51
「そういうこと言うのやめろよな。春山さんが困ってるだろ」
いや、困ってるのではなく恥ずかしいだけなんだけれど。
穂花はまたもニヤッと口角を上げて神林を見返していた。彼はいまどんな顔をしているんだろう。隣だからよく見えない。
「私的には、穂花と神林の方が付き合ってるように見えるよ。そういうの、ないの」
反撃だというつもりで、私は穂花を見た。
「へ? ないない」
と 、先に穂花が返事をすると思っていたのに、実際に否定したのは神林の方だった。
「それはないって。なあ?」
今度は穂花が気まずそうに目を伏せた。
あれ、なんだろうこの感じ。
天真爛漫な穂花がこの手の話にノリで返さないなんてことあるんだろうか。
「どうしたの」という言葉をかけることさえ憚られて、私はペペロンチーノをフォークで巻いた。ニンニクの香りが鼻から抜ける。家で食べるときよりも匂いが強く感じた。
神林も、思い描いた返事が穂花から返ってこないことに戸惑いを覚えたのか、無言で水をごくんと飲んだ。店内のBGMが夏を感じさせるポップな音楽に変わる。しかし反対に、私たちの間に流れる空気はちょっぴり重たかった。
なんとか話を続けようと、私は気になっていたことを聞いた。
「二人は幼稚園から知り合いなんだよね。子供の頃お互いどんな感じだったの?」
私には幼稚園いまも同じ学校に通っている友達がいないので、幼い頃からの付き合いというのに憧れがあった。
「穂花は変わってないな。ずっと何も考えてなさそうな感じが」
神林がおかしそうにニッと笑って告げた。
「えー、何それ! あたしだって成長してますよ」
「そうか? 幼稚園で友達におやつ盗られたとき、『野良猫が持っていったの
かな』ってへらへら笑ってまったく気にしてなかったの覚えてるぞ」
「だってその時はまさか誰かがあたしのおやつ盗っただなんて思わなかったん
だもん」
ムキになって反抗する穂花。ようやくいつもの彼女が戻ってきた。元気じゃない穂花なんて穂花じゃない。こっちの調子まで狂ってしまうから元に戻って良かった。
「いーや、いま同じことされても他人を疑わねーだろ。ま、そういうところがいいところでもあるけど」




