90
『あなたが消したいものを、入力してください』
慣れた手つきで入力画面へと進む。
『消したいものは、二学期の懇談会』
決定ボタンを押すと、『了承しました。では、明日から”二学期の懇談会“が消えた世界をお楽しみください——』という定型文が表示される。ちなみに代償も確認しておく。
『代償:担任のプロテインを奪うこと』
ぷっと口からジュースを吹き出しそうになった。
「プロテインって」
『SHOSHITSU』はこんなギャクも言ってくるのか……。いやいや、雪村先生にとってはプロテインはとても大事なものだろうからギャクではないのか?
「日和、何一人で笑ってんの」
スマホから顔を上げるとお手洗いから戻ってきた穂花がジト目で見ていた。
「なんでもない!」
慌ててアプリを閉じ、スマホの画面をスリープ状態にした。
柚乃の消失の件があってからというもの、彼女にアプリを見せるのも話をするのも避けている。これ以上彼女の記憶を混乱させたくないというのもあるし、私自身穂花とアプリの話をしたときの記憶を共有できないことにもどかしさを覚えるのが嫌だった。
「あーあ、何かいいことでも起きないかね」
アプリで懇談会を消したからなのか単にタイミングのせいなのかは分からないが、穂花はまたポテトをつまみながら別の話題を出してきた。
「いいことって、神林との恋が進展するとか?」
「うわ、いきなりぶっ込んできたね。なんでそうなるのさ」
「だって、穂花の顔にそう書いてあるし」
「……う、バレた?」
「バレバレだって」
穂花が悩んだり話を聞いて欲しかったりするときは決まって色恋沙汰だ。昨年から友達をやっているが、彼女との話の中では恋バナが九割を占めている。年頃の女子二人が恋に興味がないはずがない。まして彼女の場合、相手は幼馴染み。どうやって恋愛に発展させるのか思い悩むのは当然だろう。
しかし私はどうして自分から彼の名を挙げてしまったのだろうか。
自分で言っておきながら、これから彼女と自分の好きな人についての恋の相談に乗らなければならない現実に打ちひしがれそうになった。馬鹿だな、私。ばかばかばか。
「いやーあたしとしてはさ、永遠は日和のことが好きなんだと思ってて」
「へ? なんで」
「だって最近お互い名前で呼び合ってるみたいだし。夏祭りの時だって手繋い
でなかった?」
意外と核心部分をついてくる彼女の言葉に背中の汗がツーっと流れ落ちるのを感じた。
「そんなことないよ。名前は、その方が友達っぽいかなって。手を繋いだのは
魔が差したっていうか……」




