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強い風が吹いて、ひゅっと私の髪を揺らした。だいぶ伸びた髪は、神林の顔にふりかかる。「ごめん」
「大丈夫」
慌てて私は髪の毛を耳にかけた。神林の息遣いが、先ほどよりも近く心臓の動きは余計に速くなる。視界に映るもくもくとした雲が、風に押されて流れていく。変わらないようで少しずつ変化していく空模様。二人の間を流れる空気も、彼と仲良くなる前とは違っている。
そこで私はようやく決心がついた。
「柚乃にいじめられてた。夢じゃない、現実で」
口にすると目尻から涙が溢れそうになって、私はまた膝に顔を押し付けた。やだ、どうして泣きそうなんだろう。しかも、よりにもよって彼の前で。
流れてくる涙を堰き止めるように強く膝に顔をあて、歯を食いしばった。
そっと、背中に温かいものが触れた。彼の手だった。その手は小さな子供が泣いているのをあやす時みたいに、ゆっくりと上下に動いていた。背中をさすられた私は、余計に溢れる涙を止められなくなる。こんなことになるなんて思ってなかった。彼の前で泣くなんて、格好悪くて情けなくて。耳の裏まで熱が上がっていくのを感じた。
「辛かったな。いまは泣いてもいいと思う」
泣いてもいい。
待ち望んでいた言葉がそのまま降ってきて、次の瞬間には声を上げて泣いていた。これまで自分が抑えていた感情が、一つの塊になって散らばっていく。屋上の隅々まで、空の向こうまで。




