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改札を潜ろうかという時になって、神林がお手洗いへと去っていく。見れば男性用トイレもかなりの列をなしており、少し時間がかかりそうだった。
今日、穂花と二人きりになるのはこれが初めてだということに気づく。浴衣姿の穂花はいつもと違って色気がある。本人は気づいていないだろうけれど、学校で穂花は男の子たちに人気があるのだ。穂花のクラスメイトが今の彼女を見れば、きっと心奪われてしまうに違いない。
「んー楽しかったね」
「ほんと、花火もお祭りも良かった。誘ってくれてありがとう」
穂花が大きく伸びをする。ようやく俗世間に戻ってきたという空気だ。
「永遠とも仲直りできたみたいで良かった」
「別に喧嘩してたわけじゃないよ」
「そう? でもずっと気まずい雰囲気みたいだったからさ」
「それ、神林が言ってたの?」
「うん。気まずいっていうか『春山さんとどう話したらいいか分からない』っ
てしょげてたよ」
あのときのあいつの沈み具合は見ものだった、と笑い飛ばす穂花。しかしその表情の端にやはり陰が見えた。さっき、ラムネを買って戻ってきた彼女が見せたのと同じ表情だ。
「日和は、永遠のことが好き?」
唐突な問いだった。かつて私も彼女に聞いたことがある。そのときの穂花は、「好きなわけないじゃん」と笑い飛ばしていた。だから私も、彼女と同じように笑い飛ばそうとした。でも、真っ直ぐな目で見つめてくる彼女の瞳に射竦められてどんどん顔が硬っていく。頬の筋肉が動かない。
彼女の白い首筋と、一定のリズムで前後する胸が、自分にはない特別なもののように思えた。その顔は、思春期の女の子なら誰もが憧れる煌きを湛えていた。潤んだ瞳とぷっくりと膨らんだ唇が、果たして本当に穂花のものなんだろうかと疑ってしまうくらいに。今日、初めて彼女のことを色っぽいと認識する。私が知らない穂花が私の本心を聞き出そうとしていた。




