37
「夢って、嘘だよね」
だめだ、泣きそう。
私は三角座りした膝に顔を埋める。「大丈夫?」という彼の声が頭上から降ってくる。嘘だなんて、そんなこと言わないで。「災難な夢だったね」って言ってくれれば良かったのに。 それでこの話を終わりにできた。
だけど、神林は話を続けようとしている。終わりになんてしてくれない。
「はは、なんでそんなこと言うの」
「だって、春山さんの顔見たら分かるよ。『気づいて欲しい』って顔してる」
「うそ……」
今度は私が「嘘」という番だった。
気づいて欲しい。
確かに私は、神林に本当のことを知ってほしかった。話したって絶対に理解できる内容ではないはずなのに、この人に嘘をつくということに、心が耐えられそうにないのだ。
ドクン、と心臓が大きく跳ねた。気がつけば彼の透き通るような瞳が私のすぐ隣にあった。さっきからずっとそばにいたはずなのに。この場に連れてこられる前の五倍は彼のことを考えてしまっていた。
「本当だよ。俺に嘘をつこうったって無駄だ。嘘が下手だね、春山さんは。だからもう諦めて話して欲しいんだけど。この前のことが夢でなければ現実なんだと思う。春山さんはそのユノって子にいじめられていたの?」
核心をつくその問いが、私をこの間みたいに逃げられないように捉えていた。どうしてこの男は、遠藤柚乃という記憶にない人間のことを、本当に存在したのかってすぐに納得できるんだろう。普通だったら「やっぱり夢じゃない?」と終わらせてしまうところだろう。




