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「こんなこと自分で言うのも変だけど、私を蔑む先輩たちを見て、既視感を覚えたんだよね。あれ、なんか知ってるって。この人たちの釣り上がった目と下品な口元。どこかで見たことがある。ううん、身に覚えがあるって」
「……それって、遠藤さんも誰かをいじめたことがあるってこと?」
「それが分かんないんだよね。そんなことした記憶はないのに、身体が覚えてるっていうか。だからたぶん、前世で他人のことをいじめてたんだと思う。馬鹿みたいだと思うけど、そうとしか考えられないわ」
はは、と力なく笑う彼女は私が知っている尊大な笑みを浮かべる彼女とは似ても似つかない。柚乃が自分で言った通り、ここはきっと並行世界なのだ。『SHOSHITSU』アプリが生み出した別世界。私が変えてしまった。私が柚乃をこんな目に遭わせてしまった。
だけど、じゃああのまま自分が彼女にいじめられ続けていたらどうなっていただろう。いつか耐えきれなくなって潰れてしまっていたかもしれない。アプリを使ったのが間違いだったというのは結果論であって、実際どっちが良かったかなんてたった一つの世界を生きる人間には分からないのだ。
「遠藤さんって、家ではどんな感じなの」
柚乃と話すうちに、私は彼女のバックグラウンドを知りたいという衝動に駆られた。これまでの私だったら絶対に知ろうともしなかった。自分を罠に陥れる人間のことなんて、知ったところでどうにもならないと思っていたから。
でも今は違う。私は彼女と、同じ立場にいるのかもしれない。成り行きこそねじれてはいるが、こうしてお近づきになれているのは、弱さにつけ込まれたことのある人間同士だからだろう。
「うちで? 息が詰まってるって感じかな」
「え?」
予想していたものとは全然違う答えが返ってきて、私はとっさになんと答えたらいいか分からなかった。もっと別の、例えば家ではだらだらとゲームをして過ごしているとか、両親とめちゃくちゃ仲が良いとか、そういう当たり障りのない答えを期待している自分がいた。あんなに可愛い猫を飼い、私をいじめていた彼女はきっと、何不自由なく幸せな生活をしているのだろうと思いたかった。
だけど彼女が口にした「息が詰まる」という感覚は、私にも身に覚えがあるものだ。




