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「でもね」
彼女がふと顔をこちらへと向ける。
「なんだか今の状況が、自業自得だって気がしてる」
「自業自得って、どうして?」
「この前も話したかもしれないけど、私もどこかで人をいじめてたような気が
するんだよね。気のせいかもしれないけど」
確かに彼女は以前、自分に迫ってくる上級生たちの下品な顔に、身に覚えがあると言っていた。それは紛れもなく、私が彼女にされていたことだった。
「しかも、その相手が春山さんだったような気がして……」
「……」
言葉が出なかった。
彼女には、アプリを使う前の記憶があるというのか。完全ではないが、ぼんやりと覚えているということ?
そんなことがあるなんて思ってもみなかった。私は確かに柚乃にいじめられていた。それは嘘でもまぼろしでもない。だとすれば、穂花や神林にも私が柚乃のことで悩んでいた話をした記憶が、少しでも残っているかもしれない。
とっさに思い浮かんだのは私を心配そうに覗き込む神林の顔だった。
屋上で見せてくれた彼の優しさはきっと、本物だったのだ。彼の中でも、もしかしたらまだほんのりと記憶の窓が開いているかもしれない。
「たぶん、気のせいだよ」
「そうなのかな? それにしてはあまりにリアルだったから怖くなってね」
「悪い夢だって。気にしないで」
「……まあ、でも一応さ、私の自己満足で言わせて。春山さん、本当にゴメ
ン」
「ううん」
「ごめん」という言葉を聞いたとき、私の中でふわりと心に灯火が灯ったよう
だった。大抵のいじめって、加害者が被害者に謝るなんてことないんじゃないだろうか。気づいたときには大人になっていて、いじめた側はいじめられた側ほど何をしたかなんて覚えていない。いじめられた側はずっと心を蝕まれながら、いじめた人を許せないまま生きていく。でもできるなら、そんな暗い気持ちはとっとと捨て去ってしまう方がいい。誰かを恨み続けるのって、思ったよりも気力と体力がいるのだ。




