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「あたしはさ、べつに元に戻らなくてもいいんじゃないかって思うよ」
「そうかな」
「そうだよ。だって、遠藤柚乃は日和のことをいじめてた人でしょ? その人のせいで、高校生活が台無しになって、日和が傷つくのを見るぐらいなら、あたしは全力で反対する。今の方が絶対平和じゃん。わざわざ自分から平穏を壊しにいくことないよ」
平穏。
それは、私が最も望んでいたことだ。
青春を謳歌したり、心が揺さぶられるほど傷ついたりする高校時代よりも、仲の良い友達となんでもない日々を送っていきたい。それに、穂花が言うことは最もだ。むしろ私が一番痛感していたこと。だからこそ、『SHOSHITSU』に遠藤柚乃の名前を入力した。そうでもしなければ、心が壊れてしまうと思ったから。
「ちょっと、考えてみる」
今すぐに答えを出すことのできない私は、いったん考えるのをやめた。いろんなことが一度に起こりすぎて、頭の中で収拾がつかなくなっている。
「おっけー。最終的には日和が決めることだから、好きにしたらいいよ。あたしは日和の選んだ答えなら全力で応援する」
ガッツポーズを見せて大袈裟に笑う穂花。彼女の優しさが、胸にジンと染みた。
「そろそろ帰るね。日和、疲れてるだろうし。明日は学校来られそう?」
「うん。この調子ならたぶん大丈夫だと思う。今日は本当に来てくれてありが
とう」
「いえいえ! 日和が困ってたらいつでも助けに来るよ」
穂花を下まで送り、私は玄関を開けた。笑顔で手を振る穂花は、晴れの空の下に去って行った。




