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恋の消失パラドックス  作者: 葉方萌生
第四話 二人の関係
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夏祭りが終わってから、私は淡々とした日々を送っていた。穂花から遊ぼうと連絡が来たけれど、気分が乗らず返信すらできていない。しかしいくら乗り気じゃないからと親友のメッセージを無視するのも忍びない。返信の義務感でストレスが溜まって眠れなくなった。いま彼女の会ってしまえば、行き場のない彼への気持ちを、八つ当たりみたいにぶつけてしまう気がしたから危険だった。

人間関係の悩みから気を紛らわせようと机に向かって夏休みの宿題を黙々とこなす。時々お母さんが部屋に入ってきて私の様子を確認していた。


「最近頑張ってるのね」


「そう? 普通だよ」


母はカタン、とお盆に載せた麦茶とおまんじゅうを机の上に置いてくれた。顔を上げずに「ありがとう」と伝える。淡々と、でも着実に過ぎていく時間。だけど私は、全然前に進めない。このまま2学期が過ぎ、3学期が過ぎ、神林と別のクラスになって私たちの関係は終わりを告げるのだ。

お母さんがそっと部屋から出ていく。勉強に集中できていると思っていたのに、気を抜くと穂花や神林のことを考えてしまう。


「そうだ、アプリがあるじゃん」


突然、まさに閃光でも落ちてきたかのように閃いた。

私は急いで『SHOSHITSU』アプリを起動する。もう二度と使わないかもしれないと思っていたのだが、些細なことならば使ってもほとんど問題ないのではないか。

久しぶりにスマホの画面いっぱいに広がる真っ黒な画面を見ると、思わず身震いした。でも大丈夫。今からすることは大したことじゃない。柚乃の時みたいに人間一人を消そうなんて大掛かりなことではないからだ。


『あなたが消したいものを、入力してください』


定型文句の下に表示される入力画面をタップする。


『消したいものは、穂花からのメッセージ』


『了承しました。では、明日から“穂花からのメッセージ”が消えた世界をお楽しみください——』


「よし、これで大丈夫……」


明日になれば穂花が私を遊びに誘ってきたLINEのメッセージは消えている。同時に、穂花が私を遊びに誘ったという記憶もなくなっているだろう。

そう思うと、幾分か心が和らいだ。ある出来事が消えてなくなることは、必ずしも悪いことではない。今みたいに心を救ってくれることだってあるんだ……。

これはかなり、アプリを有効活用できているのではないだろうか?

私は久しぶりに心から安堵し、その日の夜はぐっすりと眠りにつくことができた。



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