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「それがね……信じてくれるか分からないんだけど。というか、絶対信じられないと思うけど」
「うん」
私は充電器に繋いだままのスマホを起動する。かろうじて10%だけ充電がたまっていた。
「一昨日、穂花にこのアプリのこと話したよね」
「例の謎のアプリ?」
「そう。穂花と話した日の夜、このアプリにね、とある人物の名前を入力してみたの。今考えればそれが間違いだったんだけど」
「それって誰なの?」
穂花の目が、「早く続きを」と私に訴えかける。しかし私は、ここまで話しておいてその名前を告げるのを逡巡した。私の予想が当たっていれば、きっと穂花も「彼女」の名前を知らないと言うだろう。それが怖かった。
「……」
「日和」
「……同じクラスの遠藤柚乃」
カチ、カチ、と時計の針の音がやけに大きく響いて聞こえる。穂花の顔を恐る恐る見てみると、不思議そうな表情をしている。ほら、やっぱり。穂花は遠藤柚乃のことを忘れている。別のクラスの人間を知らないこともあるにはあるけれど、あいにく彼女には柚乃の嫌がらせのことを何度か相談している。彼女が柚乃を知らないなんて、ありえないのだ。
「穂花、遠藤柚乃のこと、知らないんでしょう?」
その場で固まっている穂花に、私はとどめの一言を放った。
大丈夫だよ。全部分かってたことだから。
穂花は何かとんでもない罪を犯してしまったかのように瞠目していた。
「いや〜、びっくりだね。あたしにもまだ知らない同級生がいたなんて!」
その場を明るくしようと無理に明るい声を出す穂花。私の肩をポンポンと叩く姿は、いつものテンションの高い穂花そのものにも見える。
「本当のことを言うとね、穂花は一昨日まで遠藤柚乃のことを知ってたんだよ。でも、一昨日の夜、私が『SHOSHITSU』に『遠藤柚乃』と入力した。そしたら次の日には柚乃は学校に来なかった。これって、アプリが柚乃を消しちゃったってことよね……? しかも、その場から消えたというよりは、最初からいなかったみたいになった」
「そんなことあるわけないじゃん」
「私もそう思ってた。でも、神林も他のクラスメイトも柚乃のこと本当に知らないみたいだった。だから穂花にも聞いてみたけど、やっぱり同じ反応で。何かの間違いだって思いたかったけど、どうやら本当みたい」
「……」




