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「はあ、これだからもうっ」
前髪をかき上げた母はストレスの塊を、今度は私に吐き出すためにキッとこちらを睨んだ。
「日和、あなた今回全然勉強してなかったでしょう」
「勉強ならいつも通りしたよ」
「それで足りなかったから今回こんなひどい点数になったんでしょ。夏休みだって夏祭りになんか行ってる場合じゃなかったんじゃないの」
「それぐらいいいじゃん。むしろ夏祭りぐらいしか遊んでないんだし、それす
ら楽しんじゃだめだって言うの?」
「そういうことじゃないわ。気持ちが緩んでるって言ってるだけ。お母さんが
高校生だった頃は1年生の時から一度も遊びになんか行かなかったわ。それぐらい必死でやってるの?」
一度も遊びに行かないなんてそんなの絶対嘘だ、という言葉を呑み込んだ。一流大学にストレートで進んだ母ならやりかねないことだ。
だけど、それとこれとは話が違う。
私は母みたいになれない。いくら優秀な二人から生まれたからって、父や母ほど頭は良くないし、要領も悪い。17年間生きてきて自覚したことだ。限界を知っているからこそ、力の抜き方も考えているというのに。
「どうせ私なんて、お母さんみたいにはなれない。努力したって上手くいかないことだってあるよ!」
「努力した? 本当に? 努力って主観的なものでしょ。周りからすればもっ
と頑張れるんじゃないのって程度で努力って言うんだったら、お母さんはそん
なの努力とは認めません」
ああ言えばこう言うという状況に追い込まれた私は剥き出しの母の攻撃を裸で受け止めるたび、鋭利なナイフで肌を斬り付けられる痛みを覚えた。
「……お母さんは」
自分でもびっくりするくらい、声が震えていた。声だけじゃなくて、肩も心も震えている。頭がジンジンと熱く、熱でもあるんじゃないかというくらいぐらぐらした。
「私に、どうなってほしいの?」
「どうなってって、そりゃいい大学に進んでいい就職先を見つけてほしいに決
まってるじゃない。いつも言ってるでしょう。女一人で生きていく時代になる
んだから、自力で余裕のある生活を送れるぐらいにならなきゃいけないわ」
「……違うよ」
自然と溢れ出た母への反抗心。母は「私のため」と謡いながら、本当は誰のために必要以上に私に厳しくしているのか自覚がないのだろう。
そんな彼女を可哀想にさえ思えてくる。私の将来は、私以外に案ずることなんてできないというのに。




