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「やっぱり春山さんか」
「がっかりした?」
「ううん。座って」
思ったよりもあっけらかんとした彼女の様子に内心ほっとしながら、勧められるがままベッドに腰かけた。柚乃はよいしょ、と腰をあげて私と横並びになる。いつか屋上へと続く階段で話した時と同じ構図だった。
「学校でプリントを預かったの。うちから近いし持ってきた」
「そうだったんだ。近いっていってもそんなにだよね。わざわざありがとう」
私は、重みのある封筒を彼女に手渡す。
「学校、ずっと来てないみたいだけど大丈夫?」
引きこもりの女の子に対して「大丈夫」だなんて、陳腐な言葉しか出てこない自分の対応力のなさにがっかりした。
けれど柚乃は私がいつそう聞いてくるのかを待っていたかのように、ふうと息を吸った。
「大丈夫、ではなかったかな」
「……そうだよね」
「ごめん。この間春山さんに聞かれた時は大丈夫だなんて軽く言っちゃってたけど、ちょっと甘かったわー。あれからあいつら、結構ねちっこくてさ」
あいつら、とはおそらくバレー部の先輩たちのことだろう。
「雑巾で顔拭かれたり金巻き上げられたり。部活では3年生全員を巻き込んで私を無視してくるしさ。部活以外の時間にもしょっちゅう呼び出しあるし、行かなかったら家にまで来るんだよ。信じられる?」
彼女の話を聞いていると、自分が柚乃にされていたことを思い出した。気にす
るな、と心では言い聞かせていても、浴びるように嫌がらせをされているとだんだんと感覚が麻痺していくあの感じ。
「すっごい粘着質だった。どれだけネチっこいんだって正直呆れたほど。ほんと、ダサいよねー。でもそれに負けてしまった私はもっとダサいんだ」
悲しそうに萎れた声で話す柚乃。キリキリと胸が痛くなる。私がアプリを使わ
なければ、彼女はこんなことにはならなかった。柚乃に押し付けた「いじめ」はどうやったらなくなるんだろうか。




