59
「これって、いじめ……?」
「……そうみたいね」
「部活の先輩とか、そういうのかな」
「たぶん、そうだと思う……」
確か柚乃はバレー部に所属している。いま視覚から読み取れる情報としては、柚乃が3年生から嫌がらせをされていること。その人たちはもしかしたらバレー部の先輩かもしれないこと。その二つだけ。
「どうする? 先生に言う?」
「待って、確証がないのに先生に言うのはちょっと」
「それもそうだね。遠藤さんと話ができればいいけど。日和、同じクラスだし
遠藤さんと話せない?」
「私が彼女と?」
「そうだよ。何か問題でもある?」
正義感の強い穂花の瞳が、私に語りかける。穂花は私が柚乃にされていたこと
を知らない。もう完全に分かってしまった。アプリで柚乃を消す前のこと、代償を払って柚乃を元に戻したことが彼女の記憶にはないのだ。
はっきり言って、問題しかなかった。
私は柚乃と普通に会話をすることに抵抗がある。いくら今の彼女が以前の彼女と違うかもしれないからといって、おいそれと話しかけるなんてかなり勇気がいる。しかもとんでもなくデリケートな内容だ。想像するだけで頭が痛くなる。
「遠藤さんとはそれほど仲良くなくて……。急に話しかけたりしてびっくりされないかな」「なんだ、そんなこと気にしてるの? あたし去年ちょっとだけ話したことあるけど、案外普通だったよ。まあちょっとプライドは高いみたいだけど。なんなら一緒に行く?」
穂花の中では、柚乃が校庭で上級生に詰め寄られているのを見て見ぬ振りをする、という選択肢はまったくないらしい。もし私一人だったら、何もせずにその後の様子を見守っていただけかもしれない。そういうところが、私と穂花では全然違う。穂花は、自分が正しいと思う方へずんずん突き進む。時々私は彼女に追いつけない。私の臆病さが、彼女との距離を広げていく。
私も、もう少し積極的にならなければいけない。柚乃の存在を消し、彼女の大切な猫を奪い、安易に元に戻すという選択をしたのは私だから。
「……いや、大丈夫。二人で行くとなんか威圧的だし、同じクラスメイトとして私が話してみるよ」
「分かった。ありがとう!」
穂花はほっとしたように表情を崩した。彼女の正義感はきっと山よりも高い。
私には真似できない、穂花のいいところだ。
もしかしたら神林も、穂花のこういう曇りのない心を好いているのかもしれない。どちらかと言えば何事にもうじうじと悩んで前に進めなくなる私とは違って、彼女は夏の日に肌に降り注ぐ太陽の光みたいに真っ直ぐだから。




