2.バグ......なのかこれは?
ぐおーっ!溺れる。
俺は必死に両腕両足をバタバタさせてなんとか浮き上がっていた。
しかし、俺のスタミナゲージは少しずつ減っていっている。腕や足が疲れてきたのが何よりの証拠だ。
俺に水泳スキルはない。簡単に言うと金づち。
水泳モーションとかが固定されているゲームばっかやっていたせいで泳げた気になっていた。
もし溺れ死んだらあの神様絶対に恨む。
そんな俺の足元に何か平べったく長い物が触れた。
なんだ?すごく脚がヌメヌメして気持ち悪いぞ。
必死に浮き上がりながらも、下を向いてみる。
すると僕の下にはフェリー並みの長さの大きな影が水中を泳いでいた。
「へへ……そりゃないぜ」
これは運命に『君の死に場所はここだ』と告げられているかのようだな。
ああ!もしもこの世に神がいるならば早く俺を助けろよ馬鹿野郎!
そう心で呟きながらも巨大な生物の様子を固唾をのんで見守る。
少し時をおいて、生物の影らしきものはどこかに姿を消した。
「助かったー。マジで神様ありがとう。早く何とかしてこの海から抜けないとな……」
ん?何だ?水面の小さな影が少しずつ大きくなってっ!
あ……なるほど。上げて落とすタイプか。いい性格してるぜ神様。
お願いします。殺さないで頼むから初見殺しだけはやめてくれ!
そんな僕の願いを聞くことなく、下から巨大クジラ級のモンスターが大きな口を開けて出てきた。
「神様っーーーー!」
「はいはーい!」
上空から聞き慣れた少年の声が聞こえてくる。
はあ……。助かった。神様だ。
いや?待て。これはあのエセ神様中二病転送少年じゃないか。
俺は空から飛んできたライルに軽々と持ち上げられ、巨大生物の口元を離れた。
俺が離れてすぐに口は勢いよく閉まり、モンスターは海の中に消えていった。
「ライル!このやろう!」
「ごめんねー。手先が狂って上手く転送できなかったみたい」
ライルは無邪気に笑い、俺をどこかへと運んでいく。
絶対にわざとだろ……コノヤロー。俺で遊びやがって。
確かにいじりまくった俺も悪かったが。でも……もし本当の神なら失敗はしないからな。。
「でも良かったじゃん。これこそ神一髪だったね。ほら間一髪と神をかけて……」
やっぱり事実がどうであろうと、こいつだけは絶対に神として認められないわ。
てか俺は一体どこに運ばれてるんだよ。
もう陸地通り過ぎてるし。
そんな事を考えていると、ゼロアの胸元についている小さく丸いボタンのような物から音が響く。
《警報!周辺に大規模なバグの素を検知。迅速な対応を推奨します》
何を知らせているのかは分からない。でも、それを聞いたライルの表情が曇っているという事は良い事ではないという事だ。それに警報って言ってるからな。
「ここでバグ出現かー。悪いけどさっそく仕事ね。あ・ゆ・む!」
「あ、仕事上では柴田でよろしくお願いします」
「急な距離感!」
なんかあれだな……こいつ面倒臭えな。
おっと。それよりも仕事優先だ。
俺は元々、デバッカーとしてここに来たのを忘れてはいけない。
「バグの事に関しては俺の得意分野だ。任せてくれ!」
ライルは僕の答えに微笑し、俺を目的地へと運ぶ。
目的地へたどり着くとそこはまるで次元が歪んでいるかのようだった。
「今回はかなり大きなバグかな……もうすぐ発生しそう」
歩夢の隣で歪みに触れているライルが面倒臭そうにそう言う。
これがバグ?信じられない。どっちかというとゲームの仕様って感じがする。
なんか頭の中が混乱してきた。俺は何のために連れてこられたんだ?
俺は聞きたいことしかなかったため、何を言葉に出せばいいのか分からないまま固まった。
「それで歩夢君。この銃と剣を装着してくれる?時間がないから手短に説明するよ」
ライルが手で空を斬ると、裂け目のような場所が出現した。
ライルはそこから剣のような物と銃のような物を取り出す。
「お、お1。待て。何だそれ?バグを治すんだよな?一回、現実に戻ろうぜ」
「いいから受け取って。時間がない」
「分かったよ……」
俺はライルが手渡してきた鞘入りの剣と白を基調としてあちこちの赤い装飾の光が輝いている銃をベルトの隙間に入れる。
「まあ、それでもいっか」
ライルは俺の見映えに顔をしかめてきたが、すぐに表情を戻す。
「今回のバグはモンスター無限湧き。修正するのは骨が折れそう。だから今回はバグの元凶となっているAIMにその銃のAIMを合わせて撃ち抜くだけでいいよ」
「うん。そうだな」
ショボいネタに関しては温かい目で見てやろう。
それにしても銃で撃ち抜くのは分かる。むしろそれはゲーム的要素があっていいと思う。
だが……バグの元凶?AIM?何だそれ?
バグはプログラム上の不具合だ。それに元凶がいるのか?
それもAIM?何かのウイルスの総称か?それともエラープログラム?
「AIMはAbnormal identification monsterの略称。簡単に言うとバグを引き起こすモンスターかな。それはこの世界では識別されないモンスターやデータ。だからAIM」
なるほど。なんとなくしか分からないが、ほっておくとやばいのは分かる。
というかもうこれは仕様みたいだな。チュートリアルやっている気分。
あれだろ、つまりデバッカーどうのこうのの前に一人のゲーマーとしての力量を計っているだろう。
「大丈夫。FPSは大の得意だ」
「それじゃあ、頑張って。僕は神の間から見ておくね」
ライルはにっこりとした笑顔で俺に手を振る。
今、やばい事言わなかったか?
「ライルはサポートだろ?いくら何でも初見でクリアする保証は出来ないぞ」
するとライルは少し悲しそうな表情を俺に向ける。
「僕に力はもうほとんど残ってないんだ。だからこれ以上力を使うと神命を削ることになるんだ」
そうか。命は何よりも大事だしな。仕方ない。ここは俺が腕をふるうか。
「それなら俺に任せろ!いの……」
「それじゃあ頑張って!力がないなんて嘘だけどね……ただめんどくさいだけ……」
ライルはそう言い残して突如として現れた黒の扉の中に消えていった。
少しして扉も完全に消え去り、そこには俺と次元の歪みだけが残された。
「次、会ったらアイツの腐った性根も修正してやろうかな」
バグが発生したのか、周りの風景が激しくぶれ始める。それはまるでアンテナがやられた時のテレビ画面を見ているようだった。
ただ呆然と突っ立ってていると、どこからか現れたスライムがこちらに寄ってきた。
ここだけまるで別世界の様だな。ん?スライム?どこから湧いてきやがった?
俺はそこでようやく気付いた。
もう既に周りに湧いて来たモンスター達に俺は囲まれている。
これは早く倒さないとヤバそうだな。よく分からないが初仕事開始だ。
ブクマありがとうございます。他に言いたいことはありません。