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柚乃は、私の心から一生暗闇になるはずだった影の部分を取り除いてくれた。
それは、『SHOSHITSU』アプリのおかげといっても過言ではない。あのアプリは、決して悪いものじゃない。今日まで興味本位で使ってしまったことを後悔していたが、今になってようやく、自分の行いを少しでも肯定することができた。
「ありがとう」
「え、何が?」
「ううん。こっちの話」
「なんだ、気になるなー」
それから私たちは、最近の学校のことや柚乃がハマっているゲームの話で盛り上がった。ゲームにハマったのなんて初めてだよ。お母さん、昔は許してくれなかったから。柚乃は「不登校も悪くないね」とあっけらかんと語っていた。こうして話していると、柚乃はごく普通の女の子だ。
「そういえば、うちのお母さん見た?」
「うん。さっき来たときに」
「どうだった?」
「普通のお母さんって感じだったよ。正直聞いてたお母さんとイメージが違っ
た」
「私がこんなことになったからか、プライドなんてなくなっちゃったんだろう
ね。習い事のことも勉強のことも、あんまりうるさく言われなくなった」
「そっか。良かったのかな?」
「少なくとも私にとってはね。お母さんはどう思ってるのか知らないけど」
私は、先ほど目にした柚乃のお母さんの様子を思い出す。不登校になった娘のことを心配してやつれていた。どんな母親でも、我が子が大変な目に遭っていると知ればそうなるのも無理はないのだろう。
「お母さん、きっと心配してると思うよ」
「……だよね」
「お母さんときちんと話をして学校に来られるようになるといいね」
「うん、そうだね。そうする」
一体どの口が言っているのかと考えてみれば滑稽だった。たぶん、母ときちんと話をしなければならないのは紛れもなく私の方だ。
あまり長居するのもよくないと思い、私はベッドから立ちあがった。ここへ来る時よりも心はすっと洗われている。




