表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/7

1.初めての......依頼?

目に優しい内容になっています。

気休め程度に呼んで行ってください。

気に入ってもらえたら......分かってますよね?

デバッカーとしての仕事をして2年目。僕は初めて大きな案件を任された。


デバッカーを始めたのは2年前。

高校を中退した俺がとにかく金欲しさで始めた初めてのバイトだ。


特に何かのスキルを有している訳でもなく、学歴が特別いいわけでもない僕を雇ってくれるところなんてそうそう見つからないだろう。


そう思っていた時にゲーム上級者なおかつフルタイムで出勤出来る人という募集内容で

人材を探しているデバッカー会社と出会った。


それがゲームバグ修正専門会社『バグの回復魔法』。

入る前ははウケ狙いの会社かと思ったけど、社員専用アカウントの衣装が魔法使いのローブと割と真面目な会社だった。


入社したばかりの頃は好きに容姿を変えていい物だと思い、剣士にしていたら怒られた。


おっと。こんな事を考えている暇はなかった。そろそろ家を出ないと。


いつもなら俺の会社から家庭用フルダイブ専用デバイス 『コントラ』にメールと一緒にベータテスト版データが送付されてきて在宅でも仕事が出来るようになっている。


でも今回はわざわざゲーム会社まで赴かなければいけない。

よほど情報漏洩を警戒しているのか。それとも企業用大型フルダイブデバイスNTD(神経転移装置)を使っているのか。または何かやましい事情でもあるのか。


まあ、うちの会社が特殊なだけで会社が一般人を数十人雇って社内で直接デバッカーやらせるのが世間では普通だからな。


うちみたいにTHEバグの発見の仕事人みたいな人たちが数人で数百人分の仕事をしている方が明らかに異常だ。


でも……わざわざ電車乗って行くのめんどくせー。この時間帯は通勤ラッシュだから余計に行きたくねえ。でも行かなかったら会社に迷惑かかるからな……仕方ない。


俺はふにゃふにゃしながら襟にモフモフのついた紺色のコートと濃い緑色のズボン(外出用)に着替え、鞄を片手に家を出た。


人混みにもまれること2時間。顔を青ざめながらもようやく会社の前に辿り着く。

ほぼオンライン出勤だった俺が久しぶりに外の世界の厳しさを突き付けられた気がする。


しかし……ボロいビルだ。こんな所を会社に使っているなんてにわかには信じがたい。

見た感じ中の明かりもついてなさそうだし。住所を間違えたかな。


もしかして……違法フルダイブ機能搭載ゲームのバグ調査とかじゃないよな……。


それだけはやめてくれよ……バレた時に俺まで捕まっちまう。


まあいい。もしそうだった時は俺のFPSで培った体術でボコボコにしてやろう。


僕は悠然たる構えで建物の中に入る。


「どうも。バグの回復魔法の柴田です。誰かいらっしゃいますか?」


建物の中は窓から差し込んだ夕日の光で赤色に染まっていた。

しかし、人もいなければ人影らしきものもない・


「すいません誰かいますか?×10」


呼びかけても会社内部からは返事が返ってこない。


仕方がない。近くの階段から上がって行くか。

これは不法侵入ではない。仕事で来ているんだから上がってもいいよ……な?


今どき珍しい螺旋階段を上って行くと通路の横のオフィスらしき場所のデスクに一人座っているのが見えた。


良かった……人だ。なぜあんなところに?もしかして待たせてたのか?

それは誠に申し訳ない。


「あの……遅れました。バグの回復魔法の柴田です」


俺はデスクと向かい合う形で座っている人の肩を軽く叩く。


するとその人はデスクに向かって倒れ、取れた首が小さな音を立てて地面に転がった。


し、しんでる!? んなわけねえか。血も出てないし。


「あー。それ見張り用のかかしだから気にしないで。壊したのはちょっと気がかりだけど」


さっきまで人一人いなかったはずの通路の方から若々しい少年のような声が響く。


まさかこの俺が気づかなかったなんて。フルダイブで気配察知能力を高めたつもりだったがまだまだ詰めが甘かったか。


「悪かったな。壊してしまって。それで?本当の担当者はどこにいる?」


俺はかかしを壊してしまった事を謝りながら、後ろを振りむく。


しかし、声の聞こえた通路の方向には誰も立ってはいなかった。


「そんなの僕に決まってるじゃん。どこ見てるの?僕はこっちだよ」


嘘だろ……。俺の気配察知能力はもしかして底の下なんじゃないのか?

すぐ後ろに座っているのに俺は気づくどころか警戒すら出来ていなかったのか……


慌ててさっきのかかしの方向に視線を戻す。


「何見てんだよ!!」


ところがそこにも少年の姿はなく、首のついたかかしと目が合った。


「ざんねーん。そこにはいないよ。最初のテストとして僕を探してみてよ」


少年の人を小馬鹿にしたような声が聞こえる。


とりあえず少年の態度にいら立ちが募ったため、かかしの雑な顔面を思いっきり蹴り飛ばしておいた。


かかしの顔面は放物線を描き、哀愁溢れる音を立てて地面に転がる。


「してやったぜのもへ顔面キック」


俺が得意げに両腕を組むとその隣から煌びやかに光る白髪の少年がかかしの方へ走って行った。


「あー。これ僕の少ない部下だったのに。まあいいや。僕にも非があるしね」


どうやらかかしを潰すことが一番手っ取り早い方法だったらしい。


「それで?少年君。詳しく話を聞かせてもらおうか」

「少年は止して。僕の名前はライル。まずは僕について来て。話はそれから」


少年はライルと名乗り、かかしを抱えて通路の方へ歩いて行く。


ハーフの少年なのか?それとも外国人?髪は白髪。目はオーロラ色?服は外国人が好きそうな白い文字入りTシャツ。『控えめに言って神』と書いてある。


よって結論はきっと日本語覚えた外国人が髪を染めてカラコンを入れた感じだと思う。

Tシャツの文字に関しては知らん。自画自賛?

ここにいる理由はお父さんの仕事場見学と言ったところか。


さあ!早速、社長室まで案内してもらおうじゃないか。

アメリカ流で『子供と遊んでくれたからチップあげるよ』とかないかな。


「着いたよ。ここが歩夢君の仕事場さ」


案内された場所は社長室ではなくNTDが置いてあるだけのちっぽけなラボだった。


「おいおいちょっと待てよ!社長は?担当者は?チップは?」

「僕が社長であり担当者でありチップでもある」


ライルはどや顔で両手を腰に当てる。


その年齢で働いていたら労基違反するだろ……絶対にチップではないことは分かるがな。


「労基違反だ。これで仕事を受けたら俺も逮捕されるかもしれない」


俺の返答にライルは自信満々の笑みを浮かべる。


「ろ、ろうきって何?」


ライルはマグロの様に目を泳がせて、頭をポリポリと掻く。


今の笑みは何の笑みだったんだよ……


「労働基準法だよ。これくらい親から教われよな」

「あーあれね。あれあれ。てか僕は子供じゃないんだけど」


もうそんなのどうでもいい。とにかく先P(先輩)にこの事を話して仕事の件は無しにしてもらおう。


俺は踵を返して出口の方へ歩く。


「帰れないよ。いや帰らせない。法では僕を縛れない。だから歩夢君は帰れない」


背後から鋭い視線と共に真剣な言葉が飛んでくる。


ここまで来て、まさかのホラーと反社の設定追加はやめてくれよ。


「あのな。ライル君が何者かは知らないが、俺にも生活が……」


呆れながらもライルの方を振り返ると、ライルは純白のオーラを纏い、地面から数十センチばかり宙に浮いていた。


「な……お前……」

「僕は神。ね?僕がなぜ縛られないか……」

「その年で中二病こじらせてんのかよ」

「はい?」


それなら納得。毎日かつらを付けて。カラコン入れて。Tシャツは知らんが、わざわざライトエフェクトまで使って。こりゃかなり重病だな。中等部、高等部で苦労するぞー。

実際に苦労した俺には分かる!


「ちっ!めんどくさい。こうやって喋っていても時間の無駄だという事がよく分かったよ。なーに。強制的に仕事場に派遣すればいい話じゃん。それで信じてもらえるならね」


ライルはかすかに笑い、俺に掌を向けた。


「おい。待て!どれだけ変な術式唱えても痛てえのは……お前だろ!」

「ふふっ!また後で別の世界で会おう歩夢君。きっとその時は信じていることを願うよ」

「大丈夫。まだやり直せる。とにかく掌を下げるんだ!」


俺は必死にライルの中二病スイッチoffにしようとなだめる。


すると自分の周り一帯が白色に発光し、瞬く間に視界が真っ白になった。

俺はあまりの眩しさに目を閉じる。


やがて夕暮れの街の喧騒は消え去り、安らかなリラックスBGMのような水の音が耳に入る。


一体、何が起こった?水の音がするような。そういえば急に身体が肌寒く。

腹から下が濡れていて気持ち悪い。


嫌だなー。この年にもなっておもらしはしねえよ。

待てよ?だとしたら俺の下半身は何故濡れている?


俺は先ほどのフラッシュでまだチカチカしている目をゆっくりと開ける。


「は?ここどこだよ?……違うだろ。話が違うだろ!」


俺は一人、周りに青しか見えない海のど真ん中でプカプカと浮かんでいた。



「ふふふっ!さて彼自身の世界転送も終えたことだし、そろそろ僕も転送先に向かおうかな。柴田 歩夢 (しばたあゆむ)。存分に働いてもらうよ。僕がいつか天界の席に返り咲くために。返り咲いた日にはあの席に座っている邪神たちを全員引きずり下ろしてやろう」


ライルは薄く笑みを浮かべた後、大きなため息をつく。


「ところで中二病ってなんだろう?神もかかる流行り病なら調べておかないと」


ライルは部屋の電気を消し、暗闇の中にゆっくりと姿を消した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ