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「てか、なんで春山さんが謝るの? なんも悪いことしてないじゃん」
春山さん。
彼は私のことをそう呼ぶのか。
思えば、彼に名前を呼ばれたのは初めてだ。ううん、彼だけじゃない。学校にはたくさんの生徒がいるはずなのに、まともに名前を呼んでくれたのは数えるほどの人間しかいない。
「そうだけど……。でも、私のせいだよ。ごめん」
「……」
彼は、想定外の人物からの謝罪に心底戸惑っているようだった。余計なことをしたかもしれないと、気まずくなった私は伏せた目で自分の足元を見つめた。汚れた上履きを、いますぐ綺麗にしたいという衝動に駆られる。だってこんなんじゃ、あまりに格好悪い。格好悪い私が、格好悪く男の子に謝っている。そんなの、耐えられないじゃないか。
「おっけー。この話はもうこれで終わり。あいつら、マジで意味わかんねーいじめしてるんだな。なんで春山さんみたいな良い奴にあんなことしたんだか」
それ、貸して。
彼は私の掌から、画鋲たちをかっさらって、カバンの中から取り出したプリントにそれらを包んだ。
「必要のないものなら、捨てちゃえばいいんだ。こんなふうに」
ほい、と彼が投げた画鋲入り紙屑は、見事に教室の後ろにあったゴミ箱にダストシュート。
「すごい!」
思わず歓声を上げてしまう私。
「まあ、これでもバスケ部だからさ」
「そっか。シュートだね」
「いま距離なら、確実にスリーポイントだな」
「神林って、スリーポイントシューターなの?」
「そうとも言う」
大人しいだけの男の子だと思っていた。
教室の中ではほとんど喋らない。声を聞いたことさえあまりなかった。
でも、今日の神林は違った。
彼が優しい心根をしているということが、口調や話の内容からよく伝わってくる。春の暖かな日差しのように、格好悪い私のことを優しく包んでくれる。




