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『消したもの:星川学園2年2組遠藤柚乃』
『代償:彼女が飼っていた猫を奪うこと』
「代償……? 奪う?」
物騒なワードが目に飛び込んできて私は思わず「ひっ」と喉から声が漏れた。穂花も眉を寄せて不快な表情を浮かべている。
「これって、どういう意味?」
頭の中が疑問符だらけだということは私も穂花も同じだった。それなのに、聞かずにはいられない。アプリが示している言葉の意味を、私は知らなければならないと強く思った。
「代償って言うからには、消したものを取り戻すための方法ってことじゃないの」
「なるほど。“遠藤柚乃を取り戻したければ、彼女が飼っている猫を奪え”ってこと?」
「たぶんそうだとう思う」
導き出された結論はかなりシンプルなものだった。この世に存在する人間を消去するという大罪を犯したのだから、それを解消するにはそれなりの労力がいるということ。
言葉にするとすぐに理解はできるのだけれど……本当にそれで、遠藤柚乃は戻ってくるんだろうか?
いや、でもこのアプリの効果は本物だ。実際柚乃はこの世界から消えている。だから、代償だって本当に効果があるものだろう……と思う。
「それで、どうするの? 日和は遠藤柚乃の家が飼ってる猫を奪って、彼女を元に戻すつもり?」
問題はそこだった。
突然、「代償」などと言われても、すぐに実行できそうな内容ではない。遠藤家のペットを奪ってしまえば、少なくとも彼女の家族は悲しむだろう。そんなことをしてもいいのだろうか? 今この世界には柚乃はいないことになっている。家族からしても、そもそも存在しない人間に対して、返して欲しいなんて思っていないかもしれない。
「元に戻すべきだとは思う」
頭では理解していることを、ただ口にする。穂花は「はあ」とため息をつき、私の顔をじっと見た。真剣モードの彼女に見つめられると、私は蛇に睨まれた蛙の気持ちになる。その場から動けなくて、息をすることすら憚られる。心臓の音がやけに大きく響いて聞こえた。




