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「はぐれないようにしないと」
不意に何かに手首を掴まれた。神林の手だった。彼は少しも振り向くことなく私の手を引いている。穂花は余裕そうに前を歩いていて、神林に手を引かれる自分が小さな子供みたいで恥ずかしかった。
でもそれ以上に、彼の汗ばんだ手から伝わる緊張感に、きゅっと心臓が帯で結ばれたように締め付けられた。
観覧席に辿りつかぬうちに、ヒュ〜という花火の音がして、前方の夜空に花が咲いた。
「わ、始まった!」
興奮気味の穂花がこちらを振り返る。手をつないでいることが穂花にバレるのがなんとなく後ろめたくて、私たちは大袈裟に反応してみせた。
「すごいね! きれい……」
「圧巻だな」
動いていた人の流れが一斉に静止し、みんなそれぞれに打ち上げられる花火に見惚れている。スマホで動画を撮る者、しっかりと目に焼き付ける者、わぁ、と歓声を上げる者と様々だが、目の前で繰り広げられる光のショーに心奪われていることは同じだった。
すごいすごい、と子供がはしゃぐ声が聞こえる。私は声も上げられないまま、煌く夜空を見ていた。神林の手は依然として私の手を掴んで離さない。手をつないでいることを忘れているかのように、彼も花火に没頭していた。花火と繋がれた手に交互に意識がいく。彼はなんとも思っていないのだろうか。それとも何も思わないぐらい、自然に繋いでくれているんだろうか。
私はこんなにも揺さぶられているというのに。
花火への感動なのか、神林の手から伝わる温もりへの緊張なのか頭の中がごちゃごちゃになり感情の整理がつかない。
「永遠、やばいね! あたしが好きな花火だ」
「本当、すげえな。感動だわ」
興奮気味の穂花が神林の方を見てはしゃぐ。たぶん彼女はその瞬間、私の存在を忘れていたのだ。彼女の目に、花火の光が映る。私の目に、頬を染めた彼女の嬉しそうな表情が映る。
さっと、神林と繋いだ手を後ろに回した。本当は手を離そうとしたんだけれど、思ったよりも彼はしっかりと私の手を握っており簡単には離れなかった。だからそのまま。穂花に見つからないように、私たちは懸命に繋がっていた。




