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「驚かせてごめん。そんなつもりはなかったんだけれど」
「も、もう。びっくりしたじゃん」
最近、彼は私に話しかけてくれることが多い。ついこの間まで彼のひととなりを知らなかった私は、最近の神林のことを新鮮だと感じている。
「あ、昨日は上履き見つけてくれてありがとう」
本当は朝一番にお礼を言わなくちゃいけなかったんだろうけど、遅刻したうえに柚乃が消えるというおかしな現象に見舞われて、それどころではなくなっていた。
ようやくお礼を伝えると、神林はなぜか数回瞬きをして、「え」と漏らした。
「上履き……て、何の話だっけ?」
教室中の空気が止まったみたいだった。きょとん顔の神林は、こめかみをポリポリと引っ掻いた。私は彼の発言の意味が理解できずにその場で固まってしまっていた。
「……何の話って、ほら。昨日私が遠藤柚乃に隠された上履きを、神林が一生懸命探してくれたんじゃない」
「エンドウユノ……?」
神林は異国の言葉でも唱えるかのように、眉を寄せた。
「どうしたの? 教室の女王さま。柚乃のこと、忘れちゃった……?」
それ以上、知りたくない。
そう思いながらも、私は彼に言葉をぶつけることをやめられない。
「ごめん。それって誰のこと?」
それが、決定打だった。
私は耐えられなくなって、教室を飛び出した。昼休みがあと五分で終わるという頃だ。
神林は柚乃のことを覚えていない。演技でもなんでもなく、本気で困惑の表情を浮かべていた。たぶんそれは彼に限った話ではないのだろう。二年二組の全員が、柚乃についての記憶が抜け落ちている。聞くまでもなく肌で感じ取ることができた。




