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「へえ、誤解ってどんな?」
「それは教えない」
ケチ、と穂花が頬を膨らませる。神林が昔は根暗だったなんて。穂花の話を聞くと、今の彼からは想像もつかない。口数は少なくても、クラスのみんな神林のことを一目置いているような気がする。からかわれるなんてことは今後もないだろう。
「でも、神林の中では穂花だけが心を許せる相手だったんだね。そういうの、いいなって思う」
「たまたまだよ。家が近所だっただけ」
「もーひどいなあ。そういうときは、嘘でも頷いておくもんだよ」
むくれる穂花を尻目に、私は「もし穂花じゃなくて私だったら仲良くしてくれた?」と聞きたい気持ちをぐっと飲み込んだ。腹の底に落ちていく言葉たち。穂花が「どうかした?」と私の方に顔を向けたが、とっさに首を振った。
私たちはしばらく無言で食事を続けた。話しながら食べていたので、パスタはとっくに冷めてしまっていた。熱が覚めた分だけ、香ばしいパスタの味が際立って感じられる。
私たち三人はいま、微妙な距離感で互いの均衡を保っている。会話をしているときはみんなヒートアップしてそれぞれの真意を深くは考えないが、こうやって沈黙が訪れたとき、みんなの腹の底を探ってしまう。少なくとも私はそうだった。
ほとんど同時に三人がご飯を食べ終わった。お腹が膨れて一息つきたいところだったが、結構話してしまったのであと少し頑張らなくちゃいけない。
「もうちょっとだけやりますか」
「そうだね」
「おう」
英語の参考書を開き、耳にイヤホンを装着。英単語の音声が流れ始め、店内のBGMが遠のいていく。同時に、穂花や神林のことも頭からシャットダウンしようと努めた。
そうでもしなければ、目の前の問題に集中することができなかったから。




