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「ねえ、日和どうしたの?」
昼休みには4組の教室で一緒にお弁当を食べていた穂花から顔を覗き込まれてようやく、自分が唐揚げをお箸で掴んだままぼうっとしていたことに気がついた。
「ううん、なんでもない」
「なんでもなくはないでしょ。どこの世界に唐揚げを食べる寸前で固まる女子
高生がいるのよ」
「ここに」
「もう、日和ってば変なの」
穂花は自分のお弁当の白ごはんを口に運んだ。そういえば彼女にも、遠藤柚乃が消えた話をしていた。だとしたら、穂花も覚えていないのだろうか?
ねえ、遠藤柚乃って知ってる?
私が穂花にアプリのことで相談したの覚えてる?
「ねえ」
もぐもぐと口を動かすことに集中している穂花に、私は尋ねた。
「……神林のこと、本当はどう思ってるの?」
いま、本当に聞きたいのはアプリのことだ。遠藤柚乃を知っているかどうか。柚乃をもとに戻すべきか相談したことを覚えているかどうか。
でも、真正面からそれを聞く勇気がなかった。もし彼女の口から「知らない」という言葉が出てくれば、私は自我を保っていられなくなるかもしれない。
だからもう一つの気になっていることを聞いた。
土曜日に、穂花と神林と三人でカフェで過ごした時間を思い出す。息ぴったりの二人の会話を、帰ってから何度も反芻した。想像すればするほど、自分が二人の間に入り込む隙間なんてこれっぽっちもないんじゃないかって思えた。
「どうって、どういうこと?」
一点の曇りもない瞳が、私の目を捉えた。その目を見ていると、罪悪感に駆られる。私は彼女にこんなことを聞いて、何をしたいんだろう。
「そりゃ、好きとか、とういうの」
女子高生の会話なんて、ほとんどが色恋話だ。だから私が親友の恋愛事情について聞いたって決しておかしくはない。今までだって何組の誰それが格好いいだの話してみたいだの、散々穂花の口から聞いてきたんだ。
それなのに、胸に押し寄せるこの不安は何なのだろう。強く風が吹いて、荒波が押し寄せてくるような心地がする。走ってももう逃げることはできなくて、一瞬で波にのまれてしまいそうだった。




