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恋の消失パラドックス  作者: 葉方萌生
第三話 代償
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神林は、私が泣き止むまで背中を撫でてくれていた。幼い頃から両親には厳しく育てられてきた。家の中で笑っていると「何遊んでるの。勉強しなさい」と怒られることもあった。 そのせいか表情が少なくなり、泣きたい時に思い切り泣いたこともない。

彼の優しさが、これほどまでにダイレクトに胸に突き刺さるなんて。

長い間枯れていた涙を出し尽くしたあと、私はゆっくりと顔を上げた。きっといま、ひどい顔をしている。目が腫れているのが分かった。


「気は済んだ?」


「……うん。ほんとごめんね」


「いやいや、春山さんが謝ることじゃない」


「ありがとう。柚乃はさ、私のせいで消えちゃったんだよね」


自分でも驚くほど素直に、“本当のこと”を神林に切り出していた。


「どうしてそう思うの? 何か理由があるんだよね」


私の話を完全に信じたわけではないはずなのに、神林は優しく問いかけてくる。

彼にアプリのことを話そうか、正直迷った。およそ現実離れした話に、彼がどこまで本気で聞いてくれるか分からない。

私は、真剣にこちらを見つめる彼の目を見た。瞳の奥に、一点の曇りもない。いまこの瞬間、彼は全身全霊で私の次の言葉を待っている。絶対に聞き逃すまいと、岩陰から獲物を狙うハンターのように息を潜めていた。

流れる雲を目で追いながら、私はようやく決心がついた。


「……信じられないと思うけど、いま私のスマホにおかしなアプリが入ってるの」


「おかしなアプリ?」


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