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数時間後に仕事から帰ってきた父と母はいつも通り疲れた顔で食卓に座った。私は、自らテストの結果を切り出すのが気まずくて、何も知らないフリをして席についた。
「テスト、どうだった?」
間髪を容れず母は私に問うた。今日のメニューは大好きなクリームシチューで、冷めないうちに一口でも味わいたかったのにそれすらも許してくれなかった。
「あとで見せる」
早くご飯を食べたい気持ちと、できれば成績なんか見せたくないという気持ちが半々だったのだが、私のこの一言は母に後者だと思わせたらしい。
「いいえ、今見せない」
だったら最初から食卓につく前に言ってよ、と反抗したい気持ちを抑えつつ、私は部屋に戻りカバンからテストの結果を取り出した。まだ順位表などは受け取っておらず、渡せるのは答案用紙のみ。しかしそれだけでも十分に破壊力があるので憂鬱な気分でそれを母に差し出した。
「……」
母は各教科の答案用紙をじっくりと確認した。その間、父はひたすらシチューを口に運んでいる。放置された私のシチューからは未だ湯気がもうもうと立っている。
「ひどいわね」
予想通り、母の表情は最悪だというふうに曇っていた。こうなることが分かっていたから見せたくなかったのだ。
「どうしたんだ」
「あなた、これ見てよ」
ついに父にまで点数を見せる始末。それ自体は仕方ないとは思ったのだけれど、問題が起こったのはその後だった。
「ああ、結構下がっちゃったな。でもそういう時もあるし次は頑張りなさい」
母同様、父も教育には厳しい方なのだが、この時ばかりはどうやら私の味方だったようだ。どちらかといえば普段から「一度のテストで一喜一憂するんじゃない」と諭してくるタイプだったので予想できたといえばそうだ。
しかし母は父の反応を見て、曇らせていた表情を余計に硬く険しく歪めていった。
「ちょっと待ってよ。あなた、それだけ? 私は全然納得できないわ」
「納得できないって言われても、終わってしまったものはどうしようもない
じゃないか。次に頑張るしかない」
「そうだけど! もっと言うことがあるでしょう。あなたはいつもそうやって適当な言葉でその場を濁すわよね。あまり真剣に考えてないんじゃないの」
「はあ? どうしてそうなるんだ。考えてないわけないじゃないか」
「じゃあいつ、どんなことを考えてるっていうのよ。自分の仕事さえ上手く
いっていれば家庭のことはどうでもいいんでしょう!」
ダン、と父がテーブルに手をつく音が嫌に大きく響いて聞こえた。
ヒステリックな母にうんざりした様子の父は食べかけのご飯をそのままに席を立った。自室へと消えてゆく父の背中から「勝手にしろ」というオーラが漂っている。こうなったらもう父は口を聞かないし明日まで部屋を出てこないと決まっている。




