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穂花は一瞬パチパチと瞬きをして、それからぷっと吹き出した。
「へ? 好きなわけないじゃん。何言ってんの、日和。おっかしー!」
きゃははは、と元気に笑い飛ばす穂花。こちらの不安とは真逆の反応が返ってきて、私はどうも感情を落ち着けることができない。
「そうなんだ。二人、すごく仲が良くてびっくりしたから」
「あー、この間のこと? あれはいつも通りだよ。幼稚園から付き合いあるんだから、もうほとんど家族って感じだよね。それにしてはあいつちょっと口悪くない? って思うこともあるけど」
「そっか。てっきり相思相愛なのかと」
「もしそんなことがあるなら、とっくの昔にそういう関係になってるって」
穂花はそう言って目を伏せるとまたお弁当の卵焼きを掴んで食べ始めた。彼女の後ろに見える教室の窓に、朝よりも激しい雨がボタボタと打ち付けている。それが、彼女の全身を濡らしているみたいで、私は思わず目を背けそうになった。
その時、ふと窓の外に視線が釘付けになった。
「あれ、誰かいる」
教室からは運動場が見えるのだが、端っこに数人の女子生徒の姿があった。見れば一人の女子を取り囲むように四人の女子が立っている。その構図は、まるで「弱い者いじめ」をしている輩そのものだ。しかも、取り囲んでいる女子たちは傘をさしているのに、囲まれている一人の女子は傘を持っていない。ずぶ濡れの制服姿だ。
「本当だ。どうしたんだろ?」
穂花も気になったのか、後ろを振り返って運動場の方を見た。私たちは目を凝らして、彼女たちが何をしているのかを確認しようとする。
「あの子、2組の遠藤さんじゃない?」
「え?」
穂花の口からさらっと柚乃の名前が出たことにビクッと肩を揺らしながら、私はより深く彼女たちを観察した。確かに、囲まれている方の女子は茶髪の長い髪の毛が水を吸い込んで身体にへばりついている。身長も、ぼんやりと見える顔も、言われてみれば遠藤柚乃に違いなかった。
「どういうことなんだろう。あの傘をさしてる人たち、顔は見えないけどさっきちょっと見えたスカーフの色からして、3年生かな」
この学校の生徒は、学年によって女子はスカーフの色、男子は校章の色が違っている。女子のスカーフは1年生が赤、2年生が青、3年生が緑だ。
「本当だ、緑のスカーフ」
私も穂花に言われて傘の隙間から見える彼女たちのスカーフを見たが、間違いなく緑だった。




