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「私、バスケのことほとんど分かんないけど。でも頑張ってダメだったことはたぶん無駄じゃないよ」
「おお、励ましてくれてる? さんきゅな」
神林が、今度は白い歯を見せて明るく笑う。ドクン、と心臓は正直に脈打った。
ああ、ダメだ。
もう意識しないって決めたのに。
だけど、意識する・しないって理性でどうにかなるものなんだろうか。抑え込んでいるうちは、少なくとも彼のことを意識しているわけで……。
「あー……」
「どうした?」
思考がショートしそうな私が突然声を上げたものだから、神林からしたらさぞ怪しかったことだろう。
「いや、なんでもない」
「日和って真面目なやつだと思ってたけど、時々変だよな」
「変はひどいなぁ。でもそうなるか」
彼となんでもないやりとりをするだけで、胸はきゅっと締め付けられる。私はまだピエロになれていない。穂花の背中を押す前に、もっと鍛錬しないと。
「じゃ、もうそろそろ始業だしまたあとで」
「うん」
またあとで話すことがあるのか、もしかして話しかけてくれるのか、いや単なる社交辞令なのかと考える暇もなく、雪村先生が「席につけー」と教室に入ってきた。心なしか前よりも肌が黒くなっている。「先生日焼けしたー!」と女子たちにつっこまれているのを見て、やっぱりなと確信。夏だもん、先生だって遊びたくなるよね。
私も、神林ともう一度だけでいいから遊びに出かけたい——と、また余計なことを考えてはぶるぶると頭を振った。
考えない考えない。
私は彼と友達でいると誓ったのだから。




