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教室でのクールな神林はどこへやら、穂花と話している時の彼はやっぱり無邪気な少年のようだ。
この間まで気まずかった彼との関係が、少しだけ和らいだ気がした。
「ささ、早く会場の方に行こう。あたしお腹ペコペコだよ」
「そうだね。行こ行こ」
大量の人の群れに押されながら、私たちは祭り会場へと進んだ。ここに集まるほとんどの人たちが同じ目的地へと向かっていることがなんだか信じられず、一気にお祭り気分が高まる。
水瀬川の周辺にずらりと並ぶ露店が見えた。そのすべてが光り輝いているように見える。学生カップルやお母さんに手を引かれる子供たちが次々と露店の方へ吸い込まれてゆく。 どこもかしこも人の頭だらけなのに、不思議と嫌な気持ちはしない。それは私自身、祭りの熱に浮かされた女子高生の一人だからだろう。
「俺、焼き鳥食べたい」
「あたしはたこ焼き」
「え、ちょっと待って」
各々食べたいものがあるらしく、二人は早速お店の前に並んだ。行動の早い二人だ。二人よりもワンテンポ遅れて、私も焼きそば屋さんに並ぶ。どの店も行列ができていて、待ち長いのは覚悟の上だ。
三人ともそれぞれの食事をゲットし、土手の方に腰掛けた。花火を観覧するためにすでに場所をとっている人が多く、私たちが座れたのは敷き詰められたビニールシートの間だった。
「いや〜いいね、この感じ」
「お祭りって感じだね」
熱々のたこ焼きを頬張る穂花は、時折「あちっ」と唸りながら、でも幸せそうな表情を浮かべている。
「永遠もお祭り久しぶりなんじゃない?」
「そうだな。3年ぶりぐらいだ」
「うわ、萎れてる! 青春がもったいない! あんた今まで夏休み何してたの
よ」
「何って、夏休みは父さんの手伝いで忙しいんだよ」




