5.バグと月兎の少女
ふー満喫。満喫。これは良い街だ。何故か言葉が通じちゃうから金貨で色々買っちゃったよ。
このパェーンみたいなやつと喉が渇いたから回復ポーションだろう~。あとー。
「おいこら、ちょっと歩夢!」
「こんにちは歩夢様。先程ぶりですね」
げっ……。人がせっかく気晴らしてるというのに。
めんどくせえな。無視しようかな。よし!無視するか。
「すいません!そのモヤモヤください」
俺はどこぞのエセ神のテレパシーを無視して、近くの店員に話しかける。
「フワワンの事ですか?銀貨2枚になります。貴重ですからね」
かわえー。綿あめじゃないんだ。
その名前だったらね金貨出しちゃうよね。とりあえず金貨出しとくか。
「金貨でよろしいんですか?」
店員は少し驚いた表情を見せる。
「お釣りはいりませんよ」
「つまりフワワン5個でよろしいんですね。分かりました」
あれ?通用しない?日本でお釣りは要りませんって言ったら賞賛されるところだぞ。
なんか悲しいな。せっかくかっこつけようと思ったのに。
「ププッ!ここではそんな風習ないからね。可哀そうだから僕と猫子で4個貰ってあげるね」
「いいですね。私は甘い物が嫌いではありませんから」
僕の様子を見てライルは笑い、猫子さんは曖昧な事を言っている。
本当にロクでもない奴らだ。
「では、どうぞ。こちらフワワンになりま……す。ライルの災いだ!」
店員が持っていたフワワンを全て落として叫び声をあげた。
俺は店員の叫び声に俺は空を見上げる。
空には以前見たアンテナの逝ったテレビ画面のような景色が広がる。
「あ~僕たちのフワワンが……」
ライルがテレパシーで脳に響くような大声を上げる。
俺のストレス値が少し上昇した。
「何を呑気な事を言っているんだ。バグが出現したんだよ!」
「あぁ……そっか。忘れないで困ったらいつでも連絡して」
ライルが少し焦りながらもすぐに真面目な声で俺にそう声を掛けてくれた。精神的には頼れること言ってくれんな。
「それじゃあ早速。今回のバグの規模は?元凶は?」
「ちょ……き……て……だ……わ……あ……て」
「もしもーし!迷惑電話?」
途切れ途切れで向こうの言っていることが全く分からなかった。
これはもしかして無線ジャマ―ってやつか?でもテレパシーだろ。
「まずいぞ。今度は誰が誘拐されるんだ!」
「いやだ。誘拐されたくない!」
「誘拐されたらもう2度と戻れないらしいぜ」
周りの住民たちがざわつき始める。中には混乱して逃げ惑う人もいれば、自分は誘拐されないと慣れ切って気にせず歩いている人もいる。
元凶。元凶はどこだ。視認できない。モンスターか?それとも……
「その銃。お前。ライルの部下だろー!裏世界を彷徨え」
後ろからサイコパスの鑑のような喋り方の男に話しかけられる。
俺はその瞬間、疑問が確信に変わった。
「えいむぅぅぅぅ!」
銃を構えて後ろを振り返ると、そこにはもう男の姿はなかった。
くそっ!やられた。まさか人間に化けていたなんて……それに喋るのかよ。
これはライルを質問攻めにしないとな。
「ライル!聞こえるか?ライル?」
だめだ……繋がらねえみたいだ。へへっ。これはやべえ。閉じ込められた。
周りはよくわからない黄色い壁に囲まれ、地面には何も落ちていない。先を見ると道は続いているがどうも迷路くさい。
何かの都市伝説で聞いたことのあるような地形だな。
とにかく出口を探さない事にはAIMを見つけられない。進むしかないか。
俺はくねくね分かれ道になっている迷路を自分の勘を信じて進む。
その結果、俺は……迷った。だがマイナスの要素だけではない。
プラスの面ではここは安全な一階層だという事と俺以外にも人がいる可能性があることだ。
痕跡を見つけた。つまりこの痕跡を辿って行けば2層に行けるはず。
俺はなぜか深く残っている足跡一歩一歩を追っていく。
「ここか」
足跡がここで終わっている。
視線の先には青色に輝く丸いマンホールくらいの円盤が一つ地面に乗っていた。
これはエレ……いや。魔法で動く昇降板か?
天井に穴が空いている。恐らくこれで上に上がったんだな。
よし、覚悟を決めて行ってみるか。
俺は丸い円盤の上に両足をつく。
すると円盤の周りに障壁のような物が現れ、円盤はそのまま上に上昇した。
上に着くと障壁は消え去り、俺は無事に2層に辿り着くことが出来た。
2層は1層とは違い、砂の地面ではなくフローリングのようにツルツルな石の床だった。
壁は1層と同じ石壁で1層よりも多くの道が広がっている。
ここからは危険モンスター出現の可能性ある。慎重に行かなければ。死ぬ!
「ぐすんっ!助げてぇーーー!!」
誰だ?兎?獣人かー。あれ?何か妙に足が速くないか?兎ってあんなに……。
しかもかなり幼い。中学生か小学生?なんであんな幼子がこんなところに?
俺がそんな事を考えている間に兎の娘は横を通り過ぎて、別の道へと去って行った。
一体、何だったんだ……?もし殺意があったなら。一瞬で命を持っていかれてただろう。
改めて視線を前に戻すと、真っすぐ続いている一本道から大量のモンスターが迫ってきている。
あれは……全員AIM?いや違う。あれは恐らくAIMが作り上げたモンスターもしくはあっちの世界(現実異世界)からさらって来たモンスターだろう。
「バグを検知。トリガーを解除。掃討するよ」
俺はトリガーの解除されたデバッカーを構える。
「秒で仕留める!」
★
そこから数分後……俺は逃げ回っていた。
数発ぶち込んで数匹のモンスターを葬ったまではかっこよかった。
だが……ちょっとモンスター多すぎだろっ!
あんなの数十匹のレベルじゃない。この階層のモンスター全員集合してるじゃねえか!!
早く突き放さなければ。でも自分の足が鈍足過ぎる。
「あー!さっきの人。あの……助けてくれてありがとうございます……」
目の前の曲がり角からまだ幼い顔立ちの真っ白な短い髪に碧眼でうさ耳の生えた少女がチョコンと顔を出す。
「丁度いい。お前。足早いだろ?俺を運んでくれ」
「早いですけど……私怖くて走れないです」
「俺の後ろを見ろ」
少女が目を凝らす。
「ひえ~!倒したんじゃないですかー!」
「それはこっちのセリフだ」
「えっとあっとうっと……あ!縄を使いましょう!何かに使えると思い、怖かったけど骨から取ってきました」
少女が腰に巻いていた縄をほどく。
えっ!それ死体じゃねえのか。んー。手段は選んでられないか。
「早く結ぶぞ!」
「あ、あ、はい!はあ……手が震える~」
俺と少女は腰にしっかり縄を縛った。
「走ってくれ!早く」
「は、はい。でも……ご褒美くださいね」
少女は少し溜めを作った後に走り出す。
俺は勢いでお腹が締まって吐きそうになったが、寸前のところで耐えた。
これだけ距離を離せれば撃ち放題じゃねえか。
「ウィニングショット」
読んで頂きありがとうございました。一日遅れましたが。