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神林は、私が泣き止むまで背中を撫でてくれていた。幼い頃から両親には厳しく育てられてきた。家の中で笑っていると「何遊んでるの。勉強しなさい」と怒られることもあった。 そのせいか表情が少なくなり、泣きたい時に思い切り泣いたこともない。
彼の優しさが、これほどまでにダイレクトに胸に突き刺さるなんて。
長い間枯れていた涙を出し尽くしたあと、私はゆっくりと顔を上げた。きっといま、ひどい顔をしている。目が腫れているのが分かった。
「気は済んだ?」
「……うん。ほんとごめんね」
「いやいや、春山さんが謝ることじゃない」
「ありがとう。柚乃はさ、私のせいで消えちゃったんだよね」
自分でも驚くほど素直に、“本当のこと”を神林に切り出していた。
「どうしてそう思うの? 何か理由があるんだよね」
私の話を完全に信じたわけではないはずなのに、神林は優しく問いかけてくる。
彼にアプリのことを話そうか、正直迷った。およそ現実離れした話に、彼がどこまで本気で聞いてくれるか分からない。
私は、真剣にこちらを見つめる彼の目を見た。瞳の奥に、一点の曇りもない。いまこの瞬間、彼は全身全霊で私の次の言葉を待っている。絶対に聞き逃すまいと、岩陰から獲物を狙うハンターのように息を潜めていた。
流れる雲を目で追いながら、私はようやく決心がついた。
「……信じられないと思うけど、いま私のスマホにおかしなアプリが入ってるの」
「おかしなアプリ?」




