所。


ここで彼女の言い分が変わってくる。


「コレは違うの!脅されてたの!無理やりなの!」


今さらそんな事を言っても、誰も信じる者はいない。

義母は泣き出し、義父は怒りに震えている。

そもそも脅されている本人から腕を組んだり、自ら運転してそんなところに行くだろうか。


そして、彼女は続ける。

誰も自分のことを信じてくれていないことがわかったのだろう。


「せっかくここまでこぎつけたのよ?

今から結婚式を中止にしたら色んなところに迷惑かかるでしょ?

それに離婚しちゃうとバツがつくのよ?

そんなの嫌でしょ?

私はもう二度としないから、今回だけは見逃して、ね?」


本当に、本当に今更なのだが、なぜ俺はこの女と結婚しようと思ったのだろう。

たしかに彼女の見た目はかなり好みだ。

友人からの紹介というのもあった。

俺自身、かなり浮かれて盲目になっていたのだろう。


だが今の彼女はどうだ?

詫びることもせず、自らの過ちを認めることもなく、挙げ句他人のせいにして自分の保身ばかり考えている。


正直寒気がしてきた。

義両親もそんな娘に驚いているのだろう。

先刻さっきまでと娘を見る目が変わっている。


ここで俺は切り札の一つを切る。

おじさんに目配せし、おじさんも黙って頷き席を立つ。


そして連れてきたのは写真に写る男だった。

別部屋に(無理矢理)連れてこられてきたのだろう。

真っ青な顔で入ってきた。


義父はいきなり掴みかかろうとしたが、それを俺とおじさんで止める。

殴るのは一向に構わないが、それは今ではない。

そんな事は俺が出ていったあと好きにしてほしい。


そして始まるお互いの見苦しい罵り合い。

つい昨日も盛っていたはずなのに、騙されただの無理矢理だのetc……。


これでは話もできないので、俺から質問をする。


「それで、お二人は関係を認めるんですか?」


まぁこれだけの証拠が上がっていれば認めるもクソもないのだが、そこは確認しとかなければならない。

口汚く罵り合う二人は、色々と言ってきたが最終的には渋々認めた。

おじさんが睨んできたこともあったんだろう。


実はこのおじさん、俺のおふくろの実弟にして二人が勤める会社の総務部長なのだ。

彼女は知らなかったようだが、男の方は流石に知っていたらしい。


だいたいおかしいと思わなかったのかね?

たいした学歴もなく、目立った職務経歴もないのに、県内でもそこそこの会社に中途採用されたんだ。

本人は単純に喜んでいたが、実は裏で俺がおじさんに頼んだのだ。


いわゆる縁故採用枠。

もともと別の人が縁故採用される予定だったのだが、その人に子供ができたとかで辞退したことで彼女にその枠が回ってきたのだ。


俺と付き合っていた時だったし、俺からお願いしたのだが、もちろん本人はそんな事は知らない。

面接で会ったことはあるはずだが、本人は覚えていなかったんだろう。


さらに問題だったのは、男の方が家庭持ちだったことと、彼女が結婚したばかりだったこと。

これが社内服務規程違反にあたるらしく、二人共処罰の対象になる。


なんでも、会社の倫理に関するどうとかこうとか。

まぁ不倫なんて会社の倫理どうこうの前に、人としてどうかって話になると思うが。


さらに問題なのが、俺が勤めている会社が、二人の勤めている会社の親会社に当たること。

これは男の方も知らなかったらしく、会社名付きで自己紹介してあげたら真っ青になって土下座しだした。

いや、今さらそんな事されても遅いから。


彼女もようやく立場を理解したらしく、泣きながら謝ってきた。

いや、ほんと今更だし、俺の会社のことは教えてたよね?

そもそも今更になって謝っても遅いと思わない?

それに君たち馬鹿すぎるだろ。

いや、散々騙されてた俺が言うのもどうかと思うけど、そもそも仕事中にサボってそんな所にいくかね?

そしてドラレコのデータそのまま残すかね?

音声付きで残ってたぞ。

だから予定以上に簡単に証拠が集まったってのはあるけど。


データ?

見せないよ、さすがの俺も凹むから。

探偵さんも弁護士さんもドン引きしてた。

お互いのパートナーへの罵詈雑言が6割、そして本日のプレイ内容が4割。

正直聞いていられないから。


まぁデータとしては残してある。

ないとは思うが、万が一裁判になった時の証拠として。


なおも言いすがってくる彼女に対し、俺は2枚目のカードを切る。


「ところで、最近俺の部屋に来た?」


突然話を変えたことで、全員が俺と彼女に注目する。

彼女は目をそらしながら、行ったけどいなかっただの、掃除だけして帰っただの言い訳している。


馬鹿だなぁ、今さらそんな言い訳、誰が信じると思ってるんだ。

だいたい俺は今あの家に住んでいない。

荷物も全部別のアパートに移してあるし、玄関を開けたら彼女の荷物が山積みしてあるのでそもそも簡単に部屋に入れない。


その事を教えてあげると、さらに彼女はキョドりだした。

もう見ていて痛々しくてたまらない。


しかし頭の中のお花畑はまだ枯れていないらしい。

なおも縋り付く彼女にそろそろ恐怖を感じ始めた俺は最後のカードを切ることにする。


「そういえば〇〇くん、知ってるよな?」


全員が不思議そうな顔をする。

いきなりでてきた名前を知らないのは当たり前だ。

俺はさらに追い打ちをかける。


「わからない?◯△会社に勤めてる〇〇君だけど」


完全に挙動不審になった彼女。

こいつは、調査の過程で偶然知ってしまった、彼女の元カレなのだから。


これは本当に偶然わかったことだ。

ついに義父さんは娘をぶん殴った。

義母さんはもう壁に寄りかかってどこか遠くを見ている。


彼女もついにおかしくなってしまったのか、俺にすがりついて何か譫言ざれごとをいっている。

はっきりいってその表情はホラー映画より数十倍怖いが、その手を振り払いながら取っておきの情報をプレゼントする。


「そうそう、〇〇くんだけど、最近よく泌尿器科に通ってるみたいなんだよな。

たぶんありゃ性病だろ。

まさかとは思うけど、結婚してるのに他の男と生でヤルわけないよな?」


彼女はビクッと体を震わせる。

男の方は彼女を睨みつけている。

こりゃ完全にアウトだな。

もう近寄りたくもねぇわ。


また罵り合いをしだした二人を放っておいて、俺は義両親に書類を渡す。


「これが俺からの要求です。

一つでも不履行があった際にはすべての事実を公表し裁判を起こします。

今回出していない証拠もありますので、そちらが勝つことは万に一つもないでしょう。

では俺達はこれで失礼します。

ここの支払いはこちらで済ませますので、どうぞごゆっくり」


正直、義両親には気の毒だが、バカな子供を育てた責任を取っていただきたい。

そして俺から出した条件は全部で7つある。


1 今後二度と俺含む親族に関わらないこと

2 結婚式のキャンセル費用や、新築のマンションの購入費用等必要なものはすべてそちらが支払うこと

3 同封の離婚届にサインし、速やかに提出すること

4 事実を周囲に伝えるのは構わないが、虚偽の情報を伝えないこと

5 現在俺のアパートに置いてある彼女の荷物は、三日以内に全て引き取ること

6 慰謝料、弁護士費用、調査費用等の諸々含めて全て支払うこと

7 今後の話し合い等は全て弁護士を通して行うこと


以上だ。

まぁ俺は今後関わり合いが無くなるのであれば、金は勉強代としてもいいかなと思っていたが、それでは甘すぎると同僚に言われてしまった。


俺はおじさんと共に店を出て、タクシーを捕まえる。


「来てくれてありがとう、あの男を捕まえるのにどうしようか悩んでいたから助かった」

「いや、こっちこそ内々に処理できて助かった。

今回の件をお前が暴露でもしたら、俺含めて何人かが処罰を受けるところだった。

こっちの条件をのんでくれて助かる」


そう、俺はおじさんにすべてを打ち明け、その上で協力してもらっていた。

こんな事が公になってしまえば、会社は大変なことになっていただろう。


「だけど、これでよかったのか?」


おじさんの気持ちも理解できないことはない。

俺に破滅願望があれば、会社を巻き込みながら暴露することだって出来た。


「別にいいよ。

たぶん今は理解できてないけど、式場のキャンセル料やら何やらで、三千万近く請求くるだろうから。

マンションも高かったしね。

とてもじゃないけど払える金額じゃないだろ」


そう、俺はそれがわかっているからこの程度で済ませてやったのだ。

結婚式は彼女の要望もあってハワイでやることにしていた。

俺は別にどこでも良かったが、彼女がどうしてもということで了承したのだ。

航空券等を含めたら、すごい金額になるだろう。


それと浮気相手の奥さんからも請求が来るはずだ。

俺ももちろん請求する。

遊びが一線越えるとどうなるか、しっかり分からせてやらなければならない。


「はぁ……、ったく、ほんとお前は昔から変わんねぇな。

さすが、会社始まって以来の最年少課長だよ」

「何言ってんのさ。

まだかわいい方だと思うよ?」

「いや、自業自得とはいえ向こうには同情しちまうよ。

これなら何発か殴られた方がよかったろうに…。

いや、お前に殴られるとそれはそれで大変なことになるか」

「暴力はその時の痛みだけだからね。

ここまでやらかしといて、それで逃がすつもりなんてないよ。

あの二人にはながーーく後悔してもらわないと」


そう言った俺を見ておじさんは苦笑いを浮かべた。


「じゃあお口直しにお寿司でも行かない?

こないだいい店見つけたって言ってたよね。

これもおじさんからの条件をのむ見返りってことで」


しゃーねーなー、そう言いながらおじさんは運転手さんに行き先の変更を告げた。



お読みいただきありがとうございました。


誤字、脱字、表現の問題等ありましたら、ご連絡をお願い致します。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 現実的な報復でスカッとしました。 シタ側にはお互いのパートナーに不満があるのに何で結婚なんかすんだよ、とか思いますねぇ。 [一言] リアルでは更に斜め上の報復をされる方もおられる訳で…。 …
[一言] 妻視点や後日談も欲しい
[良い点] 読みやすくて良かった。 相手がクズなのでスカッとする話なのに、同僚と主人公との会話や、おじさんとの会話に人情味があって好み。
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