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「私は……」
とっさに浮かんだのは、「答えたくない」と拒絶する気持ちだ。同時に、自分の神林に対する想いに気づいてしまった。
私は、神林のことが好きだ。
分かっていたようで、きちんと受け入れられてはいなかった。でも、これまでの自分の感情の変化を思い返せばそうとしか考えられない。彼と初めてまともに言葉を交わした日、屋上で背中を誘ってくれた日、屋上での出来事を忘れてしまったと告白された日。
嬉しかったり悲しかったり、彼のこととなればまるでジェットコースターみたいに気持ちが浮き沈みしていた。誰かを好きになったことのない私にはすべてが初めてだったから、分からなかったのだ。
「……分からないよ」
穂花に嘘をついた。分からない、なんてことはもうなかった。今日、彼が私の名前を呼び手を繋いでくれたことは今でも私の胸を熱したままなのだから。
「なーんだ。そうなんだ」
ほっとした様子の穂花。私には痛いほど彼女の気持ちが理解できた。
もし、親友が自分の好きな人と同じ人に恋をしていたら?
穂花はきっと、いや間違いなく神林のことが好きなのだ。だから、私の神林への気持ちを確かめたかった。いつもはヘラヘラと調子の良いことを言っているが、彼女だって内面は可愛い女の子。普通に恋をするし、その相手が幼馴染みだったとして、なんの不思議もない。
彼女の恋路を邪魔しているのは私だ。
神林と出会ってまだ一年も経っていない。穂花が彼と築いてきた時間や思い出と比べれば、私たちの関係はあまりにも儚い。
脳裏に焼き付いた花火の光景がフラッシュバックした。あの瞬間、繋いだ手から伝わっていた温もりがまぼろしだったのではないかと錯覚する。私と彼の秘密は、夏の花火のように儚く消えてしまうだろう。
いや、きっと私は消してしまうだろう。
目の前で女の表情を浮かべる穂花には勝てやしないから。
「待たせてごめん」
後ろから声をかけられて振り返る。神林はすまなそうに両手を合わせていた。
「すごい混んでたね」
先ほどまでの会話はなかったかのように、穂花は彼に向かって微笑んだ。私も曖昧に笑って見せる。
「どうした二人とも。なんかあった?」
「ううん、なんでもないって」
そう、なんでもない。
大丈夫だよ、穂花。
私は彼のことを奪ったりしないから。
二人が駅の改札に向かって歩き出した後をそっとついていく。いつかのテスト勉強会の帰りみたいに、私は揺れる二人の背中を見つめていた。私よりも背の高い穂花は、彼と並ぶととても絵になる。白いうなじも最高に色っぽい。
いつの間にか、彼女は私のずっと前を歩いていた。




