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確かに穂花は彼のことを名前で呼んでいる。でも、幼馴染みでもない私がそう呼ぶなんて恥ずかしくてできなかったのだ。
「それなら、神林——永遠も私のこと日和って呼んで。それならおあいこでしょう」
自分でも驚くほど、素直にそう言えた。
だけど、バクバクと鳴る心臓が煩くて、顔面が最高潮に熱い。日も落ちかけた時間帯なのに、背中からも額からも汗が噴き出ていた。おまけに耳が真っ赤になっているのは、鏡を見なくても分かった。
「分かった。日和って呼ぶよ」
初めて彼が私の名を呼んだ。お母さんやお父さんから呼ぶのとも、穂花が呼ぶのとも違った輪郭を帯びていた。できるなら「もう一度呼んで」とリクエストしたいくらいだったけれど、さすがに恥ずかしくて言えない。
それに、神林の背後から突如現れた穂花に驚いて、わっと声を上げてしまった。
「あれあれ、お取り込み中だった?」
「ち、違うよ! ちょっとびっくりしただけ……」
「そっか〜なんか怪しいけど、まあいいや!」
私たちの先ほどのやりとりを聞いていたか分からないが、私も神林も穂花の登場で口をつぐんだ。
「それよりほら、ラムネ買って来たよ。はい」
穂花が言う通り、彼女の手には三本のラムネが握られていた。
「ありがとう」
「さんきゅ」
それぞれ一本ずつ青色のビンに入ったラムネを受け取る。お祭りの時ぐらいしか飲むことのできないラムネ。実際はそんなことないのかもしれないけれど、日常ではあまり見かけない。
シュワシュワと溢れ出るサイダーをごくりと一口飲む。ビンを傾けると、カランとビー玉がガラスにぶつかる音が耳に心地よい。
これだこれ。まさに夏祭りの醍醐味とも言える。
「ぷはー! 生き返った!」




