3.初任務終了と第二任務
「はあ……はあ……」
いくら撃ってもきりがない。経験値稼ぎじゃないんだから。
それもスライム、ゴブリン、ラビットとくそ雑魚しかでで来ないから余計に腹立つ!
「コチラライルサービス。ソウダンガヒツヨウナバアイワイツデモネンジテクダサイ」
とにかく銃を乱射していると、頭の中に不快なエセ神の声が直接響いてくる。
お前が直接、俺を助けてくれれば何も問題はないんだよ。
「じゃあ、俺を助けてくれ」
「エラー。ヨクキキトレマセンデシタ」
あ、こいつは本人だ。ライルサビースとか言う胡散臭いサービスの皮をかぶった本人だ。
こっちはただでさえ忙しいのに対応してられるか。
「じゃあ、そこで死んどいてくれ。以上」
「え~辛辣~」
俺は再び無限に湧いてくるモンスター達をレーザーの出る銃で撃ちまくる。
こうなったら数撃ち当たる理論で行くしかない。
「ねえ、AIMの特徴が知りたいんでしょ?あれ?聞いてる?」
「聞いてない」
「聞いて聞いて聞いて聞いて」
こいつうるせえ……直接現れて判別してくれればいいじゃないか。
特徴だけ言われても……周りには同じようなモンスターしかいないし。
「聞かないと。歩夢に勝てる未来はないよ」
「分かった。聞いてやる」
「簡単に言うよ。AIMは全てが見分けやすいとは言えない。巧妙な奴もいるってこと。でも奴らは絶対にバグの近くにいる。バグを修正されないようにね。以上!後は頑張って」
ブツッという音共にライルの声は聞こえなくなった。
本当に簡単なんだな……しかし、よくわかった。
要するにバグを見つけろという事だろ。俺の得意分野だ。
バグは確か発生前は小さな次元の歪みだった。ならそれを探せば!
いや、今は周り全体が歪んでいるようで判別が出来ない。この方法は却下だ。
この中から違いのあるモンスターを探すか?いや。モンスターは時間経過と共に増えていく。時間をかければかけるほど不利になる。
だったらどうすれば……。モンスターの動き……?
よし!これなら行ける気がする。
俺は足で近くのスライムを踏み潰す。スライムは悲鳴を上げて、消滅した。
その悲鳴に反応し、他のモンスター達が一斉に視線を俺に向ける。
どうやらこいつらは仲間が殺された所を目の前で見ないと反応すらもしないらしい。
「ほら。お前らの仲間が死んだぜ。仇くらいとってみろよ」
俺の言葉を理解したのか、モンスター達は俺めがけて突っ込んでくる。
作戦通り。
普通のモンスター達なら俺めがけて突っ込んでくる。
でもバグの修正を防いでいるなら、迂闊には動けない……はず。
俺は何も考えずに群れで突っ込んでくるモンスターを踏み台にAIMを探す。
いた!一匹だけはぐれてるじゃねえか。単純で良かった。
ゴブリンの頭をジャンプ台にAIMの方へ飛ぶ。
な?ただのスライムか?でもここはやるしかないな。
ウィニングショット。
俺の銃から放たれたレーザーは見事にスライムを貫き、水風船の様に爆発させた。
撃ち終わった俺はだらしなく地面に転がり、両手を広げて余韻に浸る。
今の技名なんか決め技みたいでカッコ良いかも。記憶しておくか~
後ろを振り返るとそこにモンスター達の姿はなく、次元の歪みだけが残っていた。
「いやーお見事。お見事!これなら歩夢に安心して仕事を任せられそう」
余韻に浸る俺の背後から高揚した少年の声が聞こえる。
やっぱりテストだったか。最初からそうだと思っていたんだよな
てかそれどころじゃない。こいつには色々と恨みがあるもんでな。
おとしまえ付けてもらおうか。
「ライルてめー。あんなふざけた事ばっかりしやがって。撃ち抜いてやる」
「まあまあ。実は私はこの世界の神なんですよ。だからあなたが性格の悪い人間にも対応できるかを見ていたんです」
少年は得意げな表情で俺をまっすぐ見る。
「圧迫面接か?神という事に関しては知らないが、元からそんな性格だろ」
「バレた。ま、まあいいや。冗談はさておきこれはテストでも何でもない列記とした初仕事。歩夢には成果報酬として初任給を与えよう」
ライルがまた空を斬り、切り開いた場所から皮で出来たパンパンの子袋とローブのような物を取り出してこちらに投げる。
「あれだけの事をやっておいて、たったこれだけかよ」
「まあまあ。文句を言う前に袋を開けてごらん」
ライルの言うとおりに皮の袋を開けてみる。
中には袋一杯の……
「……500円玉?それなら万札に……」
「金貨だよ!歩夢はもしかして金貨を知らないの?」
ライルが渋い顔で俺に問う。
金貨はあれだろ……確か、金で出来た非常に高価な通貨だろ。
てことは……。
「こんなに俺にくれるのか?だってこんなの日本だったら数千万の価値になるぞ」
「いやいや。この世界での通貨だから。日本通貨にはできないよ」
えーまじかよ。貰えないならこの金貨は要らないかな。
「俺は別にこのゲーム仕事でしかやることねえしなー。通貨を貰ってもなー」
「何言ってんの?これはゲームじゃない。現実だよ。あれはゲームのバグじゃない。現実のバグさ」
……???えっとー?うん……???
完全に動揺している俺にライルは微笑する。
「分からないみたいだね。簡単に言うと歩夢はこの世界のバグを直すのが仕事。仕事が終わるまで現実世界には戻れないってこと」
あ……ああ……ああああああああ!
さらば俺の優雅な現実生活。さらば愉快な会社の同期達よ。
俺はもう。お前達のところへは戻れない
★
「ねえ。そろそろ機嫌戻したら?僕も度々ここに足を運ぶのは面倒なんだけど」
呆れたような声がベットにうつ伏せで枕に頭を埋めている僕に届く。
あれから2週間くらいが経過した。
俺は絶望したままその場に座り込み、数日かけてライルに仮拠点まで運ばれた。
そこでもまだ俺は帰れないことに絶望してベットの上に寝転がっている。
いや違う……絶望はしていない。どっちかというと満喫している。
夢も希望も失った現実生活には戻りたくないのが本音だ。
という事で俺は物新しい異世界生活を楽しむために落ち込んでいるふりをして、仕事をサボっている。我ながら天才的な発想である。
トイレはあるけどウォシュレットがない。風呂はあるけどシャワーがない。
古風な娯楽アイテムはあるけどゲーム機はない。
その代わり空気は美味しいし、自然も素晴らしい。虫は論外。
まるでどこか知らない場所に旅に来た気分だ。
まあ、実際にそうなんだが。
あと一か月くらいは満喫しようかな。
「あと3秒で動かないとこの家から追い出しまーす。1,2,3」
「独特なカウント方法だな!」
やっちまった……ツッコんでしまった。
「なんだ元気じゃん。仕事持ってきたよ♪」
ライルが笑顔で薄青色の光を放つ水晶を見せてくる。
「あーつらい。あんな眩しくも切ない現実の世界から離れるなんて」
俺は再び枕に顔を埋め込む。
ライルからは大きなため息が聞こえた。
「今回は中世の街を歩けるかもなー。確か景観は物凄く綺麗らしいし。可愛い女の子も……」
「よし!仕事に取り掛かろう。何をしているんだライル早く説明してくれ」
俺は早速、ベットから起き上がり身支度を秒速で整える。
綺麗な景観の街とかもう夢の街だろ。中世最高。なぜこの世界がこんなに文明が遅れているかは知らないが。
とにかくこれは探索しまくらないとな。
ま、まあその街探索のついでに可愛い女の子とお話でも出来たらな……。
「仕事って事は忘れたらだめだからね」
「分かってるよ!」
ライルは真顔で水晶に触れる。
触れられた水晶は瞬く間に光を放ち、無数の映像を空中に映し出す。
わーおっ。これはすげえな。魔法や魔術というよりは機械って感じがする。
恐魔道具という設定ではあるんだろうけどきっと神世界の物だよな。
俺の興味津々の目線に意図的なのか偶然なのか目も向けることなく、ライルは説明を始めた。
「それで今回の仕事なんだけど。舞台はリューニアル王国 リーエリアの街だよ」
「リニューアル王国。Leeエリアの街!なんか明るいのか暗いのか分からねえな」
「本当にそう思うよー。それじゃあ頑張って来て。転送するから」
絶対に今、適当に流された。こんなエセ神に流されるなんて……屈辱的だ。
おっと。そんな事を言っている場合ではない。着いてからの段取りを聞かないと詰む。
「着いてからはどうすればいい?」
「僕は説明する気が失せた。多分、転送先で僕の眷属が同じことを言うと思うから」
「なるほど。分かった……訳ねえだろ。ちょっとくらいジョークに付き合ってくれよ」
「それじゃあいくよ」
ライルが俺に両手の掌を向けた。
また流しやがった。コノヤロー。でも。でもでもでも胸が高鳴る。
初めての街。中世の街。可愛い女の子。どれも楽しみすぎるぜ。
「転送~~~」
ライルの力の抜けたような声が耳に響く。
俺は高鳴る鼓動を抑え、目を閉じる。
やがて周りの音は静まり返り一人の声だけが俺の耳に入った。
この声はライルだ!
「今回は仕事だからね。楽しむのは良いけど忘れないで。歩夢が楽しんでいる間もバグに苦しんでいる人はいるから」
分かってるって。しつこいな。
鳥のさえずり。風に吹かれた木のざわめきが聞こえる。
もしかして……ここは木々の生い茂る森の中!これはあるぞ美少女救済イベント。
俺はゆっくりと目を開ける。
おー!周りに広がる低木たち!青く澄み渡った空……数メートル先まで見渡せる景色……。
慌てて周りを確認して理解した。俺は今、木の生い茂る森の中で一番高い木の頂点にいる。
はあ……もう勘弁してくれよ。こんな所で頂点を掴み取っても意味がないんだよ。
「ライルの馬鹿―!無能!エセ神!」
ライル「えへへ。また間違えちゃった。ちゃんと猫子に伝えなきゃ」
読んでいただきありがとうございました。ちょっとずつ改善しているつもりなのですが.......