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ちょっと苦しい言い訳をして吐きそうになる。そりゃないでしょ。酔っ払った勢いで! とかならまだ分かるが、私も彼も未成年でもちろんお酒なんて飲んでなかった。口にしたのは甘いラムネのみ。
「ふーん。ま、あたしはお似合いだと思ったんだけどさっ。二人にそういうつもりがないなら仕方ないよね」
仕方ない。
たぶん穂花はそう口にすることで、自分と神林の関係が進展することを肯定したいのだろう。大丈夫だよ、私も彼もお互いにそんな気はないから、とはっきり伝えてあげられたらいいのだけれど、なぜだか心がそれを拒んだ。
「そうだよ。頑張って。私は幼馴染みから恋愛に発展するのって憧れるしいいと思う」
心にも思ってないことを言うのに、少しだけ慣れてきた。神林本人を前にするとまだ胸が苦しいけれど、穂花の前ではピエロになれるかもしれない。
「ありがとう。やっぱり日和は友達だね!」
「急にそんなこと言うなんておかしい」
「ふふ、確かにそうか。応援してくれたら嬉しいです」
「かしこまって、変な穂花」
普段はへらへらと笑って周りの空気を和ませることが多い穂花が、今自分の恋を実らせようと一生懸命になっている。彼女の赤くなった頬や最近始めた金木犀の香水の香りが私を圧倒する。穂花がどんどん変わっていく。女の子らしく、花を咲かせて。
「そういえばこの後、永遠と帰る約束してるんだよね」
「この後って、神林の部活が終わってからってこと?」
「そう。うちの店でご飯食べることになってるからバスケ部終わるまで待ってる」
「そうなんだ。なんだかいい感じじゃん?」
「へへ」
恋する女の子の表情で微笑む穂花。
わざわざ部活の後に待ち合わせをして一緒に帰るなんて、神林も穂花のことを意識していと言っているようなもの。
私は次第に速くなる脈を深呼吸で必死になだめながら、二人が一緒になって楽しそうに笑っている光景をできるだけ思い浮かべないように努力した。
「あたし、最後まで諦めないから見てて」
強い意志の光を宿した瞳をこちらに向け宣言されてしまった私はもう、とっくにがんじがらめにされ始めていた。




